第2話 2022年夏の原石

「人間は皆死にたがりだ。」

「何を言ってるんだ!みんな懸命に生きてるじゃないか。」

「だからだよ。」



喫煙所に学生服を着た少年が入ってきた。威風堂々とタバコを吸う姿。法律を守らずマナーを守るとはこれいかに。せめて学生服は脱ごうよ。私みたいに。



名前などないと、そのしなやかな生き物は言った。 それは確かに脈を打った。 私は「運命」と呼んだ。


「ママ、あのね。私ね、朝がだーいすきなの。お日様登るのが楽しみで早く起きたいの!!だからね、私ね、今、ワクワクして寝れないの!!」

「あらー、素敵ね!でもお日様は一番元気なお昼に一番見てほしいと思うの。だから、お願いだから、もう寝よう・・・」



「めっ!!」

その声は部署内に響き渡った。俺を怒るつもりだったろう部長は,時が止まったように目を見開いている。

「部長、お子さんいらっしゃいましたっけ?」

違う、間違えた。部長は独身だ。

「・・・猫だ。」

その時、俺は初めてリアルで人の好感度が上がる音を聞いた。



俺がミニマリストに目覚めて早3年が過ぎた。ミニマリストは最高だ。今の世の中、スマホさえあれば大概どうにかなる。俺はベッドも冷蔵庫も電子レンジも捨て4畳半の安いアパートに引っ越した。あれだけ生活できないと思っていた俺の安月給で、半分以上貯蓄に回せるようになった。

ある日、警察がお願いと言う形で訪問があった。せめて家にいる時は服を着るかカーテンをつけて欲しいと言うのだ。俺は最後の家電の照明を外した。

                            ー究極のミニマリスト


「やった!やったわ!!私もとうとう転生したわ!!見てなさい、悪役令嬢でもなんでもこなしてみせるわ!!さぁ執事よ、私の名前を言いなさい!!」

「ティアラ様です」

「どれ?この国の名は?」

「マリンフォレストです」

「どのゲーム?小説?誰原作なの?」

「みんな、お嬢様が狂ってしまったぞ」

                        ー転生物に転生してしまったら



「人生は皆等しく暇潰しだ」とインフルエンサーがツイートしたところ、「暇潰しにしては重すぎる」というコメントが殺到していた。

「暇潰しに重いも軽いもないよねぇ」と同居人に言うと「ほんと人生ちょろいぜ」とうちの穀潰しが言うもんで、私の暇潰しも中々重めになりそうだ。


私の絵は一枚も売れないのに、貴方の言葉を載せると売れるの。 私は貴方を愛してるのに、プライドを纏った自我が死んでいく。 私の「さよなら」を貴方が笑って許すから、私の絵の全てを貴方に置いていくわ。 あぁ、何にもなくなっちゃったなぁ。

                       ー自分の才能を貴方のせいにして



悪夢を見た。夢の中で叫んで起きた。寝汗はひどいし頭は重いし最悪だ。シャワーを浴びても全然さっぱりしない。それでもルーティンとは恐ろしいものでちゃんと身なりを整えて家を出た。駅までの道すがら職質をかけられた。本当に最悪な朝。俺はズボンを履き忘れていた。悪夢だ。

                             ー深酒はほどほどに


最近残業が続いている。朝早いのに今日も夜9時半終わりだ。ささくれだった帰り道、かすかなラジオ体操の音が消えた。建築現場の足場幕の隙間から元気よく体操しているおじいさんがいた。ありがとうございますと呟いた。どんな時間でも世界を動かしてくれている人がいる。よし、明日も頑張ろう。

                              ー夜のラジオ体操



ある葬儀屋が生花販売をし始めた。花は見事に菊一色。とても美しいし、捨てるにはもったいないとは思うが、たまに花を飾る私も買おうと思わなかった。数日後、また葬儀屋の前を通ると「生花500円」の上に「未使用!!」と大きく書かれていた。違う、そういうことじゃないの。あぁ、合掌。

                              ーキクに罪はない



自分が透き通って消えそうな気がするんだ。突如襲われるこの感覚がもうどうしようもない。壁を思い切り何度も叩いたら、隣の人に叩き返された。よかった。私はまだ存在している。もう一度叩いたら怒鳴り込んでくれないだろうか。あの扉を開いてくれないだろうか。手に力が入らない。あぁ、涙も透明だ。

                               ー誰か助けて


朝起きたらベット中から靴下が片方出てきた。全く見覚えのない靴下が。 どういうことだろう。私、家に人を入れない系一人暮らしですが? 悩んでいたら玄関のチャイムが鳴った。

「すみません、上の階のものですが僕の靴下が片方そちらにお邪魔していませんか?」

どういうことだろう。瞬間移動系靴下?

                        ーこの扉、開いていいものか。



その上司の引き出しは素晴らしい。どんな薬も出てくる。胃炎、腹痛、果てはとても効く栄養ドリンクまで出てくる。部署内のメンバーはその上司を「薬箱」と呼んで感謝していた。 その部署異常だった。断トツの残業数なのに全員元気。けれど毎朝上司に薬を処方してもらうので、「薬箱」と呼ばれている。

                                ーヤクバコ


「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」

「お妃様、その美の基準は?」

「は?」

「中性的、女性的、個性的、美しさも人それぞれ。」

「なんでもいいから、私が一番美しいのかどうか答えなさい!」

「ご安心を。王様の世界一美しいは貴方ですよ、お妃様。」

「鏡よ!!」

                            ー始まらない白雪姫



それは嵐の日だった。嵐で大変なのは海上だけで、私達人魚には関係のないこと。 ところがその日は轟音が聞こえて、上から人がゴミのように降ってきた。 とにかく一際守られている男性がいたので、団子状態の人の塊ごと引っ張って浜辺に投げ飛ばした。

「急がないと!あと100人はいたわ!!」

                             ー始まらない人魚姫



好きを表現するために 「月が綺麗ですね」と表現するのが小説

顔を赤らめるのが漫画 見つめる視線でバレちゃうのがリアル

「俺のこと見てた?」って聞くのはもう少し後にして欲しかった。

                     ーバカじゃないの?って言っちゃった



自我がない人間の方が指導する方は楽でいい。人というのはとにかく教えたことを自己流でする。教えた通りにしてくれればうまくいくものを。  職場で採用、育成担当の私はとにかく自我がなさそうでメンタルが強そうな人間を好んで採用した。  最終的に全員AIになった。私か?もちろんお払い箱だ。

                          ー我を許せざるは許されず



久しぶりにマックじゃないコーヒーを飲んだ。1杯800円。一人だったら絶対に出さない値段。

「最後くらい払うわよ。」

「別にお金がないわけじゃない。」

「私も払って欲しかったわけじゃない。ここ好きなの。」

そう言って去っていった彼女が、世界一美味しいというコーヒーはただただ苦いだけだった。

                             ーコーヒー、一杯で



「貴方は"すべきだ"というのが口癖なんですね。」 と笑った貴方となんだかんだ寄り添りそうことになって45年。

乗り物嫌いな貴方のせいで一回も旅行に行けなかったわ。

なのに、言葉が自由になると心が自由になると教え続けてくれた人。

だから、貴方がお墓に入っても私は全然どこにも行けないの。

                              ー愛すべき貴方へ



些細なことが心にピンで止まる。 かったるい午後の授業。消しゴムが転がった。拾うのは後でいいやと目の端で見ていたら、斜め後ろの君が拾い上げて優しく消しゴムを撫でた。

「落としてたよ。」

「ありがとう。」

それだけがそれだけで終わらない。初夏の青空を風が通り抜ける。

                              ー青空に残す一枚



大好きだと告白したら、笑われた。そして「結婚するの。」なんてわけのわからないことを言って、後から知らない男性がやってきた。嬉しそうな顔。

ひどいよひどいよ、こんなに好きだったのに。 泣いてたらママが抱きしめに来てくれた。 ちょっと若すぎたわね、だって。 今日はわからないことだらけだ。

                         ーこいもまだかけないけど。



君と手を繋いで校舎を歩いた。 教室、体育館、階段の踊り場。君と何を話したかなんて覚えてないのに。 何気ないものを積み上げたことが、きっとかけがえのない何かだった。 夕焼けが廊下をキラキラさせてる。 卒業して君とどうなるかわからなくても、この日の君のこの笑顔を僕はきっと忘れない。

                      ー人生のアルバムに栞がついた日



「なあ、お前、彼女を姫って呼ぶってほんと?」

「マジだよ。」

「うわぁ、俺無理。」

「基本どの女性も意外と喜ぶよ?」

「そういうところがモテるんだろうなぁ。」

「あと、便利だよ。名前呼び間違えることなくて。」

「今何股してるの?」

「7股。」

「足が8本てことか。さてはお前、タコだな?」

                          ー女性はみんなお姫様。


「もう今年も半分過ぎだんだが?年々時間が過ぎるのが早くなっていく気がする。」

「同感。」

「なんか今年の目標的なものちゃんとやってる?」

「進捗−50%。」

「どゆこと?マイナス?」

「今年の目標、借金完済。」

「ということは?」

「カードローンの借入限度枠、上限上げるのやめて欲しい。」

                          ー皐月賞でやっちゃった。



私はクールな女だ。この熱帯夜の中でもスーツに汗一つつけることなく颯爽と歩くの。 コンビニでジュース片手に出てくると、目の前で女性がキョロキョロしている。

「たっくーん、どこー?」

「ここだよー!」

とコンビニの看板から男性が出てきてイチャイチャしだした。 私はジュースまみれになった。

                                 ー爆ぜろ。



「嫌われたみたいなの。あまり話したこともない子だから理由わからなくて。」

「気にするな。みんなから好かれる人なんていないんだから。」

「その子がすごい好かれてる子なの!」

「みんなから好かれるような人、パパは嫌い。特に娘を嫌う奴なんて大嫌いだ。」

そういってパパは頭を撫でてくれた。

                                ー絶対的味方



「やばい。この案件の処理の仕方が引き継ぎに載ってない。」

「いい資料があるよ。」

そう言って同僚が社内システムの奥のコンテンツを出してきた。

「すごい!動画でほとんどの案件説明されてんじゃん!」

「だよな。俺も見つけて感動した。」

「・・・なんで社内の優良コンテンツが隠されてんの?」

                           ーサラリーマンの悲哀1



今はまだパンドラの箱なんだ。 諸々の災厄が降りかかるが、最後に希望は残る。しかし、この箱を自分が開けると災厄を一人で担うことになる。 絶対AさんとBさんはこのミスに気づいているはずだ。でも言わないのはそういうことだ。 勇者が現れるか、爆発して全員で被弾するか。 ・・・爆発不可避。

                           ーサラリーマンの悲哀2



夏が始まると道端にそれは落ちるようになる。

「なんで道の真ん中に落ちるんだよ、あれ。」

「俺さ、聞いたんだけど足が開いてたら生きてて、閉じたら死んでるらしい。」

「覗きたくないんだけど?」

「そっと見てみよう、そっと。」

ビギャミギュビチギュルルピギャー!! 「うわぁーーー!!」

                                 ー蝉爆弾


「ねえ、なんで衝撃的なことがあってみんながこうやって騒ぐ時、どこかちょっと楽しそうに見えるんだろう。」

「大丈夫だよ。後でみんなちょっと、悲しくなるから。」

「そっか。そうだね。」

「寝る時、悲しくなったら電話してきてね。」

「もう、大好き!!」

                                ー優しい人



「ママー!ダンス習いたい!!」

よし、きた!貴方が興味あるものは全部経験させてあげようと決めてたの!

「何がいい?バレエとかK-POPとかダンスも色々あるわよ。」

「僕ね、『パリピ孔明』が踊れるようになりたいの!」

パリピコウメイ?今、動画見せてもらってるけど、どこで習うの?パリピ?

                       ーダンスのジャンルが多すぎる。



スイカをもらった。 嬉しい。一人暮らしを始めて果物を全く食べなくなってしまったから。 家で切ってみれば瑞々しい夏の香り。 まだ夏が好きだった頃の香りだ。 そういえばお母さんはスイカの皮で漬物を作ってたっけ。 作り方検索したらでてくるかな。 いや、やっぱり

「もしもし、お母さん?」

                               ースイカ便り



整形して絶世の美女になった友達がいた。ところが結婚したのは、顔も収入も性格もパッとしない男だった。どうしてわざわざ整形までして、よりどりみどりになったのに、こんな普通の男と結婚するのかと聞いたら


「私は普通が欲しかっただけだよ。」


と笑った。


守りたい笑顔とはこのことか。

                              ー美しさの価値



猫と戯れてるとふと思う。 この子がいずれ虹の橋を渡る時、自分はどれほどのダメージを受けるのかと。 それが怖くて、あえて早く味わってしまいたいとさえ思う。 ただ、きっと私は泣きながら文章を書くだろうことはわかっている。 物書きが諦められない人間は、感情を言葉にして昇華するのだと思う。

                                 ーエッセイ



仕事嫌だ。行きたくない。

「AIロボットレンタル-あなたの代わりに仕事行きます」

こ、これだー!! 1ヶ月後。 ふむ、レンタル料20万か。給料でトントンだ。よかったよかった。



愛猫がとても楽しそうにするので、色んなものを捕まえて家で離すようになった。 最初は小さい虫だったが徐々に大きい虫、イモリ、ネズミと大きくなっていった。 愛猫が喜んで追いかけて回っていた。ところがある日突然の宣言を受けた。

「もう今日から君は室内飼いです!」

「ニャン?」

                             ー君も猫だよね?



「いいか?恥というのは文化なのだ。脇毛は剃らないといけないと教わるから処理してないと恥ずかしいのだ。剃らない文化の人間には理解できないだろ?つまりは気にしなければ恥などない!」

「落ち着け!トランクス一丁で外出たら、恥じゃなくて罪なのよ!!」

                             ー暑いんだよ!!



ある専門YouTuberが自社製品ばかり売り込んでいると批判を受けていた。他の商品も説明してるじゃないか。そもそもいいと思って作ってるわけだから。なぜこれで炎上するのか。 まぁ自社では何も作ってない俺のYouTubeには関係ない批判だが。ところが俺にも批判がついた。

「人の良さを売りにしている。」

                         ーなんなら売っていいの?



ウマ娘にハマった。 四六時中ログインし情報を追いかけ、音楽を流しっぱなしにし、それでも収まりきれない情熱がマラソンの観戦や競馬場にまで足を運ばせた。 それでも足りない。もっとこの世界に入りたい。そしてとうとう俺は決断した。 「僕、出馬します!!」

         ー僕は、全国民がヨメに安心して課金できる社会を目指します!



父親が亡くなった。割とどうすればいいかわからない。

「幸せが気づくものなら、不幸は想像力の欠如ですよ。」

「うるさい!お前に何がわかる!」

「すみません。」

そう言って一礼をして去っていた男は、今日初めてその存在を知った父親の隠し子だった。

                      ー問題児の実子と優等生の隠し子


炎天下の中、僕は久しぶりにCDショップを訪れた。人が少なくて涼しい。 目当てのものを探していると、とても綺麗な人が何かの曲を試聴していた。横顔が涼しげで美しい。声をかける勇気はなかったので、彼女が去った後、そっと試聴の再生ボタンを押した。 稲川淳二の怪談だった。

                          ー優里あたりと思うやん?



君はなぜかまっすぐ歩けなかったから。いつも少しずつ左側に寄ってくる君のせいで、僕は道の一番左側を歩く癖が抜けない。 右側の景色の広さに気づく時、僕は槇原敬之の「もう恋なんてしない」を聞く。父親がよく車で流していた曲。この曲が僕の曲になる日が来ると思わなかった。 あぁ、空が青い。

                         ーもう恋なんてしないなんて



「君が望むなら星でもなんでも取ってきてあげるよ」 ねぇ、今がその時だよ。降ってきてよ。

                               ー星が瞬いた



「お前、真面目だな。勉強会とか出てるんだ。」

「これが面白いんだよ。今日とかさ、転生に文句言わない種族の勉強だったんだけど、地球の、特に日本人というのがあまり文句言わずに受け入れるらしい。」

「そんな種族がいるのか!?転生なんて大体文句言われて大変なのに。」

「不思議だよな。」

                             ー神々の勉強会



「もう宿題やだ!やりたくない!」

「少しずつでもやりなさい。いつも夏休み最終日になくんだから。」

珍しく旦那が諭してくれている。ありがたい。

「ママを見てごらん。仕事イヤイヤ言いながら俺たちのためにちゃんと働いてくれてるんだから。」

ちょっと待て。

                    ーあれ?もしかして息子は私そっくり?



手先が器用な人が外科医とは限らない。

弁が立つ人が弁護士とは限らない。

外交的な人が芸能人とは限らない。

望むのはその奥の笑顔


「後の歴史の教科書に絶対載るだろうパンデミック、戦争、暗殺。こんなフルコンボの時代に学生なんてマジで不幸じゃない?」

「歴史上どんな不幸だと呼ばれる時代でも、幸せに生きる選択肢がある事を今、学べるじゃん。俺、歴史の見方変わったもん」

「前向きだなぁ」

「後ろ向きよりいいだろう」


                             ー140字のエール


「ねぇ、ママ、神様っているの?」

「いると思ったらいるし、いないと思ったらいないものよ。」

「なにそれ、変なのー!」

「信じる人しか救わないからね。」

                               ー神のまにまに



部署内で陽性者が続出してしまった。ほとんど全滅の中、私だけ陰性だった。

「なんて強運なんだ!!素晴らしい!!」

と褒めたてられたが、たった今私は6人分の仕事を一気に担う羽目になっている。 強運、強運・・・いや、そうかもしれないけれど・・・



老いが怖いのは、体の不自由さではなく、毎朝自分が自分に問われることだ。

「何を成してきたのか」と。

朝の鏡の中の自分に白髪を見つけるたびに、ほうれい線によれるファンデーションを見るたびに、書きにくくなったアイラインをひくたびに。

後何千回この通勤路を歩くのか。

一番道が眩しい時期だ。"

                        ーそれでも笑って仕事をする



小学生の頃、担任の先生が家庭訪問をしてくれた。

「お嬢さんが学校でいじめられています。」

慌てた母は私に

「あんたいじめられてたの!?」

と聞いたが、私は

「いじめられてないよー!」

と言った。母は怒って担任を追い出した。

後に、ライフという漫画を読んで私はいじめられていたことを知る。


·

支払いの督促というハードな仕事をしている私だが、そんな私を癒してくれる優しい彼氏と結婚が決まった。 絶好調だったのに、今日職場でその見知った名前を見た。督促をかけることとなった。借金も判明した。 仕事の電話越しにそっと別れも告げて、私は仕事も結婚も辞めることにした。泣く。

                         ー見る目がなかったの?


「結婚相手が決まってるなんて可哀想。」

この国の人は口々にそういうの。なぜかしら。不思議だわ。 なぜこの国には「選択肢がない幸せ」がないのかしら。

「おかえり。」

一生その言葉を言ってくれる人が決まっている。 貴方と幸せになる方法を考える国。

                             ー自由とは競争



「Excuse Me?」

やばい。道を聞かれる。私はよく道を聞かれるのだが、とにかく方向音痴のため潔く断ることにしている。

「sorry…」

「スカイツリー、ドレ?」

なんだ、この人?

「あれです。」

私はスカイツリーを指差すとその人は「thanks!」と言って飛び立っていった。 アベンジャーズの方?

                        ー建物名まではワカリマセン



「有名税だと思って。」

俺の動画が炎上したことを告げると友人はそう言った。

「ふざけんな。どこに収めてるんだよ、その税金。」

「文字通り、国に収める税金。」

「はあ?」

そう言ったが俺の動画は再生回数は爆上がりした。 いや、税金が高すぎるから!!



「私、お母さんの影響で使えるものは捨てられないんだよね。」

「うん、すぐ捨てよう。これだから。家にきた彼氏に振られる理由。」

「めっちゃ収納してるじゃん!」

「一人暮らしの彼女の部屋のクローゼットに大量のベビー服あるってホラーだから!!」

「使えるんだもん…」

「着れないだろ!」

                  ーベビー服を使い倒すのは不可能に近い


「啓発本って読みたくないんだ。なんか洗脳される気がして。」

という同期に本を一冊貸した。俺の人生を変えた一冊だ。 嫌々ながら読んでくれたらしい。 それからそいつは営業成績が爆上がりし、とても明るくなった。 なぜだ?貸したのは俺がカメラを持つきっかけになった星空の写真集なのに。

                      ーお前は一体何に洗脳されたんだ?



彼氏の家に泊まりに来たら、洗面台に女物の化粧水。問い詰めたら妹がよく泊まりにくるそうだ。

「ところでこれ、貴方が買ったの?」

「持ち込みだよ。中学生だからそんなの塗らなくていいって俺は言ってるんだけどね。」

ほーう、中学生がSK-Ⅱをラインで持ってくるのね。おい、熱い夜になりそうだな。"

              ー年上の女性、下手したらわざと置いていったで確定



盗聴器が仕掛けられていた。滅多に見ない本の中に。

絶対に犯人は彼氏だ。あいつは束縛が激しくて連絡が遅れるとすぐ浮気を疑う。

とうとうこんな手段を選んできたか。

まずいな。私の仕掛けた車の盗聴器も気づいてるかもしれない。

お互いクロだから、束縛し合う。

さぁ、どちらが先に見つけるか。

                           ーそれでも好き同士


「青春だねぇ。」

今日、残業できない理由を笑われた。

毎週火曜日にダンスを習い始めた。この年齢になるまで踊ったことなどない。毎回動かない体を痛感するが、楽しくて仕方ない。毎朝練習するほどだ。

それがなぜ笑いの対象になるのかわからない。

青春できないなんて、疲れた大人の言い訳だ。

                        ー仕事はちゃんとやりますよ♬



「君は""寂しい""をどう表現する?」

日直の日報を書いてたら不意に聞かれた。彼は時々こういうどう答えていいかわからない質問をする。

「ひとりぼっち、とかかな。」

眼鏡の奥、どんな表情をしてるかよくわからない。そうか。

「一緒にいる人の気持ちがわからない、とか?」

君は少し笑った。

                                ー僕もだよ。



仕事は申し分ないが、男としてはクズな奴がいた。年齢も顔も見境ない。ただ私は何もないので会社関係は流石に手を出さないのか聞いてみたら

「あ、僕、胸がEカップ以上じゃないと反応しないんですよ。」

と爽やかな笑顔で言われた。 おい、刺される可能性を無駄に増やしてんじゃない。

                ー顔よし、気遣いよし、収入よしの男の落とし穴



うちのおっちょこちょい娘が大学で交換留学生に選ばれたらしい。

「旅券番号が〇〇と」

「いつから行くの?」

「1週間後!」

「ちょっと、あなたいつ帰ってくる気?」

「え?」

「パスポートは郵送しないわよ?怖いから。」

「…そういえばパスポートがいるね…」

あなた本当に選ばれたのよね?



学校でタバコを吸ってるのがバレて3人謹慎処分をくらっていた。二人はわかるが一人は俺の友達で、そういうことをしないタイプだと思っていたから驚いた。慌てて連絡をすると、 「吸うタイプのチョコレートだよって言われて。」 と返信。 チョコレート味のタバコあるらしいな。いや気づいてくれ。

                        ー薬とかも騙されそうで怖い…



日焼けすると赤く痛くなるタイプの私は、この時期はまさに苦行。UVカットのロング手袋、日傘、ハイネック、ロングスカートにサングラス。最近はそれにマスクだ。 絶望的な暑さに命からがら大学に着くと「貴婦人暗殺者」の異名がついていた。 うるさい、殺されかけとるのはこっちだっつーの!!

                         ー暗殺者の名前は太陽SUN



医者から余命宣告を受けた。家族もいないしそれなら動ける間、パーっと自由に生きたい。だがそんなお金もない。そうだ。

「いわくつきのもの一つ1万で受け取ります。当方余命宣告受けておりますのでお気軽にどうぞ。」

バズった。

豪遊して残った分お金で全部除霊してもらったら、なぜか私も完治した。"

                        ー次はその霊能者がバズった。



「不幸」の方を切り取られるとたまらない。

聞かれて身の上話をするといつも

「大変だったね。」

「辛かったね。」

とか言われるけど、今笑ってる私を見てほしいし、「そこから頑張った人。」と評価されるのもちょっと虚しい。

なんて、わがままかな、という話を君は気にせず横で寝てくれるから幸せです。"

                           ー猫の好きなところ。


最近のアイドルにはイメージカラーがある。私が一生を誓った推しの担当は「青」だった。

何を買うのも色が選べるものは青を買うようになった。推しに会いに行く時の服はもちろん青!

もっと青と推しに囲まれた生活がしたい。

そして私は今、オーシャンビューのタワマンに住んでいる。推しの力は偉大だ"

          ー常に自由な時間とお金が必要なので社長になりました!


憧れてたんだ。海に行こうかって何気に話したら、みんなで行こうって言い出して海にいっちゃうような関係。

だけど高校生になっても全然で。

自転車走らせた。地図では30分。だけど夏の暑さは考慮してくれない。苦しくて何やってるんだろうって思った。

だけど急に開けた世界は一面の美しい青だった。"

                      ー悔しい。けど、来年はきっと。


何かに埋もれたくなくて、啓発本を読むようになった。

お金の本、心理学の本。

だけどどの本も「このままでいい」とはいってくれない。当然だ。学ぶとは成長する意欲だ。成長とは変化なのだから。

ではこのままでありたいのに埋もれていく感覚をどうすればいいのだろう。

変わらないものがないからか。"

                             ー結局変化が強制



年取ると一日家でボーッとしていかんで、フォークソング弾こうと買っただけで放置しとったギター取り出して、今な、音楽教室いっちょるんよ。コード全部できるようになるまで死なんで、てギターやってる孫にいうたらな、これ弾くまで死ぬなって、ビートルズのイエスタデイちゅー楽譜送ってきたんよ。

「あいやー、そりゃ晋二郎さん、当分死なれへんなぁ」



捨て猫を拾った。ほっとけなかった。ペット可物件に引っ越し、チェーンスモーカーだったが禁煙した。

仕事は元々完全在宅だ。

ヤニ切れを起こすたびに猫吸いをすることにした。これが完全に癖になった。基本側にいる甘えん坊な猫なので、ずっと吸っていた。

ついたあだ名はニャーンコスモーカー。"

                               ー猫吸いは首派


イライラする小説だった。文章が下手とかストーリーがおかしいとかそういう類ではない。作者と思想が違い過ぎるんだ。イライラを糧に最後まで読み、読書記録に駄作!とだけ書いて終わった。

数年後記録を読み返した。駄作としか書いていないのにストーリーも印象に残ったシーンもリアルに思い出せた"

                                ー名作の定義



朝はコーヒーを淹れること。靴は高くてもいいものを買って丁寧に履くこと。小説は後ろのあらすじを読んで買ってみること。髪はすぐドライヤーで乾かすこと。布団はまめに干すこと。

君と別れても自分の中に残ったたくさんの習慣は、未だにいい恋をしたんだと僕に教えてくれている。"

                   ーコーヒーはインスタントになったけどね



猫が玄関に向かってにゃんにゃん鳴いていた。

この鳴き方は虫でもいたのだろう。

行ってみるとやはり小さな虫が飛んでいた。

払おうと扉の前に行くと鳴いている方向が違う。

ドアスコープを覗いてみると男の目だけこちらを見ていた。

                              ー外に虫がいるよ



結婚届けが受理されなかった。重婚になるとのこと。俺は慌てた。5年前、俺は離婚届けに判を押して出て行った。てっきりすぐ出したものと思い込んで今日に至ってしまった。連絡先も何もかもない。元妻には親族もいない。滅多に開かないメールBOXに3年前の日付で「タイムリミット」とメールがあった。

                       ー独りよがりな夫への最後の復讐



空の青が淡くなった。起きてベッドでゆっくりしている時に、一気に鳴き始めるセミの声もなくなった。まだ暑さは厳しいが、明らかに夏が終わった。 夏が大好きなので、この時期が一番寂しい、なんて、冷房をかけっぱなしの部屋の中で思う。セミに代わって鳴き始めるキジバトに、来年の夏を想う。

                                ー夏の終わり



女子会で「学生時代から付き合った人と結婚するのと、色んな男性と経験積んでから結婚するのどっちが幸せか」という議論になった。 私が学生時代から付き合っていた男性と社会人1年目で結婚することになったからだ。 次の話題は社会人何年目で結婚がベストかだ。 私以外全員彼氏いないのに。

                                ー女子会の罠



「140字小説が思いつかない!」もう潮時ですか?「最近忙しいの!!」言い訳ですか?「ぐぬぬ・・・何としてでも書いてやる。あれ?出てくる出てくる!すごいたくさんネタがでできた!」もしかしてこれは有名な・・・「待って!」 「夢の中で夢オチっていうのだけは勘弁!よおし、最悪の目覚め!」

                            ー夢にまでリテイク



初めて鼻うがいをする。鼻炎にいいと聞いてはいたが鼻に水を通すのが怖くて避けていた。やり方を何度も見ていざ!!思い切り咳き込んだ。なんだ、この感じ。この鼻の奥に無理やり水が押し込められる感じ。これを俺、味わったことある。そうだ昔、何度も水に沈められた。姉に。今、姉なんていないのに。

                          ー鼻うがいしただけなのに


友達カップルが大学卒業後、名古屋と鹿児島にそれぞれ赴任することになった。

「遠距離なんかに負けない。毎月お互いの中間地点で会うって決めたんだから」

残念ながら半年後、二人は別れた。

「やっぱり遠すぎて。距離に勝てなかった。」

「どこで会ってたの?」

「高知」

なんで直線距離の真ん中に。

                    ーせめて福岡にしてたら1年は・・・

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140Kの原石 K.night @hayashi-satoru

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