第8話『闇(Ⅱ)』

 夜が耽る──。

 本来ならばこの時間、夕食の時間みたい。

 各学園の生徒の食事は、基本寮や外の食事処で食べる事ができる。

 寮で食べる場合は、一週間の食事の予定が掲示され、それが食堂で提供される。お金は掛かるものの、種族に配慮した食事が提供されるし、そもそも安く済ませる事が良点だ。

 外の食事所で食べる場合は、その選択肢の多さだろう。定食屋から高級料亭、変わりもので言えばバーや夜景の見えるお洒落なお店まで。ただ、お金が掛かるし、種族に配慮はされているものの最低限度のものだ。



 そして今日、この学園都市アークの“アーカディア学園”に入学を果たしたシオリたちはというと、何故かカグヤとアカリの意向でをする事になったのだ──。



「──皆さん。飲み物は持ちましたかーっ!」



「──乾杯っ!!」



「「「──乾杯っ!!」」」



 乾杯の音が鳴り響く──。

 勿論、寮内部に酒類の持ち込みは原則として禁止で、生徒は勿論の事、教師も同じく禁止である。なので、基本酒を飲もうとしたら、外で飲むのが普通だ。

 そして、この場に集まったであり、手にしているグラスやコップなどの中身は、お茶の類やジュースだったりする。


「──アカリさん! さっきの模擬戦ありがとうございました! あ、ジュースのお代わりどうです?」

「ちょっと止めてよねー。あの模擬戦で勝った“クラス・ボルツ”のアンタに、態々注いでもらうのはちょっとね」

「……そう、ですか」

「あーもう! そんな辛気臭い顔しないの。分かった、分かったから!! それじゃ、お代わりの方よろしく!」


 元々二人は知り合いかそれ以上の関係だったのか、カグヤとアカリは和気藹々とおしゃべりなどをする。

 お互いのコップを見て、足りなくなったら注ぎ合ったり。

 ただ、カグヤが元の性格から世話を焼くのが大好きで、アカリはそんなカグヤの好意をどうにか受け取っている感じがするけど。


「──なるほど。これはイケますね!」

「そうじゃろそうじゃろ! それはシュラーク地方の郷土料理じゃからな。スパイスが良い感じに効いてて良いじゃろ!」

「……シュラーク地方は確か、此処から西に大きく進んで、それで一度海を渡るんでしたっけー」

「ほぉ良く知っておるの。名前こそ知っておる者がおっても、郷土などと結び透けられる奴はそうそうおらぬからな」


「──やはり、体こそ資本! 若人たちよ、しっかりと食べ、残すではないぞー!」

「はーい!」

「……あの人、一体何歳なんですかねー」


 カノンとニーナ、それとアリスは、料理に舌鼓をしながら感想を言い合っている。

 シュラーク地方は、香辛料がとても有名だ。

 香辛料と言えば胡椒なども含まれており、巨額の益をも生み出した。

 所謂、大航海時代と呼ばれる真っただ中の出来事ではあるが、“キャンサー”なども生息するアルディス大陸とは違い、大海は今だ不明なものも多い現状。それ故に、危険が付き纏うものの、それに対するリターンはかなり大きいものだ。


「──げっ!? さっきの獣人ライカンスロープじゃねぇか!」

「……」

「おっ! さっきの模擬戦は良い勝負だったな! 白明種ユスティアの癖にやるじゃねぇか。で、げっ!?って何だ、げっ!?って」


 レオニオルと、ハルキとリチャードの男二人。

 傍から見れば、良い女という事で男二人でナンパしているような風にも、まぁ見えなくはない。

 ただその、完全にハルキとリチャードの男二人が、女性であるレオニオル相手に腰が引けているのは、完全にナンパではない事を指し示していた。

 勿論、レオニオルが逆ナンをする訳でもなく。

 ただただ、この状況を例えるなら、捕食者と非捕食者の関係性に見えてしまうかもしれない。

 無論、生物界的な話ではあるが。


「……メイドさん?」

「職業としてやってる訳ではないんですけどね。メイドをやってるのは、姉の方です。まぁ、風の噂程度の話ですけど」

「あのセリフとか言うの?」

「『おかえりなさいませ☆ ご主人様♪』は有料サービスとなっておりますー」


 さっきの模擬戦と変わらぬ姿──所謂メイド服を着たオペラは、そう笑顔で答えるのだった。

 笑顔がスマイル一つとならなくて良かったと言う他ない。

 とはいえ、ニーナからの話を聞く限り、かなり動けるらしいので、所謂という奴だろうか。


「──しかし、思ったよりも“クラス・ボルツ”の皆さん、強かったですね」

「ほんっとソレですよ!? わたしが仕掛けた罠を攻略し始めて。そう簡単なものを仕掛けた記憶ないんですよ!」


 そして、少し離れた位置で、メルフィ―ザとチトセはお茶をしていた。

 別にメルフィ―ザとチトセは、“クラス・ボルツ”の皆を嫌っている訳ではない。愚痴を零す辺り、少しだけ好印象を抱いているのは確かなぐらいだ。

 だが、“クラス・ボルツ”が5人なのに対して、“クラス・アメジスト”は7人。基本小隊を組む場合、6人一隊が当たり前であり、どちらも少しだけ規定とは逸れていたりする。

 まぁ、そこは一旦置いておいて。

 結局のところ、こうして数余りが出てきてしまうのは、当たり前な話と言えた。



「──平和ですねー」



 そう呟いたシオリの視線の先は、ガラス窓な摩天楼──。

 透明世界彩る、近代都市。

 アーカディア学園周辺は、他の土地よりも若干高く、此処から見える夜景は絶景と言えるだろう。アーカディア学園生徒故の特権だ。

 だが、

 今日のような事が稀であるとはいえ、闇市や隠したい物事など、非合法で闇な物事も存在しているのは確かだ。


 そんな平穏を、態々守ろうだなんて、当のシオリは思わない。

 ただ、この平穏を享受する以上──そしてと合致している以上、少しだけ頑張ってみても良いのかもしれない。

 


/10



「……──思ったよりも楽しめた」


 そう呟いたシオリは、自室のベットの上で寝転んでいた。

 食べた後すぐ寝ると太ると聞くが、そこら辺は気にしない方向で。いやそもそも、訓練や勉強をしていて、たびたび何かしらのハプニングが発生する中で、運動不足たる肥満なんて、起こりうるのかという話なのだが。



 ──今の時間は、午後9時を過ぎた辺り。



 一応、寮の門限は午後10時程度で、消灯が丁度日付が変わる辺り。

 門限消灯を守らない生徒は一定数いるものの、そんな生徒等は基本自己責任。別に学園都市アークに点在する学園は、所謂義務教育ではないのだから。

 とはいえ、消灯前に就寝する生徒が多いのは、その日々の疲労故だろうか。


「……」


 だが、初日を終えたシオリは、まだ起きている。

 別にシオリは、不良生徒を気取っている訳ではないし、が終わればすぐ寝たいほどだ。

 ただ、そんなで、その不気味さは日が出ていた時よりも



──っ。



 音もなく降り立ったの瞳は、当のシオリを捉えていた。

 対してシオリも、そんな不気味な視線に気づいたのか、視線が突き刺さる方向へと自らの視線を向けた。

 ──如何やら、が向こうから来たみたいだ。

 その事を理解したシオリは、今だ開けたままの窓際に佇むソレ──黒鳥へと歩みを進めた。


「──やっと来た」


 その言葉と共に、シオリは黒鳥の丁度足首──そこには小さな筒が装着されており、それが所謂伝書鳥の類だと察する事は可能だ。

 そしてシオリは、黒鳥に餌をあげつつも、手にした紙を開くのだった。


「……──これは、思ったよりも事になりそう」


 しかめっ面を滲ませつつ、シオリは手紙の内容を確認した。



 ♦♢──。



 その内容の一節が、如何やら学園都市アーク周辺で、如何やらが流行っているらしい。

 今朝の銃撃戦の敵リーダー格の大男が注射器を自らに指していたので、もしかしたらと探ってみたら、どうにかバレない内にその緑色の液体の入った注射器をシオリは手に入れる事ができた。

 そのせいで、アーカディア学園の入学式に遅れるし、かなり怪我をする羽目になったけど、その甲斐はあったというものだ。


 だが、結果が出るのはあと数日は掛かると思っていた。

 何でも裏界隈では、その麻薬がかなり噂になっているらしく、かなり中毒性が高いらしい。その上、人が“キャンサー”に変化するという特異性は、かなり広い裏界隈でもそれなりに大きな噂になっているみたいだ。


 そして、そんな彼等がどうやって、その麻薬を手に入れたのか。

 正直言って、そう簡単に足取りはつかめないらしく、まだまだ時間が掛かるみたいだ。

 ちなみにシオリも今日独自に調べていて、裏街道などで情報収集をしていたが、売買された記録こそ残っているものの、流石に売人までは探す事は出来なかった。


 そして、詳しい事は、今度会って話すつもりみたいだ。



 ♦♢──。



 シオリは、情報屋からの報告書に目を通すと、そのまま折りたたむようにして適当な場所にしまう。

 証拠隠滅のために燃やしてしまうのもアリだが、どう考えても寮内では火災警報装置が鳴り響く事間違いなしだ。また、薬品で溶かそうとした場合、その当薬品が見つかった時点でアウトだ。

 精々シオリは、バレない程度に隠す他ない。

 ただそれ以上に、こうして配達までしてもらって、それでよりお金が掛かるのが、少し頭の痛い話だけど。


「……──さて。明日からの授業も頑張らないとなっ」


 玖帳シオリは、である。

 やる事も終わった以上、さっさと明日の授業に備えるべく、シオリは一人だけの自室で消灯をするのだった。



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