11話 牢に繋がれる
墨鯉宮側の龍頭宮入り口。入り口として用意されている鏡を抜けていくのだが、錦衣衛はランイーが去っていくのを待つ。そして、完全に姿が見えなくなった所で、何か不思議な紐を手に巻きその鏡に触れる。
澄んでいた鏡は歪み黒い闇へと変わった。
「暫し、貴族牢にて身元を預かる。こちらとしては、
「わかりました」
引き渡された僕は、素直に錦衣衛の後ろをついていく。
黒い鏡を通り越すと、そこは見たことのない暗い屋敷の中であった。
錦衣衛は迷うこと無く、僕の縄を持ったまま歩みを進めていく。
その間、セイはぐるりと僕の身体を這うようにして動きつつ、何かしているようだ。
正直こそばゆいのだが、今ここで迂闊なことをすると怪しまれてしまうので、我慢して錦衣衛の背中だけを見つめる。
それにしても錦衣衛なのだから、嫌味の一つや二つ、言われる覚悟で来たのに。
彼は真面目なのか何も言わない。
暫くして、数名の錦衣衛が前から歩いてきた。
その中で一番前を偉そうに歩く中年の男がこちらに気づいた。
「それがそうなのか?」
「長官、はい、連れてまいりました」
「全く、まあ良いこの
箱?
不思議な単語で、中年の男が指した方を見る。そこには簡素な扉があり、どうやらここが貴族牢のようである。
「承知しました」
この錦衣衛は、相変わらず淡々としたままその扉を開いた。
扉の向こうは暗闇が続いている。
その時、僕は思い出した。
花の島で、捕まる時に入っていたあの箱のことを。でも、ここで逃げるわけにもいかない。
その時、するりと自分の耳を細い何かがするすると纏わりつく。そんな事をするのは一人しかいない。
「リュウユウ、行け、大丈夫だって聞いているから」
安心させるような声で囁くセイ。誰から聞いたのか気になるところだが、でも今はそれしか方法が無いのだろう。
僕は意を決してその扉の向こう暗闇に入っていった。
そして、一番最初に見たのは、真っ白な煙に包まれた部屋。臭い鼻につく独特な匂い、僕はこの匂いを知っている。
「た、煙草、くさっ、ゔぇっほ、えっほ」
むせながら必死に有害な煙を手で振り払う。煙草なんて百害あって一利なしの極み。しかも、龍髭国では、この煙草を占い結果を受けて、禁止にしていたはずなのに。
そう思いながら必死に前に進んでいくと、奥の方に見たこともない人が、煙草を片手にこちらを見ていた。
「あああ? っんだ、このチビィ?」
大きくて、中肉中背ながらびっしりと仕立てた背広をかっこよく着こなす男の人。白い肌と黒くて長い髪を束ねている。
なによりも、その耳は縦長で先が鋭く尖っていた。
「ぼ、僕は、リュウユウと言います。あ、貴方は?」
どうにか調子を戻そうと思い、心を落ち着けつつ話しかける。しかし、男は更に不機嫌そうに顔を歪めた。
「あ? 俺知らねぇの? 龍髭国にわかか?」
「知らないですよ!」
「あーまじ? まあでも、そうだよな。知ってれば、
男はにっこりと笑うと、僕の顔からすっとずらした。全てが全てついていけない。
何を言ってるんだ、この人は。しかし、男は僕を置いてけぼりにしたまま、なにかに向かって口を開いた。
「ご苦労だったな」
男の声掛け、すると暫くして背中側になにか熱いをものを感じた。振り返ると強く眩しい光が僕の目を焼く。
目を細め、よく見れば緑色の炎を発しながら燃える黒猫がいた。
「なんだ、
緑色の光は猫の目からも溢れる。その目はあの時暗闇で見た謎の火の玉。何故それが、ここにいるのか。信じられない物を見た僕は、すぐに手に鞭を握り、僕の金丹の中で眠るトゥファを起こす。
「不満か?」
「ああ、不満だ、ボスを探すのは
「
臨戦態勢の僕とは違い、この一人と一匹は和やかに言葉を続けている。
すると、猫が飛び跳ね、ぐるんと一回転したと思った。一瞬の出来事だったが、その猫は大きな成人男性へと変貌した。黒くてスマートな腕出しの服。眠そうな顔に先程の炎と同じ緑色の髪と目。そしてなにより、身体にはたくさんの入れ墨が彼の身体を彩っていた。
そして、次の瞬間、見たこともない武器を入れ墨の男は手に握り、ばんっと一発緑の炎らしきものを撃った。
ボスは間一髪で避けるが、その代わりにぶつかった壁が燃えて貫通している。
「おい、
ボスはケラケラと笑っているが、笑い事ではない。
「た、建物が! 燃える!」
龍髭国の建物は基本木造主として出来ている。勿論場所によっては石であったり、金属であったり、土であったりするが、基本的には木だ。
そのため、火は大敵。
その為、視界に映る燃え始めた壁。僕はわけわからない状況の中消火しようと、そちらへと向かった。
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