第20話 捕獲かご

初めてネズミを始末した日のことを思い出していた。粘着シートに張り付いたネズミはまだ生きているけれど、呼吸器官の半分は張り付いていて苦しそうだった。


粘着シートは元々、折り畳んだ状態の製品なので広げて設置する。ネズミはちょうど粘着シートの中央付近に張り付いていたので、わたしはそれを折りたたみ、3枚重ねたビニール袋に入れ、内側の袋から順に3枚分のビニール袋の入り口を硬く縛った。


ネズミはまだ生きているだろう。ビニール袋を持って家から外に出る。そして路上にそれを置いて体重をかけた。聞こえるかどうかわからないかすかな悲鳴と、骨や内臓が軋んで混ざり合うような音と感触をビニール袋を踏んだ足を通して聞いた。そしてなぜか悲しくて泣いてしまったし、何故ネズミは亡くならなければならなかったのかと自問し、ネズミに申し訳ない気持ちでその日を過ごした。


あれから10年、今は粘着シートは使わずに捕獲かごを使ってネズミを捕らえている。捕獲かごも使いたての頃は、捕獲されたネズミが亡くなるまで放置することがかわいそうな気がして。かごに入ったことを確認次第パーツクリーナーを一缶使って凍死させてからビニール袋に入れて捨てていた。生きている状態のまま餓死させるのが怖かったのだろう。


今では、捕獲かごにネズミが入ったら何もせずに1週間放置してから捨てている。対象であるネズミを捕獲して餓死させ、捕獲機を開けて取り出し、ビニール袋に入れることに心は動かされない。生活に害のある獣を処理する、ただの作業になった。


昨日の夜からネズミの足音が聞こえ出した。今日は久しぶりに捕獲かごを設置するつもりだ。

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墜落 neon.soda.popn @neon_soda_popn

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