抜け出せない幻影、或いは一つの失恋

なごみ

嫌いになったこと

 ──私があの子と別れたのはきっと、性格が合わないとか、そんな理由の他にもっと重要なものがあったように思われる。

 異変を感じたのは、いつだったか。とても些細なことだ。SNSのアイコンが変わっていた、只それだけ。かつての謎キャラから顔を隠した女性のものへと。

 その時は訳もわからず、不快感を感じるばかりの自分に困惑したものだ。

 そして、いつの間にか、一人称すらも変わっていた。ぼく、おれ、から私、へと。

 何か失ってしまったような気がした。

 最後はそう、二人で出かけた時だ。そのはずだ。

 駅の前で佇む、私の前に姿を現したのは美しい彼女。髪型は流行りのものへとしっかり整えられ、しっとりと落ち着いた、どこかで見たような服を身に纏って。

 メガネに隠されていたはずの透き通った瞳は、惜しげもなくされされている。覗き込んでも、きっと私はいないのだろうと、奇妙な確信があった。

 かちりとはまった。受け入れまいと叫ぶ自分がいた。それでも、分かったのだ。理解ってしまったのだ。

 愛しかったはずの彼女は、私が恋をした彼女は、確かにこの日、死んだと。

 一言で言ってしまえば、垢抜けた、のだろう。

 ただ、一般的には良いとされるそれが、私にとっては苦痛だっただけだ。

 予想がつかない言動に惹かれた。

 野暮ったい髪の奥で笑う、君の表情に惹かれた。

 私を引っ張って、ふらふらと彷徨う姿に惹かれた。

 君の、不思議に、どうしようもなく恋をした。

 変わった彼女をどうしても受け入れられなかった、そんな狭量な人間の話。

 只過去を夢見る、愚かな人間の話。

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抜け出せない幻影、或いは一つの失恋 なごみ @Faran_Farron

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