第9話『闇(Ⅲ)』

「(……何故アタシは、やってんだろうなー)」


 リューネルは、今更ながら後悔している──。

 例年は、適当な生徒たちに適当に受業を受けさせて、それで終わりだった筈だ。

 だが、何故こんなを渡ってまで、リューネルは自身の職務を果たそうとしているのだろうか。いやそもそも、これは職務の範疇の話か?


 リューネルは、分からない。

 分からないからこそ、リューネルはにいるのだろうか。



「──はぁ、何でに侵入なんかしてんだろ」



 /11  



 斯舟生徒会カルヴァアーク、そのバベルタワー──。

 この学園都市アークの中心にある建物であり、一番権力を持っている場所だ。

 だが、周辺諸国の国々や果ては学園都市に住む住人までもが、この建物が一体何のために建てられたものか、誰も分かっていない。


 精々分かっている事と言えば、この斯舟生徒会カルヴァアークという組織が、この学園都市アークを統べているという事ぐらいか──。


 それ故に、斯舟生徒会カルヴァアークの警備が厳重だ。

 ファディアス大陸全土を見ても、それに匹敵する警備の厳重さを誇る場所はそう多くはないだろう。


 そんな、大陸全土を見渡しても最高峰の厳重な警備の中、何故一教師であるリューネルが侵入しているのかというと、昼間から夕方にかけて少しだけからだ。


「(──“クラス・ボルツ”の面々を集めたのは、上層部。つまりは、此処で一番権力を持っている奴。少しは、何かしらの情報があればいいんだがな)」




「──コードネーム“雪豹”。その爪牙、貫けるモノ無し」

 



 竜泉寺リューネルは、である。

 殺し屋と言っても、このファディアス大陸ではそう珍しいものではない。

 だが、リューネルは教師兼殺し屋であるのと同時に、暗殺者でもあり諜報員でもあるのだ。

 このリューネルの経歴を始めて知る者は、何を馬鹿げた話だと与太話だと一蹴するが、彼女を知る者は何を今更と呆れと納得の意を表す。



 世界的な『B,L,U,E,』、その第29期卒業生主席──。



 その経歴に並び立つ者を、彼彼女等はきっと知らない。



 /12



 リューネルは、その歩みを進める。

 途中、何人かの巡回や感圧式などのトラップなどを見つけたが、此処までは特に問題はない。

 そもそもリューネルの所有している夢幻輝石シリウスライトが、こうしたのもあるが、それはリューネル自身の隠密行動の素の実力あってこそだ。

 こうして態々バベルタワーに侵入する機会なんてなかったが、見れば見るほど、過信した奴からアウトな設備や巡回。

 歴戦の猛者であるリューネルも、一歩気を抜けば見つかる事は間違いなしだ。


「……」

「……」


 部屋に通じる扉の前に、二人の警備員。

 ……おそらく、かなりできる者だろう。

 だが、そんな実力、リューネルの前では些細なものでしかない。


「……は」


 であり、部屋へと通じるのはこの一本だけだ。

 故に、誰かがこの部屋へと侵入しようとするのならば、簡単に見つかってしまう。



「──おい。コイツ何時現れた。──何で、んだ!!」



 別に彼は、気を抜いていた訳ではない。

 日々暇な業務に嫌気が差しているのは確かだが、それでも今日まで続けてきた意地や微かばかりの誇りがある。

 だが今日、彼等は失敗をした──。

 見えなかった。

 隣で一緒に警備をしていた彼が音もなく倒れ、そこに彼女──リューネルがいたのだ。


「おいおい、節穴だな。てか、節穴だろうがなかろうが、私の姿は見えなかっただろうよ」



 ──暗転。



「……思ったよりも深部に入らずに済んだのは、不幸中の幸いと言うべき、か」


 そしてリューネルは、にたどり着いた──。

 おそらく此処は、各学園の生徒の情報が集められているデータベース。

 そこら辺に並木道の如く生える量子コンピューターから、各学園の生徒の情報を調べられる筈だ。

 無論、そのまま手を出せば即警報が鳴り響くであろうトラップを回避しつつ、当のリューネルは情報の吸い出しを始めた。


「(狙いは恐らく最近のもの。ちゃんと整理されているだろうから、多分今年の入学生分のは此処ら辺にでもあるだろーなぁ)」


 だが、確認のしながらの情報の吸い出しではあるが、リューネルの担当クラスである“クラス・ボルツ”の生徒等の情報がまだ見つからない。

 最初から、此処にはないのだろうか。

 そんな苦虫を噛み締める中、ふとリューネルは気付く。



「──いや、こっちだ」



 普通のファイル。

 何て事ない、見逃してもおかしくなく、何ら落ち度が発生しにくいだろう。

 だが、解除プログラムを走らせてみると、が際立つ。


「……──おいおい、どうなってやがる。他の国家の重要機密と比べても遜色ねぇぞ!?」


 見た目に反して、国家機密レベルの厳重さ。

 もしも、リューネルの勘が働かなければ、すぐさま警報が鳴り響く事だろう。その上、この厳重さからして、かなりヤバめのカウンターシステム等が発動する筈だ。

 しかし、それ故にこの情報はかなりのもの。

 時間は掛かるだろうが、情報の吸い出しを行うプログラムを走らせているため、そう時間は掛からずに当情報を得る事が可能だ。


「あとは待つだけだが。──しっかし、斯舟生徒会カルヴァアーク──いや、サンクトゥルムタワーってのは、一体なんだんだか」


 巡回の気配はないし、トラップの類もスルーを決め込んだ。

 でもない限り、そうそう見るかる事はないと、リューネルは己の実力を信頼している。

 しかして、そういった“上手く行っている時こそ”、こうした

が起きるというものだ。




 ──っ!!




 一瞬、バベルタワーが揺れた──。

 リューネル自身、特別何かをした訳ではなく、走らせているプログラムの様子を確認してみても逆ハッキング等を仕掛けられた様子もない。もしも逆ハッキング等をされようものなら、該当防衛プログラムが作動して、勝手に接続を完全切断した後にウィルスの殺菌が開始される筈だ。




「……──地震……じゃねぇな。襲撃か? 此処からじゃ窓がなくて分からねぇが」




『──侵入者がいらっしゃっただけです。、特に問題はございません』




「──っ!?」



 気付かなかった──。

 一瞬、リューネルと似たような夢幻輝石シリウスライトかと思ったが、それにしては彼女自身が気付けなかったのは、可笑しいという話。

 リューネル自身の不備を疑ったが、そうそう似たような夢幻輝石シリウスライトがあっては困るというものだ。


「(──気付かなかった。この私が? しかもコイツ、足音もねぇし呼吸や関節の音もしねぇしで。本当に──)」


 予期せぬ来客。

 斯くて、夜は更けてゆく。

 

 

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 お疲れ様です。

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