第28話:受験結果と一般的な魔術師

 「アンナ様。本日は魔術学園の合格発表の日ですがどうなさいますか?」


 朝食を摂っている途中、ニーナから合格発表があることを伝えらえた。そういえば今日だったわね。忘れてたわ。


 「ん、そうね。折角だし見に行くわ。特にすることもないしね。」


 「かしこまりました。」


 「俺は今日どうしたらいい?」


 何故か今日も女装してるシュウ。今日はスカートに襟付きシャツという恰好。男物の服買っていたわよね?・・・まぁ、その辺はニーナに任せてるからいいや。


 「シュウは今日も自由にしていいわよ。」


 「了解。じゃぁお小遣いくれ。昨日お金なくて何もできなかったんだよ。」


 「あっ、そういえばあなたアイテムボックス使えないものね。はいこれ。」

 

 「おう、ありがとう」

 

 昨日冒険者ギルドで売った魔物から得たお金の半分をシュウに渡す。


 「アイテムボックスも共有出来たら便利なんだけどね・・・」


 「流石にそんな都合よく・・・って出来たわ。まじか」


 私が何気なく愚痴った言葉がフラグとなったのか、本当に共有出来てしまった。何がどうなってるのやら・・・


 「・・・まぁ、神造ダンジョン産の魔法具だものね。そういうこともあるわよね。アイテムボックスの中に入ってるので使いたいのあったら言って。お金は無駄遣いしないでね。」


 「おう、わかった。じゃ、今日も外で遊んでくるわ。」


 「はーい、いってらっしゃい。」

 

 いつの間にか朝食を食べ終わってたシュウは家から出ていった。私も遅れて朝食を食べ終えた。


 「クゥー」


 朝食を食べ終えた頃、アドラーが私に甘えてくる。相変わらず可愛い。本当に最高。この子が生まれてきてくれて良かった。


 「ニーナ、合格発表って何時から?」


 「朝の6時から張り出されてます。なので、いつでも見に行けますよ。」

 

 「じゃぁ今から行ってくるわ。家のことは任せたわよ。」


 「行ってらっしゃいませ」


 既に結果が張り出されているようなので、アドラーを連れて魔術学園に向かう。ちょっと道に迷ったが、地図があったのでどうにか学園に着くことが出来た。学園前は予想通りというか、割と混雑してた。


―――だぁぁぁ!!落ちたあああ!!!


———やった!受かったわ!


———・・・フン!


———うぅ~~、落ちてしまいました~~、親に何ていえばいいんでしょうか~~



 学園前では結果に一喜一憂している人たちの声が聞こえてくる。そんな中、私は人ごみをかき分けて掲示板が見える位置まで進む。


 えーっと、A243はあるかなーっと・・・。おっ、あった。合格だね。何点だったとかは流石にわからないのね。まぁ当然よね。よしっ結果も見たし、ちょっと街をあ「姉様!!」・・・ん?


 「姉様!お久しぶりです!!」


 合格してたことを確認した後、人ごみをでて軽く散歩でもしようと思ったところで、先日の受験で知り合ったミリアに声を掛けられた。


 「ミリア、おはよう。一昨日あったばかりだから久しぶりは違うんじゃない?」


 「私にとっては久しぶりなんですよ!結果はどうでしたか?って聞くまでもなかったですね。姉様なら当然受かってますもの」


 「そんなこと言って落ちてたらどうするのよ。恥ずかしくて死にたくなっちゃうわ。まぁ受かってたけどね。」


 「姉様で落ちたら一体だれが合格できるんだって話ですよ!当然です!おめでとうございます!」


 「ありがとう、ミリアはどうだったの?」


 「私ですか?私も受かってますよ!ところで今日時間ありますか?」


 「ん?まぁ、今日は暇だけど?」


 「そうですか!じゃぁそこの喫茶店にでも行きません?美味しいケーキが出るところなんですけど!」

 

 「おー、ケーキ。それはいいわね。私ケーキ食べたことないのよ」


 「そうなんですか!?じゃぁ行きましょう!」


 この世界のが手前に付くけどね。前世ではもちろん食べたことあるわよ。この世界のケーキはどんなものかしらね。

 

 「ところで姉様の隣にいるのは従魔ですか?」


 「えぇそうよ。アドラーっていうの。アドラー挨拶して」


 「クゥ!」


 アドラーは右腕を上げてミリアに挨拶した。可愛い。何度見ても超かわいい。


 「アドラー様というのですね!とても賢いのですね!それに羽も綺麗ですね。カッコいいです!!」


 「クゥ!クゥーー!」


 アドラーは褒められたのが嬉しかったのか羽をパタパタさせた後、胸を張りどや顔した。


 「ふふふ、いい子ですね。」


 「そうでしょ?自慢の相棒よ。ところでその喫茶店って従魔も大丈夫なの?」


 「えぇ、大丈夫ですよ。私の使い魔も一緒ですから。ほらミンちゃん。おいで」


 「キュイー」


 ミリアがミンちゃんと呼ぶと、ミリアの首元から真っ白で真ん丸なハムスター?が現れた。


 「可愛いー!!とても可愛いわね!」


 「クゥッ!クゥッ!」


 「あいたたた、アドラー。別に浮気じゃないのよ。だからそんなに突かないで。あなたは可愛くてかっこよくて最高の相棒よ」


 「クゥー!!」

 

 「ふふふ、嫉妬深い相棒ですのね。っと、付きましたね。ここが私のオススメの喫茶店。その名も『魔術師の安寧亭』です!さぁ、入りましょう!」


 互いの相棒を紹介しながら歩いているうちに、いつの間にか目的の場所についたらしい。中は吹き抜けになっており、二階席もあるようだ。そして何より目に入るのは壁一面に保管された本。その次に所々に飾られている特徴的な杖、不気味な色をした花、宙に浮く本などが目に入る。中にいる客は魔術師然とした恰好の女性が多く、みな紅茶やコーヒーなどを飲みながら静かに本を読んでいた。


 「いらっしゃいませ。二名様ですね?」


 「はい、そうです。」


 「かしこまりました。ではこちらへどうぞ。」


 店員に案内されて窓際の空いている席へ。


 「ご注文はいかがなさいますか?」


 「姉様、この『甘味の魔術師セット』っていうのがオススメなんですけど、どうしますか?」


 「そうなの?なら私もそれにするわ。」

 

 「じゃぁこれを2つお願いします」


 「かしこまりました。少々お待ちください」


 注文を終えた店員は奥へと下がってゆく。


 「どうですかここは?」


 「そうね、魔女の図書館って感じの雰囲気ね。でも不思議と落ち着くわ」


 「魔女の図書館、言い得て妙ですね。確かに言われてみればそんな雰囲気です。沢山の本と一緒に毒々しいい草花とか骸骨とかも飾ってありますし」


 どうやらこの世界の魔女も前世と同じイメージらしい。言ってて、もしイメージ違ったらどうしようとか思ったけど、無事伝わって安心した。


 「そうだ姉様、魔術の実践試験はどうでしたか?」

 

 「どうってとても簡単だったわよ?各属性のボール系魔術を1分以内に発動するだけだもの。難しい要素はなかったわ。」


 「はぁー、やはりそうでしたか。」


 なになに、何か変なことあった?


 「姉様はご存じないのかもしれないですが、普通の人は魔術式を組み立てるのに時間がかかります。本来の制限時間は5分です。それにどれか一つの魔術を時間内に組み立てて発動できれば合格です。」


 「えっ?そうなの?私はウォートの弟子だから試験内容変わったってこと?」


 「恐らくは。ただ、問題はそこではないのです。全基本属性の魔術を発動したのが問題なのです。」


 「えっ?いやいや。魔術は古式も現式もどっちも術式を組み立てて魔力を流せば発動するわよね?そこに属性って関係あるかしら?」


 「大いにあります。一般に魔術師が扱える属性は1~2つとされてます。これは特級や賢者ほどの実力者でも変わりません。稀に三つ以上扱える人はいますが、それはかなり希少です。ちなみに現代の魔術師で全属性使えると公言してるのは魔術協会の会長アルフォンス様のみ。過去を遡っても、全属性使えたとされるのはマーリン、ソロモン、メディアの3人のみ。いずれも歴史に名を刻む英雄たちです」


 マーリン、ソロモン、メディアって地球の偉人たちと同じ名前じゃない!って、そういえば私って地球だとゲームのキャラだったわよね?じゃぁやっぱりこの世界はそのゲームの中なのかしら?・・・情報が少なくて判断つかないわね。もっとあのゲーム、えぇっと名前なんだったかしら・・・・そう!アナザーワールド!それについて調べておくべきだったわね。


 「姉様?どうなさいました?」


 「はっ!、いや何でもないわ。何でそうなるのかなーって考えてたのよ。だって術式さえ組み立てられれば発動できるじゃない?そこに属性って関係あるのかなーって。」


 「確かに、姉様のおっしゃる通り、はそうなるはずです。なのに実際はそうならない。何でだと思いますか?」


 「何でって・・・、今の話から察するに人によって扱える属性が異なるとか?」


 「そうです。そう


 「そういう言い方するってことはよくわかってないの?」


 「そうですね。同じ属性を扱える人同士でも使える魔術が異なる場合もあるので、厳密には魔力と魔術間に相性があるのでは、と言われてます。それが最も顕著なのが属性なんです。受付で魔力検査と称して水晶を使ったじゃないですか。あれでどの属性と相性がいいかを判定してるんですよ」


 「ふ~ん、そういうものなのね。術式さえわかれば使えるものだと思ってたわ。今までがそうだったし。」


 「それ、絶対に他の魔術師の前で言わないでくださいね。ものすごい嫉妬されますから。殺しに来る人もそこそこいると思いますよ。」


 「そ・・・、そうなの?」


 ”そこそこ”いるのね。ごく稀にとかじゃないのね。気をつけましょう・・・。


 「そりゃぁそうですよ。賢者や特級魔術師でも全属性使えないんですから。全属性を扱うのは魔術師にとって一つの夢なんですよ?それを何の苦もなく使えるとか言われたら何されるかわかったものじゃありません。」


 「そ・・・そうなのね・・・」


 師匠が私をいじめてきたのって、負けた云々じゃなくてその八つ当たりも含めてたってこと?じゃぁ師匠が使った異なる性質を持つ火ってあれも火属性ってこと?

 ・・・また八つ当たりされそうだから聞くのやめときましょう。・・・殺されるのは嫌だもの。


 「お待たせしました。こちら、甘味の魔術師セットになります。」


 丁度話に一区切りついたところで、注文したものが届いた。セットの内容は前世と同じようなショートケーキと、紅茶。更にアドラーとミンちゃん用のケーキと紅茶も一緒に出された。サービスが完璧すぎる。

 

 しかも、出されたのはただの紅茶とショートケーキじゃない。紅茶から湧き出てる湯気はアドラーの形をしているし、ショートケーキに乗っかってるイチゴはミンちゃんの形をしていて、どちらも生きているかのように動いている。なにこれ凄い。


 「どうです?ここの紅茶もケーキもとっても美味しいんですけど、従魔や使い魔を連れてるとこんな感じに作ってくれるんですよ!」


 「えぇ、凄いですわね。可愛すぎて食べる気が失せてしまいそうです。」


 「クゥークゥー」


 「ふふ、アドラーもビックリしてるわ。」


 紅茶の上で動く小さな自分と、小さなハムスターに驚いてるアドラー。可愛い。


 「ふふふ、可愛いですわね。うちのミンちゃんなんてそんなの気にせず食べてますよ。ほら。」


 ミンちゃんの方を見れば、『所詮は食い物』という感じでもくもくと食べてた。彼女にそういう完成はないようだ。


 「さあ、私たちも食べましょう。残しては勿体ないですから」


 「それもそうね。じゃぁ、早速、パクッ・・・・んーー!美味しい!!」


 なにこれ凄く美味しい。濃厚な生クリームとほのかに甘酸っぱい苺の味がスポンジで綺麗にまとまっていて、くどくない。これなら幾らでも食べられそう。ハッキリいって前世で食べたケーキよりも美味しい。


 「とても美味しい・・・。紅茶も美味しいわね。ケーキを食べた後に飲むと凄くいいわ。何度でも食べに来たくなりますわ。」


 「ですよね!私もそうなんですよ。紹介して良かったです。昼間は結構混むので、来るなら朝方が静かでオススメですよ。」


 「こんだけ美味しいんだもの。混むのも当然だわ。」


 


 「ふぅ、美味しかったわ。」


 「気に入っていただけたようで良かったです。」


———ドオオン!

 

 食事が終わり、そろそろ外に出ようかということろで外から爆発音がした。


 「えっ?何?」


 「あー、冒険者の喧嘩みたいですよ。偶にあるんですよこういうこと。姉さま、あそこです。」


 「はっはっは!B級とは程度か!!」


 なるほど、冒険者の喧嘩か。ファンタジーならお決まりといえばお決まりよね。そう思いながらミリアが指さした方を見ると、シュウが暴れていた模様。何してんのよあいつ・・・

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