第47話 偵察フクロウからの情報
『家が結界だった』
魔術師も存在しない国で結界の役割を担っていたなんて信じがたいことだ。そもそも、お父さんもお母さんも『結界』という言葉を一度も口にしたことはない。
「現場に行かないと詳しいことは分からないが、イーナのその特別なスキルはデンガー国で呼ばれている『死の森』の中でも生き抜いたから開花したのではなく、生まれつき特別な才能を秘めていた可能性がある。そのスキルはご両親から受け継がれていると」
「居酒屋経営の両親が?」
私の知っている両親は気のいい居酒屋を営む夫婦。何か特別な才能を持っているのを一度たりとも感じたことはない。
「素性を隠して一般市民として生きていたのかもしれない。それが、親友一家の欲が無実の市民を闇に葬るだけでなく、一国の国内の秩序やバランスまでも崩すという事態になった」
「さすがに話が大きすぎるような……」
「いいや、私のフクロウが言っているのだから間違いはない。しかもエースのフクロウだ」
ご主人様から『エース』と言われて嬉しいのか、フクロウがホォホォと高い声で鳴いた。
「いたって普通の両親でしたけど?」
「他の人とは違う才能があったはずだ。例えば、ハーブ酒の作り方が他の店とは違うなど」
ビヨルンに指摘され、記憶を辿ると『これを飲むと早く疲れがとれる』『ここのローズマリーとラベンダー入りのパンを食べると満腹感が続くから不思議だ』と常連客の人たちの会話が蘇ってきた。
「看板商品はたしかにありました。常連さんが『他の店のハーブ酒なんて飲めない』なんて冗談めいて注文していましたけど」
「店で出していた料理や飲み物にも人々を守る力が作用していたのかもしれない。とにかく、イーナとご両親と家がなくなってから急速にデンガー国が劇的に変化しているのは事実だ」
「変化?」
「そうだ。信じられないくらい衰退している」
デンガー国は地理的にも周辺国の人が集まりやすく、街の中心には毎日のように市が立ち多くの人が品物を求めてごった返していた。
衰退していると聞かされても、知っている街の風景しか思い出せない。
「衰退だなんて……」
「王宮には人はいる。兵士たちが時間交代で出入りをしているが、フクロウが他の鳥に聞いてみたところ穀物の袋が大量に消えて大騒ぎになっているらしい」
「えっと、鳥と会話してというのもすごく気になりますが、王宮から穀物が消えている?」
警備が厳しい王宮内部で穀物の袋がなくなるなんて普通ではあり得ないことだ。見張りをつけても犯人を捕まえられないなんて……。まさか、背後に魔術師が隠れている?
「穀物が不足すれば食べ物に困り多くの人が飢えてしまいます!」
「遅かれ早かれ王宮時代も食べ物に困るだろう。だが一般市民の方が賢いようだ。国を離れてどこかに消えた」
「……消えた?」
「あとメインストーリーから人が消えている。店も軒並み閉店し市も出ていない」
街から人がいなくなるなんて、みんなどこに移動しているのだろうか? まさか、その一部は隣国のフォスナン国に移り住もうとしている?
デンガー国がフォスナン国を攻めようとしていることをすぐにでも知らせたい。
「国から人がいないということは、周辺国に移動していることになりませんか……」
「普通はそうだが、隣国へ移動しているのはごくわずか。引き続き偵察フクロウにデンガー国内の調査をしてもらう予定だったが、商人らしき一行がテントスの川沿いの道を北上している。彼らを追跡することに予定を変更させた。どうも我が国に移り住む気のようだ」
「商人の一行だけですか……」
仕立て屋のおばさん、市場の真ん中で布を広げて金細工の美しい指輪やブレスレットを売っていた老夫婦。
目をつぶれば賑やかな街の情景が浮かんでくる。けれど、ビヨルンの話では一気に国が廃墟と化している。その原因が私たち家族を追いやったから、と。
現実を見ないと信じることが出来ないが、パーティーに潜り込む理由がこれでまた増えてしまった。
お父さんとお母さんは結界の守り主だったのだろうか。ハリス夫妻は何かを知っていたのだろうか……。
「とりあえず、距離的に明日その一行に会えそうだ。彼らに話を聞けば何かが分かるかもしれない」
「でも、それってデンガー国のスパイとかじゃないですか~?」
ビヨルンがテントに戻ってきてからは静かに縫物をしていたムーンガラージャが突然口を開いた。
「本当は消えた人の行方も探したかったのだ、そのことも考えてフクロウに後をつけさせていた。」
「ビヨルンさんのフクロウさん、昼も活動できるんですか!?」
「特殊なフクロウだからな」
フクロウが昼間飛んでいたら目立つはずだが、何かしらの術を施して見えにくくしているのかもしれない。それにしても、あのフクロウはいつ寝ているのだろうか。
「それで、どうしてスパイではないと分かったんですか~」
「デンガー国の軍師を批判をし、友人家族の不幸や街の衰退を嘆いていた。運送業を営んでいるようで、街が衰退すれば荷物を運ぶ仕事も激減する。フォスナン国にいる古くからの商売仲間のつてを使ってこちらに向かっているようだ」
デンガー国の運送業……。
「もしかしたら、もしかしたら、キャロンさん?」
運送業かつモルセン家の不幸を嘆いてくれるとなると、キャロン運送業のご夫婦しか考えられない。
「あら、お知り合いの方でしたか? 本当なら涙の再会を果たしたいところですけど……」
「そうだな。ムーンガラージャの言う通り、イーナが生きていることがバレてしまうと厄介だ。商人の一行と話をする時は隠れていた方が良いだろう」
キャロンさんたちから聞きたいことは山ほどあるけれど、ここは我慢するしかなさそうだ。
ご夫婦には小さい頃から可愛がられ、我が家のハーブ酒を毎月2本瓶ごと購入し家でも飲んでいたくらい『アリアナ』を愛してくれていたお客さんだ。
たしか武術に長けた息子さんがいたはずだけど、跡を継がずに軍に入隊したと誇らしげだけれど少し寂しそうに話していた姿をよく覚えている。
「運送業の一行からデンガー国の変貌の噂を聞いているが本当か、と探りを入れてみよう」
「あと、パーティーの話も聞いてみません? デンガー国から呼ばれた一座なんですけど本当にパーティーに参加しても大丈夫なのか、と。だって食糧が消えているのに御馳走が並べられるか不安です!」
食べることが大好きなムーンガラージャが本気で心配している。一方で、国力を示す場で貧相な料理を並べるのはプライドが許さないだろう。
「どんな料理が出されるかは気になるな。それにパーティー開催はどこの国でも噂話の格好のターゲットになる。思いもよらぬ話が聞けるかもしれないぞ……」
大親友に裏切られた私は公爵でもある魔術師に頼まれてハーブ栽培をしたら女軍師としてヘッドハンティングされ溺愛?~死の森に放置されたけど逆にスキル開花で人生好転する模様~ none-name @kameko888
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。大親友に裏切られた私は公爵でもある魔術師に頼まれてハーブ栽培をしたら女軍師としてヘッドハンティングされ溺愛?~死の森に放置されたけど逆にスキル開花で人生好転する模様~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます