第18話 里芋
レインウェアを選ぶために日本橋のビルの入り口に立っていた。雨粒が頭に当たって見上げると何かが降っているように思えた。ノートの片隅に里芋を描いたことがある、小さくて柔らかなそれは雨粒の苦さにも似た繊細で異質、でも決して裏切らない、そんな意志を感じた里芋だった。
今里芋と一緒にレインウェアを選んでいます。実は最近、凍った雨粒が降ってきたことがあって手持ちのレインウェアでは寒くて痛くて耐えることが辛いと感じたから。
このレインウェアはどうかな?と私は里芋に聞いてみる。ニコニコと笑顔で見つめてくれる里芋はそれがいいよと言っているようだった。
今日は帰りに銀座の地下にあるハムのお店に寄って、里芋と私のどちらも好きなベーコンを買おうね。一緒に縁側で座布団を蹴りながら涼しい夜の日々を過ごそう。そんな話をしながら里芋と歩くことが週末の楽しみになっていた。
今日の天気をお知らせします。胡桃の木の中にあるモニターから映像と音声が出ていて、私たちはチラと歩きながら数秒間の間胡桃の木の中を覗き込んだ。胡桃の木は怒っていた。怒っていることを隠すために天気予報を流していたのだ。恐怖を感じた私と里芋はそこから動けなくなってしまったが、胡桃の木は私たちを許してくれた。怒っているのは悪いことではないんだって。ただ、胡桃の木は怒りたいから怒っているだけなんだそう。
無事ベーコンを買って家路に着く。途中空豆の炊き込みご飯を持ったお婆さんから炊き込みご飯のお裾分けをもらった。今日も楽しかったね、と私たちは笑いあって家に帰る道を楽しんで歩く。
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