第7話『闇(Ⅰ)』
「……此処がアズミ寮、ですか」
“アーカディア学園”は全寮制であり、生徒等は基本的に寮生活である──。
学園都市アーク内でも一等地と遜色ない設備や食事が用意されているらしい。中には、売店などもあって、生徒たちからもかなり好評みたいだ。
とはいえ、そこまでの設備があるのも、裏の理由がある故の話に過ぎない。
彼彼女等は、学園に通う生徒であるのと同時に、致死率100%のノヴァニウム鉱脈症の患者でもある。その悪い意味での影響力は、計り知れない。
そう、収容所──。しかして、現役の
「──あ゛ー。オレも寮生活しなくちゃいけねぇのかよ。めんどくせぇ」
「レオニオルさん。アーカディア学園のパンフレットには──」
「あ゛ー聞こえねぇ、聞こえねぇ」
さて、学園生活初日からカグヤとレオニオルの仲というか、そもそも相性が悪いという事が露呈しつつも、シオリたちはこれから自分たちが住む場所であるアズミ寮へとたどり着いた──。
基本的に、一人一室──まさかの個室といった大盤振る舞い。
調度品も、特別感なぞはそもそもあり得ない話だが、それでも質の良い物ばかり揃っているみたいだ。
基本的に部屋割りは、一階が一年生、二階が二年生、三階が三年生といった塩梅らしい。
「……──荷物を置いたら集合って聞いたんだけど、遅いな」
ぽつーんと、シオリ一人だけな状況──。
別に約束をすっぽかされたという訳ではないだろうし、ただ片付けの時間が長引いているだけだろうか。
とはいえ、その真実をシオリは知る由もないのだが。
まぁ詰まる話がシオリ自身、その真実を確かめに行かなくては、何も把握する事は出来ないらしい。
「──あ、シオリさん。お待たせです!」
「思ったよりも、時間掛かってしまいましたね」
「……めんどくさ」
「どう考えても、夢野の奴が。“お互いの部屋を見せ合いましょう!”なんて言うからだろ」
と、カグヤたちが通路の向こうから現れた──。
しかし何故か、険悪な様子。
とはいえ、シオリ自身険悪だとは思いつつも、喧嘩や殺し合いをしない辺り、まだじゃれ合いの類なのだろう。
「……──ところで。何故私は呼ばれたのですか?」
「あぁそうでした。帰る時バラバラでしたから、細かいところを伝え忘れてましたね」
そう言えばそんな事を言ってた気がする──。
そんな事を、当のカグヤに言われて、シオリは思い出した。
確かあの時は、先に帰ろうとしたシオリの後ろから、カグヤが声を掛けた時に断った筈だ。それでその時シオリは、寮で集合と聞いた。
さてここまでの話で、シオリが何の待ち合わせでカグヤに呼ばれたのか、まだ分かっていない。
勿論、シオリが聞き逃したとかそう言った訳ではなく、きっとカグヤはそれ以上の事を何も言っていない。
「──初日という事で、お背中の流し合いをしましょう!」
そう、得意げに発言をするカグヤ。
対してレオニオルやカノンたちは、少し面倒くさそうにしている辺り、あまり乗り気ではないみたい。
そして当のシオリは、そんな光景を面倒くさい用事があっただけに、ただただ憂鬱な気分だった。
/7
アズミ寮には、かなり大き目な大浴場が存在している。
風呂という高価な文化は、ファディアス大陸に点在する国々においてもそう多くなない上、大き目な大浴場となるとかなり限られると言っても過言ではない。
ちなみに、学園都市アークに存在する学園寮の殆どにそれなりの浴場があって、それだけに学園都市アークの経済力が分かるというものだ。
「思ったよりも広いですねー!!」
大浴場に一番乗りを決めたのは、意外というか予想通りというか、雪見カノンだった。
裸という事も相まって、同年代の彼女たちよりも発達したスタイルに加えて、背中から生えている翼がバサバサとはためく。
まるで、無邪気な子供のように見えて、その癖凹凸の効いた目を奪われそうなスタイルなだけに、傍から見れば目の毒だろう。
「──雪見さーん。走ったら危ないですよー」
「前に行った“暁ノ国”の大浴槽かな」
「あ、シオリさん。もしかして、“暁ノ国に行った事あるんですか?」
「……」
そして、次に大浴場に入ってきたのは、シオリとカグヤの二人。
さっきのカノンがかなりスタイルが良いだけに、シオリとカグヤのスタイルは控え目。それでも、平均以上はあるだけに、カノンのスタイルが女優クラスという可笑しな話なのだが。
ちなみに、カグヤとカノンとは違ってシオリは、身体能力も相まってか、素凝りばかり筋肉質ではあるみたい。
「おっ! あんまし期待してなかったが、思ったよりもちゃんとしてるなー! ──というより、お前も早く来いよ!!」
「……そんな口説き文句を言われてもねー。お先に帰ってるよー」
「おい、逃げるなっ!?!?」
そして最後に、レオニオルとニーナの二人。
桃髪のツインテールをお団子にした幼女体型なニーナは、あまりこの光景を見ても気乗りしないらしく、さっさと部屋にでも帰ろうとしているが、その反逆的行為は残念ながらレオニオルによって阻まれてしまった。
と、レオニオルはというと、若干の筋肉質な肉体な上に少しばかりの傷が目立つ。身長はカノンを越して一番大きいが、スタイルは負ける辺り、やはりカノンはおかし過ぎる。
「──ぎゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!? カノン、止め。勝手にわ゛たしの髪を洗うのは止め、止めろっ!? 目に、目にシャンプーが入ったー!?!?」
「うーん。あまり他人の頭を洗うのは慣れませんね」
「あちょっと、そこのシャンプー取ってくれませんか?」
「分かりました。あ、滑った」
「──おい、シオリ落とし──、やべっ」
「──誰ですか!? シャンプーの容器飛ばした人!!」
そんな感じで、繰り広げられるキャットファイト。
先ほどまでの少しばかりの険悪な雰囲気は、一体何処へ行ったのやら。
怒声が湿った浴室内に響き渡っているものの、その声色は親密さすらも感じさせるものだ。
「「「──あ゛ー、良いお湯」」」
「──あれ、先客ですか?」
体を洗い終わったシオリたちが、湯舟でゆっくりとしていると、次の客も来たらしい──。
別にシオリたちとて、今日も模擬戦で疲れていて、赤の他人であれば無視というより、気にしないつもりだった。
赤の他人──。そう、シオリたちが脱力したその体を動かしても尚、その体を動かしたのは、その声に心当たりがあったからだ。
「……──あれ、アカリさん?」
「カグヤさんじゃん! えっ、もしかしてクラス・ボルツの皆さん!?」
「あーこれは面倒くさい事になりそう」
三者三様に、様々な反応を見せる。
勝者の余裕からなのか、特別何かしらの強い感情を抱く事はない。特にニーナなんかは、かなり興味がないらしくて、行儀悪く湯舟に浮いたままだ。
対して、“クラス・アメジスト”の皆々は、表面上は穏やかなままだが、その鉄仮面の下には、きっと炎が燃えているだろう。勿論、男性陣はいないが、それでもその圧は健在だ。
とはいえ何しろ、面倒くさい事には変わりなさそうだ。
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お疲れ様です。
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