第三話 終わりとこれから
「神託って、そんな必要な事だったっけ?」
「ユウ…もしかして。」
あまりの発言に、僕は信じられないとい
う形相でユウの顔ジッとみつめる。
「いや!ちゃんと聞いてたからな?ほら、
あれだろ?ほらほら、えーと…。」
「神のお告げ…」
「そう!!それだよ!ったく。アイムは俺
が言おうと思ってた事、いつも先に言うか
らつまんねぇよな〜」
「はぁ…まぁユウが分かってるならいいけ
ど、一応『ちゃんと!!』聞いててね?」
「お、…おう」
神託とは、言うなれば神からの大切なお
告げだ。ルイフ様はそれを代弁して僕達、
弟子や従者に日々、何をすべきかを伝えて
くれている、そして僕らはその導きの上が
あるからこそ、この箱庭で豊かに平和に暮
らしていけている。
だが今ではその司教様…ルイフ様はもう
いない。
「あっ。知ってるよ!ルイフ様からいつも
貰える頼まれごとだよな!」
……最近のユウは、天然なものを通り越し
て何かあるんじゃないかと心配になってし
まう。
「…で、思ったんだけどさ?」
「ん?」
「あー、その神託ってさ〜…アイムができ
ねぇの?」
突拍子もないユウの提案に、思わず僕は
一瞬固まってしまう。
「ぼ、僕が?!できるわけないよ?!そん
なルイフ様の代わりなんて……」
「うーん…アイムならルイフ様の代わりっ
て言われても俺は納得できるけどな〜、多
分皆んなも同じ事言うぞ?」
「いやいや、そんなこと…」
たまに、ユウはとんでもない事を口走る
が、今回のはその度を超えている。
それに皆んなだって…。
「よくってよ!アイムなら構わないわ!」
「…オレも異論はない」
「アイムなら、ルイフ様の代わりに適任ね」
「……」
皆んなの所に戻って、話を聞いてみると
三人は即答した。僕がルイフ様の代わりな
んて…。
一方、ヒューズは教会前にある柵に背中を
預け、無言のままだった。
「ちっ…」
しばらく気まずい雰囲気が続いたが、よ
うやく彼は何か決心したのか目を開け、僕
の方へと勢いよく近づいてきた。
「俺は正直、あの猿なんかよりも…テメェ
がいっちゃん気に食わねェ…」
「…え?」
突然の嫌い宣言と同時に、ヒューズはさ
らに威圧し僕の顔を睨みつけてきた。
「ルイフ様の代わりは誰かって言われたら
、すぐテメェの顔が浮かんだ。ホントは俺
がルイフ様の代わりをしたいとこだが、生
憎だがテメェより上手く出来るとは思えねェ…」
「え、えっと…」
「ほんと…クソがつくほどムカつくぜ、言
っとくけどなぁ?テメェから神託受けても
俺はありがたいなんて思わねェからなッ!」
何だろう…口はすごく悪いのに、なんだ
かあまり悪い気はしない。
まさか、あのヒューズまでもが、承諾し
てくれるなんて思わなかった。
「ありがとう、ヒューズ」
「フンッ…」
僕が笑顔でそう答えると、ヒューズはず
っと顰めた表情だった。どうやら僕はヒュ
ーズの事を少し誤解していたのかもしれな
い。
「神託はアイムがする事に決まったのは良
いのだけれど、やり方はわかるのかしら?」
当然の疑問だと、ハヴァが口を開くが僕
はそれを否定した。
「ああ、大丈夫だよ!前にルイフ様から神
託の事を詳しく教えて貰ってたから!」
「何だよ、じゃあ何も問題ないじゃんか!
さっさと終わらせてしまおうぜ!」
「フンッ…この猿は、ほんと簡単に言いや
がるぜ…てめェは何もしないくせによぉ」
「何だと!?このロバ野郎ぉ!!」
「ア゛?!」
「ア゛ァン?!」
よかった。少し心配してたけど、いつも
のヒューズらしくなってきた。
でもなんでこの二人は毎度毎度、こうや
って揉めるんだろうか…僕は呆れてものも
言えないでいると。
「ハイハイ。そこまでにしましょ、やる事
は沢山あるんだから」」
やっぱり頼りになるのは彼女、ハヴァだ
った。二人は、ものすごい近い距離でしば
らく睨み合っていたが彼女の言葉により、
両方とも渋々と距離をとっていく。
これから神託を始める前にまずは、皆ん
なで協力してルイフ様の遺体を教会から外
に出す事をきめた。正直、ルイフ様の言い
つけを破る事はしたくないけど、このまま
だと何も前に進めない。
「…なぁ、ほんとに入るのかよ?」
「いつまでも、このままじゃいけないからね…」
ルイフ様の遺体を運ぶのはヒューズと僕で
やる事にした。
僕は目を瞑り、意を決して教会の中へ入
ろうとしたが…。
「ねぇ?早くしないと、日が暮れてしまう
わよ」
いつ入ったのか分からないが、誰よりも
先にハヴァは、教会の中で堂々と立ってい
た。
僕ら二人、彼女のその行動に少しの間、
呆気にとられてしまう。
中に入ると、教会はそれなりに広くて、
長椅子が等間隔で両側に数席ずつと、それ
から少し奥を見やると、中央には礼拝堂が
ある。
そして、少し上を見上げて見ると,そこ
にはガラス張りで中央には綺麗な女性と大
きな木の絵が描かれていた。
それに普段からルイフ様は掃除をしてい
たのか、礼拝堂はとても綺麗だ。
「ルイフ様…」
か細い声を放つヒューズは腰を下ろし、ルイフ様のその手を震えた自分の額に付けるのだった。
ルイフ様の遺体は、扉より少しだけ離れた位置にあって着ている服は、外からでも見えていたが血で真っ赤に染まっている。でも、不思議な事に倒れている床は綺麗なままだ。
そして、その側には何か小さくて丸いものが落ちていた。
「…これは?」
僕がそれを拾おうとした、次の瞬間。
--数刻前の教会外--
「あいつら、大丈夫かよ…」
「……」
教会の外では、ユウ、マイン、アースと残っていたが、ルイフ様の事やそれを託してしまった中にいる三人の事を思うと、やり切れない気持ちが流れていた。
だがそれを、打ち破るのは。
「あ、あれ、…他の皆んなは?」
聞き覚えのある声に三人は、その声がする方に一斉に視線向けた、驚く事にそこにはユアの姿があった。
「お、お前ェ!!今までどこに行ってたんだよ?!」
「ユア、無事だったカ。」
「……」
「…ユウ達だけなの?アイム達は?」
ユアは誰かを探してるかの様に周りをキョロキョロと見回している。
額には汗をかいていて何かとても、焦っている様な感じだ。
「お前、人の話聞いてんのかよ?!」
「アイム達なら…教会のナカだ」
「ッ!?」
アースがそう答えると、ユアは今まで見た事ない様な、怪顛な顔でユウの両肩を力一杯掴んできた。
「ま、まさか!?教会に入ったの?!」
「あ、あぁ…」
「そう…、なら始まるのね…ユウ!!アイムに伝えておいて!!私、しばらくは皆んなとは別行動とるけど、何も心配しないでって」
「はぁ?!な、何言ってんだよ?!」
ユアの突然の発言により、三人は驚いていると、次の瞬間…教会はとても強い光で輝きだしていく。
--アイムside--
僕は、いつのまにか知らない場所に立っていた。辺り一面、砂の荒地で何もない。
いや…あるにはある、今まで見た事もない様な、ものすごくとても大きくて立派な木。
それからその木のすぐ側には、石で出来た簡素な建屋があった。
「ここは、いったい…痛ッ」
何かが床に落ちていて、それを拾おうとした所までは覚えているのだが、それからの記憶が曖昧だ。
そして、これまでで味わった事のない様な強い頭痛に襲われる。
「フフッ、貴方で何人目かしらね…此処に来たのは」
「ッ?!」
突然、知らない声が聞こえてきて僕が振り向かえると、そこには白い布一枚で巻かれた格好で、金色の髪を伸ばした美女がそこに立っていた。
僕はその姿に少し見惚れてしまうが、もしかしてと思い、すぐさま片膝を付いて首を垂れる所作を取る。
「し、失礼しました!」
「…よいのですよ。楽にしてもらっても」
「いえ、恐れ多い事です。それに…僕達は決まり事を破ってしまった身でありますので」
「……何かあったのですか?」
僕は、目の前の女性に自分が知っている事、見た事すべてを話した。
「そう…。そんな事があったのですか」
話を聞き終えた女性は、どこか遠くを見つめ哀しそうな様子でそう答えた。
「失礼を承知でお伺いします、無知な私をお許しください。…貴方様はもしかすると、私達が仕える神様なのでしょうか?」
「……フフ、あははははは!」
「ッ?!」
「貴方って面白いわね、ふーん。
そんな事になってるなら、ちょっと混ざっちゃおうかしら!正直、いい加減このポジションにも飽きてきたのよねぇ…」
目の前の女性は急に笑い出してその直後、急に口調が変わっていった、それに聞いた事のない言葉も混ぜながら。
「あぁ〜それに、そろそろだわ!」
女性はそう口にすると、簡素で出来た石の建屋の方へと視線を向け指を指す、それにつられた僕もその方へと視線を向けた。
「あそこにある
「えっと、どういう……ッ?!」
僕が視線を戻すと、さっきまで目の前にいた女性は忽然と姿を消していた。
そして、僕は言われた通り建物の中に入るが、そこには何もなく、天井には何かの文字みたいな物が書かれている。
「何て、書いてあるんだろう……ッ?!」
先程、教会にいた時と同じ様に小さな建物は瞬く間に強い光を放ちだした!
次第に僕は目を開けてはいられず、しばらくの間立ち尽くしてしまう、数刻か経つと、光は消えてようやく目を開けることができた。
そしてそこには、一つの果実が転がっていた。
エヴァンデイズガーデン〜禁断の赤い果実〜 アメノウタ @utauta19
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