第一話 箱庭の決まり事
ここは箱庭と呼ばれた場所。
僕の目の前にある木には、たくさんの果実がぶら下がっていて、背に背負っているカゴに、慣れた手つきで次々と果実をカゴに入れていく。
これを僕らは、七日に一度の朝に必ず取りに行かなければいけない。
「よぉ!アイム。久しぶりだな!」
「…ああ、7日ぶりだね。ユウ!」
明るい声色で僕を呼びかけ、駆け寄って来るのは、親友のユウだった。
この箱庭では、ボクとユウと他に五人の子供が各自、家を持っていて豊かに暮らしていた。
「ったく、ほんと嫌になるよな〜」
「…ん?嫌になる?」
「あ〜ほら、こうして決められた時と、決められた日でしか、こうやってアイムと話したり遊んだり出来ないんだからさ?」
「うーん、まぁ…それはしょうがないよ。だってそれがルイフ様が、お決めになられた事なんだからね」
そう…、僕らは各自七日に一度しか会う事ができない。
残りの6日間は一人きりで生活しなければならない。
「分かってるよ、そんくらい!でも、それだけじゃなくて、他の決まりもさ〜なんかこう…、めんどくないか?」
「馬鹿ユウ!!何言ってんのッ!!!」
「ゲッ…?ほんと勘弁してくれよ…」
「あはは、ものすごく怒ってるね」
すごい剣幕で僕とユウに駆け寄り近づいて来るのは、綺麗な紅色の髪と泣きぼくろが目立つ、七人の内の一人ユアが、僕達の後ろに立っていた。
「性格は負けん気が強くて、頑固で、うるさくて、泣き虫で、そして寂しが………痛ッてえ!?」
「なんですって?!」
「馬鹿ッ、なんで叩くんだよ!?全部本当の事だろ??」
「また言ったわねッ!!!」
ユウは目に涙を浮かべ、叩かれた頭を押さえながらも、ユアに文句を言い続けるがユアは拳を空にかかげて、逃げるユウを追い回している。
「あははは…」
ーー僕達が暮らすこの箱庭では、七つの決まり事がある。
一つ。
朝の刻、昼の刻、夜の刻に必ず一個、果実を食す事。
二つ。
赤き星二つを見る事なかれ。
三つ。
二一日目の夜に一度、陽が沈む前に知識の丘へ行く事。
四つ。
七日に一度しか誰とも会ってはならない。
五つ。
偽りを作る事なかれ。
六つ。
白き生き物との接触を禁ず。
七つ。
七日に一度、農園から果実を取りに行かなければならない。
--破る者には罰則、共に追放とする。
僕達の年齢は今月、七の月で14歳になる。
此処には九年前から住んでいて、ずっとこの暮らしをつづけている。
「久しぶりだね、ユア!相変わらず綺麗な髪色だね」
「エ?!そ、そう?!……えへへ、ありがとう!でもあ、アイムもそのえっと…すごく…か、かっこい…ぃ…ゴニョゴニョ」
僕がユアを褒めると、ユアは飛び上がる様に笑顔になり、次第にその顔は真っ赤になって顔を伏せ、何か呟いていた。
「おい、行こうぜアイム!こうなっちまったコイツは、しばらく動かねぇよ」
「えっと…う、うん。」
僕は最後の果実をカゴに投げ入れて、ユウと共にその場を離れた。
丘を降りてみると一人の男性と数人の少年少女達が、その場に集まっているのが見えた。
「おいおい、もうみんな集まってんじゃん!」
「うーん、…ユアは大丈夫かな?」
「…ったく。アイムは心配性だな?アイツだってガキじゃないんだから、すぐ来るって!」
「アイム、ユウ!遅かったな、………ウム?ユアは一緒ではないのか?」
僕とユウが丘を下り終えて、皆んなの所にたどり着くと修道服を着た男性が声をかけてきた。
その男性の声を聞くと同時に、僕達はその場で片膝をつき頭を下げる所作を行う。
「ルイフ様、発言をお許しください。
ユアとは先程まで一緒に居たのですが、僕とユウはすでに果実を取り終えたので、先に丘を降りてきました」
「うむ、そうか。
まぁ…時期にユアも降りてくるであろう、皆も顔を上げて楽にしてよい!
時間が惜しいのでな、教会に行くが私もすぐ戻る、ユアが着いたら神託を始めよう」
「「「「「「はい、ルイフ様。」」」」」」
その後、ルイフ様は振り返り教会の方へと足を運んでいった。
それからルイフ様の言う通り、ユアを除く六人は各々自由にしていたのだが、それを破る者がいた。
「おいおい、ほんと勘弁して欲しいぜ!泣き虫ユアのせいでこっちまで、とばっちりを受けちまうんだからな?」
「あぁ?!別に大した事じゃねぇだろが!」
「まてユウ、落ち着け!」
「おぉ、なんだ?泣き虫だけじゃなく弱虫までもが泣き騒ぐのか?!」
「アァ?!」
「もうよせって!、ヒューズ。ユウも反省する部分はあるけど、煽る言い方はやめた方が、君のこれからの為だと僕は思う」
「ハハッ!なんだよアイム、俺に文句でもあるのかよ?泣き虫と弱虫の飼い主は大変だな?」
「テメェ!?ぶっ殺すぞ!!」
こいつはヒューズ。
七人の内の一人、ユウとは仲が悪く顔を合わせる度、いつも揉めている。
この箱庭の中で一番、身長は高く、目つきは鋭くて、性格は…うーん。小さい頃はみんなともそれなりに仲は良かったんだが…。
「はぁ…いいかげん、やめてくれないかしら?」
「なんだよ、マイン!邪魔すんなよ!」
僕らが揉めるといつも、呆れた声を放ち割って入るのは、7人の内の一人マインだ。
髪は短く茶髪ですこし小柄だ。性格や言葉遣いは気が強い風にしてるけど…あ、やっぱり、
足元をよく見てみると震えており、実際はただの強がりな性格なのだ。
「…ユウ、ヤメるんだ。」
そしてマインが割って入ってくると、七人の内の一人、アースも参戦する。
アースは普段から口数が少なく、いつの頃からかマインの忠実な騎士の様に振る舞う様になっていて、見た目は少し長めの黒髪で顔立ちはシュッとしており、ハンサムだ。
それに付け加えると、僕ら箱庭で暮らす七人の中で、一番強いのはこのアースだ。昔から格闘術、剣術、柔術とルイフ様に習ったのか分からないけど凄い実力者だ。
「…ッう。な、なんだよ?お前は関係ないだろ?!というか、あいつが最初に煽ってきたんじゃないか!!」
「ハハハハッ、まるで猿だな」
「てめぇなんか、ロバ顔じゃねえか!!」
「…ア?」
「貴方達、いつもの挨拶はそれまでにしましょ。なんだか様子がおかしいわ」
腕を組み、発言したのは7人目最後の一人、ハヴァ。
長めの白髪に桃色の束が一本入った髪色をしており、ユアに劣らず美人だ。それにこうやっていつも僕らの揉め事を止めてくれる。
性格はいつも気丈としているが、少し天然なところもある。
それに彼女が放つ言葉には皆んな、何故か聞き入ってしまう。
「ハヴァ、急にどうしたんだい?」
「…貴方が気づかないなんて、めずらしいわね。それともユウのダメさが移ったのかしら?」
「おい、ハヴァ?!俺のダメさって何のことだよ?!」
「ハハッ、ちげぇねえや」
ハヴァの発言で揉め事が止まったと思いきや、皮肉な事に、また2人は揉め出した。
ダメだ。ユウには悪いけど、フォローは後にして、今はハヴァの言った事が先決だ。
「ハヴァ、君の言っている事が僕には分からない。何がおかしいんだい?」
「…別に私はこのままでもいいのだけれど、でもいい加減、お腹が空いたわ」
(お腹が…すいた?……ッ!)
僕はようやく、ハヴァの言いたい事がわかった。
「ヒューズ、ユウ!!」
「あ?なんだよ、アイム」
「アイムちょっと待ってろ!コイツを今から…」
「違うだよユウ。あれから、大分経ったはずなのにルイフ様遅すぎると思わないかい?」
「あー…そういえば、ルイフ様少し遅ぇな」
僕がそう口にだすと、皆んな教会に視線を向けた。
(それにユアもあれから、いっこうに帰ってこない、何もなければいいが。)
「ねぇ、ルイフ様を呼びに行った方がいいんじゃない?」
「だけどよぉ?教会の出入りはルイフ様しか認められてないだろ?」
マインに続いてユウもそう口にするが、こんな事は初めてで皆んな、困惑している。
だけど、それを打ち破るのは意外にもヒューズだった。
「要は教会に入らなければいいじゃねえか、俺は行くぜ、このままこの猿と顔を突き合わせるのなんかたまったもんじゃねぇからな!」
「何だと、このロバァ!」
はぁ…この2人の相性は、ほんと火に油なんだろうな…。でもヒューズの言う通り教会に行って様子を見に行った方が良さそうかもしれない。
「よし。わかった!なら皆んなは、先に教会に行っててくれないか?僕は丘に戻ってユアを呼んでくる!」
「カ〜、あいつはホント、いつまでも何してんだか」
「分かったわ、私達は先に教会の様子を見てくるわ」
「うん、ハヴァ。皆んなをよろしく頼むよ!」
僕はそう告げると、果実が実る農園の丘へと走って向かった。
教会から農園まで坂があるが走れば大して、時間も掛からない。いく分か掛けて僕は丘へと辿り着く。
「おーーい!ユアー!!」
だが、そこにユアの姿は見当たらなかった。
僕は周辺を手当たり次第探してみるが、一向に見つからない。
そうこうしている内に時間経ち、僕が空を見上げると、もうすでに陽はてっぺんを登っている。
いつもならこの時間は各自、自分の家に戻って果実を食べている頃だ。
「はぁはぁ…。」
(もしかしたらユアは僕とすれ違ったのかも…一度戻ってみないと)
僕は念の為、農園の丘にユア宛に言伝を書き残した後、教会へと向かった。丘を急いで下って行く際に遠目からでも教会に皆んなが集まっているのが分かった。
でもなんだか様子がおかしい。
そしてようやく、教会の前に辿り着くと皆んなは異様な雰囲気を漂わせていた。
「はぁはぁ……み、皆んなユアが居ないんだ。こっちに降りてこなかっ…ッ?」
「アイム…。」
「ユウ、皆んなどうしたんだい?!」
「ル、ルイフさまが…」
ユウの顔は青ざめており、僕はユウの肩を掴んで教会のドアの向こう側を覗いてみた。
そこにはあるのは、うつ伏せで倒れているルイフ様の姿だった。
「ルイフ様…」
その服は真っ赤な血で染まっており、異臭な匂いと不気味さを漂わせていた。
--農園の丘の上--
その頃、丘の上ではフードを被った者が、教会と僕達を傍観するように眺めていた。
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