第30話:昔話と依頼
「大したものは出せませんが、どうぞゆっくりしていってください。」
ティーシさんの家に案内された私たちは、リビングでお茶を頂いた。従魔たちも一緒だ。
「美味しいですね、このお茶。」
前世で飲んだどのお茶よりもおいしい。いやまぁ前世で高級なお茶を飲んだことないから何とも言えないけどさ。美味しいのは確か。見た目は普通の緑茶なんだけど、かなり飲みやすい。あとなんか身体がポカポカする。
「それはそうでしょう。精霊樹の葉から作ったお茶ですし。」
「「ブッ!ゴホッ!ゴホッ!」」
突然ステラさんとミリアがお茶を吹き出した。何事。
「何吹き出してるのよ。失礼じゃない二人とも」
「ふふっ、良い反応をありがとう。」
彼はそう言いながら指を振ると、吹き出したお茶がフワフワと浮き出して、家の外へと出ていく。汚れは完全に綺麗になった。
「ケホッ!あ、アンナさんは冷静なのですね?精霊樹のお茶ですよ?」
「精霊樹がどんなのか知らないからね~、驚きようがない。何か凄いっていうのはわかるけどね」
「おや?てっきり飲んだことがあるものと思ってましたが、そういうわけではないのですね。ちなみに精霊樹というのは文字通り精霊が宿った樹のことで、森の奥深くに時折存在する樹です。それがさらに成長すると世界樹という樹になります。」
へー、何か凄いんだなぁー(脳死)
「ケ、ケホッ。失礼しました。折角の貴重なお茶を吹き出してしまい」
「いえいえ、いいんですよ。おかわりもありますので、よろしければどうですか?」
「あっ、そういうことなら是非。」
美味しくていつの間にか空になってたお茶をおかわりする。ステラさんとミリアも何だかんだおかわりしていた。
「あっ、あの!伝承だとティーシ様は三大魔術師の一人、マーリン様の弟子とお聞きしたことがあるのですが、本当ですか?」
「懐かしい名前ですね。えぇ、確かにそうですよ。」
「ミリアさん?ティーシ様はメディア様のお弟子さんという話ではなかったですか?」
「えっ?私はマーリン様の弟子という話しか聞いたことないですよ?」
「私の師匠はマーリン、メディア、ソロモンの三人ですよ。久しぶりにその名を聞きました。」
「「えぇぇぇーーー!!!!」」
「マーリンからは奇跡——今でいう魔法――を、ソロモンさんからは魔術を、メディア様からは錬金術を教わりました。」
「え、えぇ・・・、何かいまトンデモないことを聞きました。」
「あっあの!ティーシ様のお師匠さんはどんな方々だったんですか?」
「そうですね・・・マーリンは魔術に関しては天才でした。当時”マーリン以上の魔術師は後にも先にも表れることはない”と言われてましたし、今でも私はそう思います。なんですけど、真面目に動くことは少ないですね。イタズラ好きで、暇さえあればイタズラするような方でした。それこそイタズラするためだけにオリジナル魔術を開発したりとかしてましたから。ただ、そのイタズラとして作った魔術の中に非常に有用な魔術もたくさんあるんですよね。その最たる例が現式魔術ですね。その基盤となる技術を作ったのもマーリンですから。」
「えっ!?そうなんですか!?私は千年前に起こった人魔大戦の時に、人類が魔族に対抗するために多くの魔術師が集まって開発された物って教わったんですけど。」
「あぁ、それは間違ってないですよ?。現式魔術の基盤を作ったのは確かにマーリンですけど、彼にとってはお遊び程度の物でしかなかったみたいですから。そのお遊びを見て、新たな魔術形態を作ろうと言い出したのがソロモンですから。」
「ソロモン!!大戦の英雄ですね!!っていうかソロモン様ってマーリン様とも面識があったのですね!なんか歴史の裏側を聞いている気分でワクワクします。」
わかる。私もこの世界の歴史はよく知らないけど、歴史の生き証人からの話ってすごくワクワクする。
「ふふふ、私もこういう話をすることは余りないので楽しいですよ。丁度ソロモンさんの話も出てきたので、彼の話をしましょうか。ソロモンさんは何においても真面目な方で努力家でした。魔術に関していうと、マーリンには及びませんがそれ以外の誰よりも魔術を扱えていたと思います。マーリンが真面目ではなかったこともあって、当時もっとも優れた魔術師と言えばソロモンさんの名が上がることが多かったですよ。」
「おおおー!!さすが大英雄!あのっ!ソロモン様と言えば七十二柱の悪魔を従えていたと有名なんですけど、本当ですか!?」
ソロモン72柱はこの世界でも有名なのね。いえ、魔術があるこの世界の方がより有名かしら。前世はゲームで知ってるって人は結構いたけど、一般的かと言われればそうではなかったでしょうし。
「いえ、実際に従えていたわけではないですよ。ただ、その話の元となったものはありますね。ソロモンさんはメディア様と共に101体のホムンクルスを作成し、内100体はソロモンさんが、残り1体はメディア様が引き取りました。72柱の悪魔の元になったのはその100体のホムンクルスですね。ちなみに指輪は起動しないホムンクルスの保管場所であって、悪魔を従えるとかそういう効果はないですよ」
「ええええー!!!あれ違ったんですか!?って101体のホムンクルス!?しかも魔術師であり錬金術の祖であるメディア様との合作!?何か色々とトンデモない話を聞いてしましましたね。」
ステラさんは大いに驚き、ミリアさんは口をあんぐりと開けてポケッとしてる。口からお茶が零れてますよミリアさん。
私も凄い話を聞いたと思う。けれど私はこの世界の人間ではないし、元の言い伝えを知らないからそこまでの驚きはない。
「ふふふ、あれから千年以上たちましたからね。伝承と事実が異なるのは仕方ないですよ。では折角なのでメディア様についても話しましょうか。彼女は錬金術の祖と呼ばれる通り、錬金術という新たな魔術を開発した方です。知っての通り魔導具を開発したのもあの方ですよ。魔術以外に興味ないという方で、一人で買い物もいけないくらい世間離れしてました。
皆さんが知らなそうなとこでいえば、あの方は最後に転生の魔術を自身に使用してましたので、成功していればこの世界のどこかで第二第三の人生を歩んでるかもしれないですね。ちなみにソロモンさんも似たようなことをしていたようなので、もしかしたら二人ともこの世界で生を受けてるかもしれませんね。マーリンはまぁ、今もどこかで生きてるでしょう。嘘か誠か、世界の始まりから生きているとか言ってましたから。」
おお、何か凄い話を聞いてしまった。もしかしたらソロモンとメディアの生まれ変わりがこの世界のどこかにいるかもしれないのね。会えるなら会ってみたいね。
「な、なんかトンデモない話を聞いてしまいました。興味本位で聞いてみただけでしたのに、まさかこんな凄い話が飛び出てくるとは・・・。」
「三大魔術師の方々が姿は変われど今もこの世界にいるかもしれないって、何か凄いロマンがありますね。っていうかお三方とも同時代を生きていたっていうのが驚きです。どの時代を生きていたのかは人によって100年ほど差が出てきますから。」
「あの頃は大変でしたからねぇ。記録を残す余裕すらなかったですから。あ、お茶のおかわりどうです?」
すっかり空になったお茶のおかわりを頂き、みんなで一息つく。
「ふぅ、あぁ、そうだアンナさんにお話しがあったのでした。」
「私にですか?何でしょう?」
「アンナさんに世界樹の結界を解いていただきたくてですね。これは私からアンナさんへの依頼です」
「あ、あのっ、それ私たち聞いていいのでしょうか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。誰に聞かれたからと言って、それをどうこう出来る人はいないですからね」
「そっ、そういうものなんですね。」
「えぇ。本題に戻りますね。アンナさんに説いて欲しい結界は古式魔術で張られた結界なのです。」
「古式魔術ですか?それならティーシさんの方が詳しいのでは?現式魔術が出来る前から生きてるような口ぶりでしたけど」
「確かに私も使えますが、今回の結界を解くには四か所で同時に結界を解かないといけないのです。私ともう一人は確保してるのですが、あと二人足りなくてですね。それをアンナさんにお願いしようかと。」
「なるほど、残りの一人はどうするのですか?」
「一応方法は考えてますが、その前にあのオートマタの子、えっと「シュウです」そう、シュウさんは古式魔術を使用できますか?」
「えぇ、シュウは私の分身ですからね。身体を構成するのが魔法具だからなのか、私以上に扱えますよ。」
「そうですか、では受けてくださりますか?」
「いいですよ。しばらく暇なので。」
「ありがとうございます。報酬は・・・何か欲しいものありますか?特になければ金銭でお支払いしようと思いますが」
「うーん、お金はたくさんあるんですよねぇ。あ、錬金術を教えていただける方を紹介してほしいです。錬金術の本と設備は用意してるんですけど、まだ何も手を付けてないですし。あのオートマタだってただ手順通りに組み立てただけなので。ちょっと予期しないことが起こりましたけど。」
「なるほど、わかりました。では報酬はそれで用意しておきますね。出発は1週間後でお願いします。当日は朝9時に東門までお越しください。」
「了解です。」
依頼についての話が終わった後、ティーシさんの過去についてや魔術、錬金術について、魔法について等を夕方になるまで話し込んだ。そして気が付けば日が落ちてきたということで解散。シュウはブラック企業もビックリな24時間休みなくコキ使われる模様。私は家で優雅に食事をして風呂に入り、アドラーと一緒に寝た。
TS転生した少女は賢者になるようです。 雪乃大福 @naritarou_sinnabe
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