第19話 蛇の町

町にいる方々、聞いてください。

夕立が濡らしたアスファルトの上に座った蛇が言う。


蛇が所属する朝顔組合のシャトルバスの座席がひとつ消えたこと、それから木琴の羽を持つ鳥の一族の最後の一羽が町から出て行ったこと。蛇はたいそう悲しみ目が泳ぎ、焦点が定まらなかった。再び夕立が始まり、雨粒の音をアスファルトに響かせながら川になった。蛇は涙を流し、涙は川と混ざり合って膨張し、海になった。


町の人たちに向かって蛇が言う。

みなさん、大丈夫ですよ。私があなたたちの柱になります。


蛇は海の上に薄く伸び、町の人たちはその薄く伸びた蛇の上で暮らすことになった。


薄く伸びた蛇の一部はときおり破れることがあり、海の表皮を覗かせることもあったが、その度に木琴の羽を持つ鳥がやってきて治してくれた。朝顔組合のシャトルバスは海に沈んでいる。消えた座席は薄く伸びた蛇の上に姿を現し、木琴の羽を持つ鳥の住処になった。


夕立が降る季節がやってくると町の人は数名減って蛇になり涙を流していた。

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