第6話 藍の輝。

「藍、落ち着いて」

「ヒックッ!うっ!」

「藍、よく聞いて」

「…っ」

恐る恐る輝の顔を覗き込む藍。


「藍、手を出して」

「…手?」

「うん。手」

そっとテーブルの上に、震える両手を乗せた。

その手を、輝はギュっと握りしめた。

「藍、僕は藍が好きだよ。藍は?」

「…」

「藍の過去は解らない。なんでお父さんやお母さんに愛されなかったのか、なんで中学生なのにセックスなんて言葉をあんなに軽く口にできてしまうようになったのか、なんでいつもいつも手が冷たいのか…。でもね、藍、それは僕に会う為だったんだ。藍が生まれて来たのは、僕と会う為だったんだ。人生は一度だ。でも、一つじゃない。未来は幾つもに枝分かれしてるんだと思うんだ」

「枝…分れ…?」

「うん。藍はあの日、僕と出会った。それが、藍の幾つもに枝分かれした先に在った未来。もう一度聞く。僕は、藍が好きだよ。藍は?」

「…好き。私は、輝君が好き!」

「じゃあ、藍がしたキスは、ファーストキスじゃない。好きだと言える人とするキスが本当のファーストキスだ」


そう言うと、輝は藍にキスをした。


「…ごめん。藍」

「…?」

「俺…これ、マジ…ファーストキス…」


輝は、顔を下に向けて、ボソッと呟いた。


耳まで、真っ赤にして―――…。

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