半分の子供2
有沙の住むマンションの落し物置き場は、ロビーの目につく場所に設置されている。その日も有沙は例のサッカーボールを横目に見ながらロビーを通過した。買ったものを整理して一息つくと、ツイッターに通知が来ていることに気づいた。数日前のツイートにリプライがついている。元のツイートはこうだ。
「廃れた建築物2 モダン建築編」の319ページ
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我ながら、半端なことをしたとは思う。
苦労して調べた以上、何かしらの区切りをつけたい。でももし、この子供が自分にしか見えていなかったらどうしよう。だってそうじゃないか。こんな奇妙な写真が誰にでも見えるものなら、やはりどこかが差し替えられると思うのだ。
実生活での知り合いに安易に見せる気にはなれない。まして出版社に問い合わせたりする勇気はない。ネットで噂を流せば検証できるかもしれないし、もしかしたら新しい都市伝説の生みの親になっちゃったりしてしまうかもしれないけれど、ただの大嘘つきになってしまうかもしれない。そんなみみっちい思考がうかがえるツイートだ。
いや、そんなことはいい。問題はリプライの方だ。
このブログに同じ人の写真がありますね。
ttp://xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx
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アカウント名は「蛍光人参」、知らないアカウントだ。ツイートには「h」抜きのリンクがあるが、すぐ開く気にはなれない。相手もそれがわかるのか、ツイートにはリンク先のスクリーンショットらしい画像もつけられていた。民間のサッカークラブのブログ記事のようだ。記事の中の画像には確かに、例の子供と良く似た顔、よく似た服装の少年が写っている。ならばと画像の中の単語を拾って検索してみると、確かに大手ブログサービスのサイトが見つかった。
感心すると同時に、新たな悩みが浮かんだ。あの「蛍光人参」というアカウントは何者で、どのように返信すればいいのだろう。この問題に有沙は丸々一時間頭を悩ませる羽目になった。
悩みながら「蛍光人参」のアカウントの最近のツイートに目を通してみたが、特に変わった人物には見えなかった。漫画やアニメやゲームや日常のことを呟いたりリツイートしたりしているだけだ。リプライを頻繁にしている様子すらない。
どうしよう。どうやって調べたのかとか聞くべきなのだろうか。でも普通に考えて、偶然元から知っていたとかだよなあ。実生活に関わる情報とかだったら聞かれるのは嫌なんじゃないか。悩んだ末、引くほど無難な文章になった。
すごい!言ってみるものですね!
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投稿してしまったらもうしょうがない。後は野となれ山となれだ。クールダウンすると、それはそれで疑問が浮かんでくる。あの少年は何者なのか。有沙は、しばらく例のブログに目を通してみた。記事の中ではチームメンバーはあだ名で呼ばれていて、問題の少年は「かっきー」と呼ばれている。「かっきー」がクラブに所属していたと推定できるのは二十年前から十四年前ぐらい。時期は一致する。問題はなぜ「かっきー」が廃墟にいる写真が撮れられて、しかも本に掲載されているかだ。息をついてスマホのホーム画面に戻ると、ツイッターの通知が来ていた。再び「蛍光人参」からのリプライだ。
これは僕の兄なんです。二年前に事故で亡くなりました。
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いや、それは、さすがに……
「嘘だろう」
声が出てしまった。この際だれが聞いていようがいまいがどうでもいい。そんなわかりやすい話があるか。そんな自己申告を信じろというのか。何の証拠もないじゃないか。都合の良さに怒ればいいのか、微妙に綺麗に落ちない話に怒ればいいのか、もうわからない。
そんなわけで、すっかり気力の萎えたまま有沙の探偵ごっこは終わったのだった。サッカーボールはその後もロビーに残っている。
怪奇体験・リベンジ 青サンダル @blue_sandal
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