第二話 死の爪痕

 何があったのか、なぜルイフ様が倒れて

いるのか。僕はその場で固まってしまう。


「アイム、帰ってきたのね」

「これはいったい、何があったんだい?!

ルイフ様は…」


 僕が困惑していると、いつもと変わらな

い様子でハヴァは話しかけてきた。


「見ての通りよ、あの様子だとルイフ様は

生きてないでしょうね。」

「おい、ハヴァてめぇ!!まだわかんねェ

だろうが!」


 ハヴァが辛辣な言葉を放つと、あのヒュ

ーズまでもが慌てたてている。そしてすご

い剣幕でハヴァの胸ぐらを掴み上げた。

 当然だ、親同然のルイフ様が亡くなった

なんて考えたくもない。


「ヒューズ、止すんだ!」

「うるせぇ!!あのルイフ様が死ぬなんて

オレは信じねぇからな!」


 僕は驚いた。


 胸ぐらを掴むヒューズの拳は震えていて

、抑えきれなかったであろう、涙を流して

いた、でもそれはヒューズだけじゃない。

 周りを見てみると、ユウやマインも同じ

様に涙を浮かべていた。


「ごめん、ヒューズ…僕はここに戻ってき

たばかりで、何も分からない……、だから

せめて何があったのか詳しい話を聞きたい

んだ」


 ヒューズの腕を掴み僕がそう伝えると、

いつもなら小言の一つでも返してくる彼は

、何も言わずにハヴァの掴んでいた胸ぐら

を離してくれた。

 そして、そのままヒューズはこの場から

離れていく。


「彼、泣いていたはね。初めてみたわ」


「僕だってそうだよ、もしかしたら…。

いやまずは、ハヴァ何があったんだい?」


「そうね、でも貴方は平気なの?」


「…正直、僕もルイフ様のあの姿を見て困

惑しているよ。でもだからこそ、ことの一

端を知りたいんだ」


僕は彼女の目を見て、思いの丈をそう言葉

にした。


「相変わらず、こんな時でもアイムは真面

目なのね…。

いいわ、詳しく教えるから」


「ハヴァ…ごめん。君だって辛いはずなの

に」


「……。」


それから僕達は教会の裏手に回って、ハヴ

ァは予め仕分けられていた、腰掛けられそ

うな米俵タワラの上に座る。


「貴方も座りなさい、立って聞かれたって

こっちも落ち着かないから。」

「…あぁ、そうするよ」


「まずは、貴方がユアを迎えに行った後の

事を話すわ」


「うん。頼むよ」



--数刻前。


『アイムの奴、血相変えて走って行ったな、

にしても、神託が遅れたぐれぇでビビり過

ぎなんだよ』


『とか何とか言って、テメェだってルイフ

様が心配なんじゃないのかよ?』


『ハッ!ルイフ様の心配なんざ、する必要

ねぇよ。というかお前達には百年早いんだよ!』


 そんなやり取りを交えながらも、私達は

教会に辿り着いた。

 だけど、何かいつもと違っていた。


「ルイフ様ー!!」


 ヒューズが扉を何度か叩いて、中に居る

であろう、ルイフ様の返事を待っていたが

何の反応もない、こうなってしまうと私達

は中に入る事もできない、だからせめて中

の状況を確かめようとした。


「なぁ?いくら何でもまずいんじゃないか

……」


「なら弱虫、テメェは帰れ!俺はルイフ様

に会うまではここを離れねぇぞ」


「あ?誰が弱虫だって!?」


「ほんと貴方達って子供ね、親の顔が見て

みたいわ!」


自信に満ち溢れた顔で、二人のやりとりに

マインが横槍をいれるが。


「マイン…それはルイフ様を貶す発言だけ

れどもいいのかしら?」


「ハァ?何でそうなるのよ?……ぁ。」


自分の失言に気づいたマインは、たじたじ

になり額には大量の汗が流れ込む。


「マイン、オレがいる。しんぱいするな。」


なんの助け舟にもならないアースの発言は

置いておいて、それからしばらくは手分け

して覗けそうな場所を各自探してみること

に。


----



「はぁ…ルイフ様にさっきの聞かれていた

ら、あたし終わっていたかも知れないわね

……あ!、良いところに小窓があるじゃない!」


マインは自分の高さと同じくらいの小窓を

見つけると、そのままそれを覗き込む。


「うーん…よく見えないじゃない………えッ?!」


 良く目をこらしてみると、二つの影が薄

らと見え、中で何かやり取りをしている様

に見えるが、暗くてよく誰がとまでは分か

らない。

 その後、影は一瞬重なり終えると、片方

の影はそのまま倒れ込んでしまう。


そして次の瞬間。


「きゃあああああああああ!!!」


この辺り周辺、マインの叫び声が響き渡る。


「どうした?!何があった?!」


 いの一番に駆け付けたのはユウだった。

その後に続いてヒューズも、二人はマイン

に視線を向けると、彼女はその場に腰が抜

けた様に倒れており、小窓の方を震えなが

ら指さしている。


「な、なかで…ひとが…」


「おい!中で何あったんだ?!」

「あー、クソッ!!」


マインの身体は震えており、上手く話せる

状態じゃない。

痺れを切らしたヒューズは教会の扉に方に

走って行った。


そして、その後すぐに二人がマインの元へ

と駆けつけて来た。


「マイン!!!」

「はぁはぁ…今、ヒューズとすれ違ったの

だけれど…彼、何するつもり?」


アースは震えるマインのそばに駆け寄る。


「あの馬鹿ッ…ハヴァ、アイツを止めろ!

アイツ、教会の中に入るつもりだぞ!」


「ッな?!」「…ッ?!」


----


「その後、マインはアースに任せて、私と

ユウは教会の表に向かったのだけれど…す

でに扉は開いていて、それからは貴方が見

たものと同じよ」


「………。」


 ハヴァの話を聞き終えた僕は、いくつか

気になる点がある。

 しかし今の僕らには、時間がない。


「ハヴァ、話してくれてありがとう。

皆んなの所に戻ろう!」


「…構わないわ、そうね。このままだと二

つ目の決まり事も破ってしまうものね…そ

れと気になったんだけど、その様子だとユ

アは丘にいなかったのね」


「…辺りを探したけど、全然見当たらなく

て、もしかしたらこっちに戻ってると思っ

たから…」


「そうなのね、でもあの子なら大丈夫でし

ょ。行きましょ!」


「う、うん。」


 僕とハヴァは立ち上がって、皆んなの元

へと戻って行った。


 僕達が戻ると、皆んなはすでに集まって

いる、どうやら何を優先するべきか、皆ん

な分かってくれている様だ。


「アイム…俺達…」


「ユウ……。ハヴァからある程度、話は聞

いた。でもまずは、僕らの決まり事を守ら

ないといけない、皆んな果実は持っている

かい?」


「お、俺は持ってるぜ!」


 普段ならここで、ヒューズの辛口があっ

てもおかしく無いはずだが、ヒューズは無

言のまま…そして、その手にはしっかりと

果実を握っている。


「マインとオレは、持っていない…家に置

いてからここに来たんだ…。」


申し訳なさそうに、アースがそう答える。


すると、僕の隣にいるハヴァは一歩前に出

て解決策を教えてくれる。


「ならアイムとユウが、それぞれ一個ずつ

マインとアースに渡せばいいんじゃない?」


「は?それだと俺達の分が、一個減るじゃんか!」


「なるほど!そういうことか!」

「え?!」


「そう、食べてから取りに帰ってもらって

、後で返して貰えばいいだけの事なのよ」


「お、おう!…まぁそんな事、余裕で分か

ってたけどな!」


…………。

皆んな、僕の親友をとても痛い子を見る様

な目で見ていた。


「って事だから、アイム。」

僕の方に振り向き、ハヴァは手を皿にして

差し出してきた。


「え?」


「私も持ってきてないから、早くくれない

かしら?」


……。


その後、僕はマインとハヴァに一個ずつ、

ユウはアースに一個とそれぞれ渡した。

そして大分遅れたけど、僕達は果実を食べ

始める。


僕とユウは、さっきハヴァといた場所で一

緒に食べることにしたけど、ルイフ様の事

もあってかしばらくは無言で食べていた。


「なぁ…アイム」


「ん?」


ユウが残り一口のところで食べるのを止め

て、口を開く。


「俺達、どうなっちまんだろうな…」


「…正直分からない。今まで、ルイフ様の

教えで生活してきたんだし、これからの事

は皆んなと相談して生きていくしかないと

思う…」


 そうだ。これからは僕らだけで、生きて

いかなきゃいけない、頼りになる大人はも

ういない。

 だからと言って、全部なげやりになって

しまったらそれこそお終いだ……。


「…あ」


「なんだよ、アイム変な声出して?」



七日に一度、これまで神託は欠かさずやっ

てきた。だが、ルイフ様がいない今となっ

ては、誰が先導して行えばいいんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る