第11話 森での日々、そして……

「さぁ……兄ちゃん、思いっきりの全力でぶつかってき」

「ああ、分かった………」

 俺は目を閉じて大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 その動作を数回繰り返し、体をリラックスさせてから、おへそ辺りに意識を集中する。

 すると、周囲の小さな石などが少し浮かび上がり、ピシッ…ピシッ…と音を立てては砕けていく。

「おおお……流石やな、まさかここまでとは」

 俺はゆっくり目を開け、自分の体を見る。紅いオーラを全身に纏っているのを確認して、リルへと向き直る。

「もう完璧やな……これでワイも心おきなく全力でやれるわ」

 リルはうんうんと頷き、紅いオーラを身に纏う。

 リルの身体強化は、限りなく自然で発動までの時間も早い。俺じゃまだそんなに早く発動することは出来ない。

「よし、さぁ……始めよか………」

 俺とリルは拳を構え、ただ静かに相手の動きを観察する。

 そして数秒後、お互い地面を蹴り上げて一気に距離を詰める。

「おおおぉぉっ!!!」

「ぎゅおぉぉっ!!!」

 俺とリル、二人の右拳がぶつかり合う。お互いに身体強化を使った本気と本気のぶつかり合いだ。

 地面には亀裂が走り、大気は震えている。

 流石はリルだ………リルとの修行で強くなったとはいえ、まだまだ真正面から打ち合うのは少々分が悪い。

「ええパンチやな兄ちゃん。ほな…これはどうや!」

「っ!?」

 互いの拳がぶつかる中で、突如俺の足元に魔法陣が現れ、岩の杭がせり出してくる。

 全く予備動作もなかったその魔法は、かつてリルと初めて戦った時にダメージを喰らったものだった。本来ならば、魔法には詠唱が必要らしいが、リルは平然とその過程を飛ばす。いわゆる、無詠唱魔法ってやつだ。

 あの時、俺は何も出来なかった。反応すらも出来ずにいた。

 だが、今は違う。

「……おおおっ!!!」

 俺はリルの拳を左に流し、地面から高速で伸びる岩の杭を踏みつけ、その勢いを利用して後方へと飛ぶ。

「……ふぅ………危なかった」

「うわぁ~まじかぁ……絶対避けれん思ってたんやけどなぁ……」

 リルは少し残念そうにしているが、ニコニコしながらそう言う。

「ちょっとばかし、兄ちゃんの成長速度見誤ってたなぁ…ガッハッハッ!」

「あの時とは違うんだ……なんたって、俺には良い師匠が出来たからな」

「嬉しいこと言ってくれるやないか。なら、そろそろギアを一段階上げよか」

 リルはそう言うと、体を覆う紅いオーラをより一層濃くする。

 身体強化魔法、アンリミテッド……段階を分けて使用可能なその魔法は、重ね掛けをすることが出来る。

 要するに、一倍から二倍、二倍から三倍という風に。

「さぁ……もう一ラウンドやろか」

 こうして俺はリルとの修行、そしてマグナに、この世界のことを教えてもらいながら日々を過ごしていった。



――それから二年が経ち、俺がこの世界に来て五年の月日が経とうとしていた――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る