お地蔵様の詩

ハルカゼが わたしをなぜました

わたしは さいごのちからを ふりしぼって

このうたを たくしたのです……











わたしのまえを おとこのこが

かけぬけます

黄色い帽子が 優しくひかりました


わたしのまえで おとこのこが

転びました

だいじょうぶ だいじょうぶ いたくない


いつだったでしょうか

こうして なぐさめたことが

あった気がします


おんなのこでした たしか

30こまえの 春

逃げてゆく犬をおいかけて

ころんで


犬はふりかえって

泣き出したおんなのこに

よりそいました

ぴたっと



気が遠くなってきました



わたしのあたまに

花の冠を そっとおいた

おばあさんがいました

おばあちゃん! お地蔵さん、うれしいかなぁ?


孫もいました

ええ うれしいですよ

楽しいかなぁ、きれいかなぁ?

ええ たのしいし、きれいです


おばあさんが わたしの代わりに

答えます。

てをつないで スキップして

孫の子は帰ります



わたしが ある大嵐に負けて

たおれ

ころがってしまったことが

ありました


会社帰りの

スーツの忙しそうな人が

前を上下に

すぎてゆく


ちょっとして

その人が 

ふくざつそうな かおをして

戻ってきました


あせをたらして

ええいと わたしをおこし

ハンケチをだして

やさしく ふいてくれました


そして てをあわせて

いっしゅん 祈って さってゆく

わたしは その人の幸せを

祈ることしか できません



わたしの前に トラックが

一台

止まります

なにものっていません


あせだくの 男の人が

そっと

わたしをおがんでから

わたしをもちあげます


どん トラックに乗ったとき

わたしは これが

最期の旅だと

さとりました


さいしょでさいご

わたしは世界を

みてまわりました

なんて広い世界


大きな山 果てしない道

石の建物たち

でもそこに 木や虫……

人以外は いないのです



もうそろそろ 終わる頃ですか



わたしは 全てが終わった

この場所に やってきました

運び手は わたしを どんと

放り投げます



最後は誰だって 一人なんです



わたしという存在が

うすれていく この

ふしぎな あたたかさ

はすの池に うかんでいるような


わたしは 気付きました

わたしは 幸せであったと

人々の 完全でない中に 見える

愛おしい 煌めきが



美しい かがやきが








お地蔵様の詩

ハルカゼ

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せいれいたちの詩 木結 @kiwomusubeyo

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