第29話:シュウのやらかし

 「はっはっは!B級とはその程度か!」


 うわぁ・・・どうしよう・・・、うん、見なかったことにしよう。


 「ねぇミリア、次どこ行く?」


 「わわっ!あの人凄い怪我ですよ!ちょっと待っててくださいね、彼を助けてきますので!」


 私の知り合い・・・どころか分身がやらかしたので見なかったことにしたかったのだけれど、ミリアは聖女らしく?吹き飛ばされてきた怪我人を治療しにいった。


 さすがに知り合いを置いてどこかに行くほど薄情ではないし、かといってここで待機するのもアレなので、支払いを済ませて私も店からでる。


 「ちょっとあなた!やりすぎよ!右脚と右腕が折れてるじゃない!」


 待って待っていつの間にかミリアがシュウに突っかかってるんだけど。えっ、どうしよう。


 「なんだよ腕や脚の一本や二本いいじゃねぇか!だいたい突っかかってきたのそいつだぞ!何でおれが怒られるんだよ!」

 

 「そうかもしれないけど、ただの喧嘩でしょ!ここまでやる必要ないっていってるのよ!」


 「なんだそりゃ、喧嘩っていうのは面子を保つためにやるんだよ。痛めに合わせないと面子保てねぇだろ。何言ってんだお前。」


 「あなたこそ何いってるのよ!」


 「う・・・うぅ・・・」


 ちょっ、ミリア!?怪我人を治療しにいったんじゃないの?怪我人ほったらかしにして何してるの?なんか凄い痛そうにしてるんだけど?


——また喧嘩か!?いいぞやれやれ!


——ひゅー!ミリアちゃん可愛い最高ー!


 周りの人は盛り上がってるし、あの二人の喧嘩も終わりそうにない。・・・しかたない。私が治療してあげよう。


 「神癒ディバインヒール


 私が知る限り、回復系魔術の中でも最も効果の強い9文字の超級回復魔法を使用する。いままでは技量不足で使えなかったけど、この間の錬金魔術で9文字もいけることがわかったから、今後はこれの出番も増えると思う。


 見る見るうちに男の身体が治っていき、痛そうにしてた顔が和らいだ。いまはただ眠りについているみたい。


 「ケイ!!大丈夫!?」

 

 彼を治すと、同じパーティの人と思われる冒険者の女性がこちらにやってきた。


 「この人の仲間かしら?怪我は治したわ。いまは寝てるだけよ。」


 「そ、そうなのね。良かったぁ。ありがとう。」


 「あっ、姉様!すみません、つい熱くなっちゃって怪我人をほったらかしにしてしまいました・・・って、えぇ!?骨折とか全部治ってる!?嘘でしょ!?」


 「おっ、アンナじゃねぇか。なんだぁ?こいつの知り合いか?」


 ・・・何このカオス空間。勘弁してよ。


 「とりあえずあなたはこの人連れてどっかで休ませてあげて。それじゃぁね。」


 「あのっ、何かお礼を!」


 「いらないわ。うちの馬鹿が迷惑かけたんだもの。」


 「姉様、そのバカに私は入ってませんよね?こいつのことですよね?」


 「おいおい、治療に来ましたぁとかいって、怪我人ほったらかしにしたお前のことだろ。な?」


 「はぁ・・・まぁ、あの二人は私の連れだから、あなたは気にしなくていいわ」


 「おう、嬢ちゃん。そういうことならうちの壁も直してくれねぇか?」


 次は誰と思って声がした方に顔を向ければ大柄で顔に傷がある男がいて、その男が指をさす方向には大きな穴の開いた冒険者ギルドの建物があった。


 「はぁ・・・あなたが冒険者ギルドの代表でいいのかしら?とりあえず落ち着ける場所に案内してくれる?この場にいたらいつまでも収集付きそうにないわ。」


 「おう、まぁ代表ってわけじゃねぇが、それもそうだな。ギルドの客間を使わせてやる」


 「さぁ、あなたたちも移動するわよ。」


 「えっ、姉様?私も行く必要あります?」


 「話をややこしくしたの貴方でしょ?少しくらい付き合いなさい。」


 「だってよー、はっは!」


 「シュウ、あなたも来るのよ。いえ、むしろあなたがあの穴の弁償するのよ。」


 「げっ!?なんで!?ぎぎ、おm、それっ、ずっ!」


 まだ文句をいいそうなシュウの身体の操作権を奪い、そのうるさい口を閉じさせる。


 「おっ、おう。とりあえず、来るでいいんだな。」


 「えぇ、面倒ごとはとっとと片付けたいですもの。」


 「そりゃ同感だ。着いてこい。」


 


 そしてギルドの客間に着いた私たち。客間の壁が完全に壊れてて、風通しのいい部屋になってるのはご愛敬。

 とりあえず当事者であるシュウに話を聞くことにしましょう。


 「で、なんであなたもいるの?」


 問題を起こしたのはシュウともう一人の男のはずなのに、何故か彼の仲間である女も一緒について来てた。


 「彼とは同じパーティですから。あっ、私はステラといいます。パーティメンバーが迷惑をかけたのに私がいない訳にはいかないでしょう。それに元々突っかかったのは彼ですから。」


 「遠慮しなくていいわ。どうせこいつが挑発でもしたんでしょう?ならこいつが悪いわ」


 したんでしょうというか、してたんだけどね。私はシュウと記憶を共有できるから、何があったかわかるわ。まぁ、それを言うのも変だから濁したんだけどね。


 事の発端は、明らかに町娘の恰好をしたシュウを心配した被害者の男性が、シュウに声をかけたところからよ。『おいおい、ここは可愛い嬢ちゃんが来るところじゃねぇぞ』ってね。それを受けたシュウは『その可愛い嬢ちゃんより弱いあんたがいるのはなんでなんだ?』って逆に挑発して、喧嘩が勃発。で、加減をやらかして思いっきり吹っ飛ばしちゃったってのがことの顛末。ホント何してんのよ。


 「いえいえ、B級にもなって実力を見抜けなかった彼が間抜けなのが悪いんですよ。」


 なんだけど、ステラはちょっと謙虚すぎるわね。人の親切をあろうことか暴力で返したシュウの方がどう考えても悪いんだけどね。


 「そうだそうだ!俺は悪くねぐへっ!」


 「黙りなさい。あんたが悪いわよ。」


 いまだに言い訳してるシュウの身体を奪って自分で自分を殴らせる。これで少しは静かになるでしょう。


 「と、いうことなんだけど、ギルドマスター?でいいのかしら。こういう時ってどうなるのかしら?」


 「それについては私の方からご説明いたします。」


 客間を用意してくれた人にどうなるのか聞こうとしたところ、扉を開けて眼鏡をかけたスーツ姿の美青年が入ってきた。何よりも特徴的なのはその尖った耳と、異様に整った顔。これぞエルフっていう感じの人。こういう場でなければナンパでもしてたかもしれないくらいに美しい。


 「おっ、マスター自ら出てくるとは珍しいこともあるもんだな。」

 

 「私にも色々あるのですよ。」


 「・・・マスター?」


 「えぇ、申し遅れました。私、冒険者ギルド学園都市支部のギルドマスターを務めます、ティーシと申します。よろしくお願いいたします。」


 あら、この人がギルドマスターなのね。ギルドマスターっていうと、歴戦の冒険者みたいな印象だったから、てっきりあのおっさんがそうなのかと思ってたわ。


 「えっ、あのっ、ガロダラさんがギルドマスターじゃないんですか?」


 「いや、何か勘違いされがちなんだが、俺はサブマスターだぞ?」


 「え・・えぇー!!!」


 そう思ってたのはどうやら私だけじゃなかったようで、彼女もまたその事実に驚いていた。


 「まぁ、こいつは魔術バカで、滅多なことじゃ表にでねぇからな。実態は会長職みたいなもんだ。」


 「失礼な。私も書類仕事はこなしてるではないですか。」


 「いやいや、あんた判子押してるだけじゃねぇか。全部おれに押し付けやがって。」


 「そんなことはないですよ。ちゃんと内容見てますもん。」


 「もんって、あんた幾つd「あ”あ”っ”!?何か言ったか小僧!?」いや、何でもねぇ。俺は何も言ってねぇ」


 ガロダラさんはティーシさんの地雷を踏んだようだ。顔が怖いおっさんも冷や汗ダラダラだ。年齢の話はデリケートだからみんなも気を付けようね。


 「ティーシ・・・ティーシ・・・ってあぁ!古樹の賢者様!魔術協会創設者の一人じゃないですかい!?何でそんな伝説の人がこんなところにいるのですか!?」


 ミリア曰く、私の目の前にいるエルフは伝説と呼ばれるほど凄い人らしい。てんぱって口調が変なことになってる。


 「あら、今もその名を知ってる方がいるのですね。てっきりとうの昔に忘れさられているものかと。」


 「いえいえ。まぁ、一般にはあまり知られていないでしょうが、私たち聖教会の人間にとっては救世主そのものです。私たちが忘れることはありませんよ。」


 「そうですか。聖教会の人間は相変わらずなのですね。」


 しかもミリアが所属する聖教会――そんなの初めてしったけど——にとっても英雄的な立ち位置の人らしい。確かにそういわれると何でそんな人がこんなところにいるんだって言いたくもなるわね。


 「さて、色々と話したいこともあるでしょうが、まずはこの件を片付けてしまいましょう。B級冒険者のケイには一か月間、こちらが指定する依頼を通常の半分の額で受けてもらいます。それとそこのオートマタにはこの大穴を3日で治してもらいます。」


 「あら、お金は払わなくていいの?こいつ頭は足りないかもしれないけど実力だけはあるから、こき使ってあげてもいいわよ。」


 「いえ、そk「ちょっ、待て待て待て、オートマタっていったか?こいつオートマタなのか!?」」


 「はぁ・・・何ですかガロダラ。あなたついに脳みそまで筋肉になったのですか?見ればわかるでしょう?」


 「いや、わからねぇよ!オートマタっていやぁあれだろ。等身大の顔のないノッペリした人形のことだろ?こいつはどう見ても人間だろ!」


 「彼を形作ってるのは神造の魔法具ですし、アンナさんのも使用されていますからね。そうなるのは当然です。」


 やっぱわかる人にはわかるものなのね。師匠も私の服が魔法具であることを簡単に見抜いてたし。奇跡っていってるのはあれよね。魔法のことよねきっと。


 「いやいやいや、説明を聞いてもわからねぇって!」


 「まぁ、そんなことは今はいいのです。とりあえず処分としてはこれでいいですか?」


 「俺はよぐっ「えぇ、私はいいわよ。こいつ産まれたばかりだからか、どこか抜けてるのよね。ビシバシ教育してやって頂戴。」」


 相変わらず文句を言おうとするシュウ。いつでも身体を奪えるのは楽でいいわね。元はと言えば私の魔法なのだし当然といえば当然だけど。


 「えぇ、責任をもって教育させていただきますね。ステラさんもそれでよろしいですか?」


 「はい、大丈夫です。ご迷惑をおかけします。」


 「はい、ではこの件はおしまいです。ガロダラ、後はよろしく頼みますよ。」


 「お、おうわかった。じゃぁ、シュウっていったな。ついてこい。」


 『ほら、さっさと行きなさい。』


 『はいはい、わーったよ。』


 そしてシュウとガロダラさんは部屋から出ていった。これから直ぐに作業に取り掛かるのだろう。


 「さて、邪魔者も消えたところですし、アンナさん。もしお時間あるなら少しお話しませんか?」

  

 あー、やっぱそう来るわよね。”賢者”って言われてたし、私のことも当然知ってるわよね。そもそも私は彼に名乗ってなかったのに自然に私の名前を呼んでたしね。


 「あのー、私も是非ご一緒したいのですけどいいですか?」


 「わっ、私も!私もティーシ様とお話したいですわ!」


 「私は構わないですがアンナさんはどうです?」


 「えぇ、いいわよ。でもちょっとここだと風遠し良すぎないかしら。」


 壁に大穴の空いた部屋で話を続けるのはちょっと・・・ね?恰好つかないし。

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