幼稚な神様、スタディ中
神谷モロ
幼稚な神様、スタディ中
「皇帝陛下、万歳万歳万々歳]
「うむ、くるしゅうない」
35歳にして僕は皇帝になった。
しかしそれは重要ではない。僕は神なのだから。いや正確には神だったというべきだろう。
今は、謹慎中というか、神の資格を失ったのでそれの免停講習といったところだろう。
かつて僕は、自分の世界を想像して神として君臨していた。
いろいろやったが。異世界から勇者を転生させたのが失敗だった。
「くそ、なんて勇者だ、せっかく僕の世界に転生させてやったのに、しかも
おっと、感情の高ぶりで声に出てしまったか。皇帝とはいえ人間の身体は不便なものだ。
感情のコントロールができないとは未熟な生命体と結論せざるを得ない。
宦官どもめ、今びくっとしたな。そんなに僕が怖いか。
「おい、僕が、いや朕が神だといったらお前は信じるか?」
宦官はまたかといったような半ば呆れたような表情で言った。もちろん面には出していないがそう思わせる雰囲気は察しが付く。
「はい、陛下はまさしく天命を授かったお方、神だといえるでしょう」
天命か。そればかりだ、僕をこの世界に飛ばしたやつの顔が浮かぶ。
――時は遡る。
ぐああ、僕は神だというのに。殺された? 死んだのか? この僕が?、いや、神が死ぬわけないだろう。
しかし、今の僕はなんだ。なんの権能もない。身体もない。思考すること以外、何もできないぞ。
おのれ、勇者め。僕が転生させてやったのに。許せん。どうしてくれようか。
しかし身体がない。
…………。
……。
身体がない以上、勇者には何もできん。
だがしかし、勇者の元居た世界の神にクレームをつけてやるくらいはしないと気が済まない。
僕の意識は宇宙をただよう。
意識だけはどこにでも行けるようだ。
まあ身体がないのだから当然といえば当然か。
地球、この星の日本という国からやつの魂を拝借したのだったな。
日本という国の管轄する神はたしか女だった。
「おい、女神、クレームだ、お前の国の勇者は酷いじゃないか! 謝罪と賠償を要求する!」
そう言うと女神は僕を見てニヤッと笑った。まぶしい、光りすぎだ、僕に神様アピールをしても意味ないだろうが。
「おや、神なのに死んでしまうとはなさけない」
「うるさい! これはクレーム案件だぞ! あいつはとんでもないモンスター勇者だ! せっかく与えた能力で僕に牙をむいたんだ」
この女神は笑いながら答えた。くそ、馬鹿にしやがって。
「ふふ、そんなあなたはモンスター神、ゴロが悪いですね、モ神でいいでしょう、もがみで。それに我がはらからを勝手に拉致したことに謝罪はないのですね」
それから、女神はややまじめな表情で。それでも笑いをこらえているのは分かる微妙な表情で説教を始めた。
あれ、おかしい、僕が間違ってたかのような結論に誘導尋問されてしまった。
怒りがおさまらない。この星には神はたくさんいる。こんな島国の女神にあれこれ言われて納得できるか。
大体あの勇者のいた国の神など、勇者に肩入れするに決まってる。我が子可愛さというやつだろう。
ということで色んな大陸の神にも僕のクレームを聞いてもらうことにした。
……失敗だった。どいつもこいつも僕のダメだしばかりする。
「お前の失敗はあれだ、直接関わりすぎだ。そこらの見どころのあるごろつきに天命を授けるだけでよいのだ」
「そうよ、湖なんかで優雅に過ごしながら、イケメンの騎士様がきたらちょっと強めの剣を授けるくらいでいいのよ」
「そうだぞ、預言者なんかを任命して、使えるのか使えないのか分からない程度の力を授けるだけでよい。お前は与えすぎたのだ」
「それにお前は神殺しの可能性を疑いもせずに接触したのもダメだ。代理人を置くことが大事だ。例えば見どころのある女に自分の子供を孕ませればよい」
言いたい放題いいやがって。
「まあまあ皆さん、彼も悪気があったわけじゃないのよ。でも……ぶふっ、自分でゲームの神様とか名乗って勇者にゲームのルールで殺されたんだっけ?」
なにも言えない。そうだ、やつに授けた
「ゲームねぇ、そうだ、あなたのことは遊戯って呼びましょう、モガミ・ユーギ……ぶふっ、案外ありそうな名前ね。私のセンスに感謝なさい」
「僕に名前を付けやがったな!」
「まだわからぬようだな。名前を付けることでそなたは彼女の眷属として再び命を得ることが出来るというのに、彼女はお前にある程度同情しているのだ」
まあ、それは知ってるが、あいつの眷属になるのが嫌なだけだ。
「しかし、お前はまるで理解していない。ここはひとつ、我が支配領域で実習といこうではないか。
天命を授かる人間をその目で見て実感するとよい。そうだな皇帝の子として、お前は何を見て何をするのかを考え、実践すれば学びも多いだろう。
丁度、時間を司る神もいるし過去で学び今に役立てるがいい。安心しろ多少の過去改変は多めに見てやる、我が領域はそれくらいは受け入れる度量をもっているからな」
偉そうな神がそういうと、僕は地球人として生を受けた。
僕はどうやら軍人の次男で、名前はコウというらしい。
この国は絶賛戦争中だった、呆れたもんだ。この国はくっついては分裂しての天命のバーゲンセールな状態だ。
こんなんで学ぶことはあるのか。まあいいさ。せっかくだから真面目に生きてみるか。人間になるのも初めての経験だしな。
父が皇帝になった。安っぽい天命だが一応の平和という事だろう。随分と内乱が続いたからいろいろと大変だ。
しかし俯瞰して見る限りこの国は危ういな。
天下統一したというが、実際は内乱を収めただけで周りは敵だらけだ。
それに兄貴はちょっと女遊びが過ぎる。僕はいい子にしてるというのに。
あれはよくない。この国の為に兄貴には退場してもらうか。
そんなことがあって。生まれて35年はたったか。
しかし、酷い国の皇帝になったもんだ。この国は戦争しか頭にないのか。想像以上に地獄じゃないか。
政治がなってないし食糧事情もよくない。どいつもこいつもまるでなってないな。
よし、ここは神として。ダイナミックな統治でもしようじゃないか。
…………。
……。
「あ、ユーギ君帰還しました」
「どうしてこうなった。僕は歴史的な偉業を残したというのになんだあの扱いは! クレーム案件だ」
酷い扱いだ、皇帝である僕に反逆するとは。
食糧事情を解決するために運河の工事は必須だろうが。それも急ピッチでやる必要があったのにあいつらは文句ばかりで。
だいたい、二度や三度の戦争で負けたくらいでこらえ性の無い。四度目に勝てばいいのだ、それなのに……
「ふふふ、少しは学んだようだな。人の営みを知れてよかっただろう。
ちなみにアフターケアはしておいたので安心しろ。いい感じのやつに天命を与えておいたので、お前はいずれ再評価されることだろう。
さてと採点するとだ。君の態度は実によくない。まるで自分が神であるかのような振舞いだ。それでは天命は移るだろうよ」
ち、何も言えない。周りの人間はビビりまくってたな。罪人に対して少し寛容になるべきだったか。すぐ処刑はやりすぎたな。
しかし嘘ばかりつくあいつらが悪い。庶民共はすぐに嘘をつく。
「さてと、君は支配者としての苦しみは理解できたようだな。だが庶民の気持ちはまるで理解していないようだ」
「なら今度は私の支配領域で実習してもらいましょう。
戦時下で、庶民の子としての苦労を味わってもらいますか。しかも今回は女の子ですよ。あなたの暴君っぷりで大変迷惑した女性がたくさんいたので。
今度は自分がその立場に立つことはとても勉強になるでしょう」
遊んでやがるな。だが少し楽しくなってきた。学びが多いし神だったころよりは全然充実しているといえるかもしれない。
よし、今度は清廉潔白な良い人間を目指すぞ。
…………。
……。
「あ、ユーギ君帰還しました」
「……おい、火あぶりにされたぞ、頑張って祖国の為に戦ったのに酷くないか? 今回は清く正しい行いしかしてないし。
それに神の存在はぼかしたぞ、啓示を受けたとかそんなニュアンスでやったのに、クレーム案件だ!」
「……ユーギ君、わたし泣いちゃいました。見てください、あなたの活躍は世界中に知れ渡ってます。特に我が国では漫画、アニメ、ゲームで大活躍ですよ」
「うむ、私も涙なしでは語れない。君のことは聖人にするようにお告げを授けておいた、安心しなさい」
清廉潔白な人間でもだめなのか、少し小賢しく生きることも重要か。
「あ、そうだ、次は私の国でやってみましょう。ユーギ君は私の子にやられたんでしょ? せっかくだし体験してって頂戴な、自慢だけどいい国よ?」
…………。
……。
「あ、ユーギ君帰還しました」
「おい、兄貴に殺されたぞ。クレーム案件だ!」
「だ、大丈夫よ。ちゃんとあなたのファンはいるから、どっちかっていうとお兄さんのが悪い的な感じになってるから元気出して」
なにがいけなかった。こうなると意味不明だぞ。それにやはりこいつらは僕をおもちゃにして楽しんでるな。
間違いない。僕だって同じ立場ならそうするからだ。まったく神とは碌なやつがいない。
「さあ、次はなにがいいだろうか、そうだユーギよ、今度は君がリクエストしてみなさい。ハッピーエンドになるまで頑張ろうじゃないか」
自分の世界に帰りたい……神でなくてもいいから。今度はうまくやるから。もう勘弁してくれ……。
幼稚な神様、スタディ中 神谷モロ @morooneone
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます