10話 親友
「リュウユウ、ここは?」
「普通に捕まると痛い目合いそうだからね。ここなら、ちょっと手伝ってもらえるかなって」
今龍膝宮から朱鯉宮に来た僕は、そのまま身を潜めるようにとある建物に向かっていた。そこは
そこは、この龍髭国で働く文官たちの住む場所として知られていた。
僕は慣れたように鞭を取り出すと、その宮の壁に蔓を生やし、器用に上に登っていく。
「どこに向かう」
「信頼できて、仕事の功績挙げるのに必死な人のところ。セイ、身体のどっかに隠れててくれる?」
「わかった」
セイの問いかけに含みを持ちつつ答えた。たまには仕返しだと思ったが、彼は淡々と了承するとするすると、僕の
どんどんと蔦を使って渡っていく。そして、一つの閉じられた窓の前に着いた。
僕は、慣れたように細い蔦を窓の隙間に忍ばせ、施錠を外し窓を開く。
すると、そこには一人、裸で分厚い本を読む男がいた。
「……おい、リュウユウ。緊急事態以外は窓から来るなと言ったよな?」
「ごめん、ランイー。今はその緊急事態なんだよ」
彼の名前はランイー。僕と一緒に龍仙師試験を受けに来た友人であり、今は文官長への出世を目指して邁進してる人だ。
「今お前、扱いとしてはお尋ね者だぞ。何したんだ?」
どうやらランイーのところにも、今回のことが連絡が来てるようである。ただその顔には、呆れが強く、あくまでも確認のために聞いてきてるのがわかる。
「何もしてないんだよね、今も昔も」
なので、素直に返せば、ランイーは軽く白目を剥いた後、大きくため息をついた。
「ああ、わかった。
首を振ったランイーは、頭が痛そうにしながら、本を置き、近くにあった服を着始める。その顔は随分と暗い表情である。
「お兄さんは、まだ?」
「駄目だ、家にある水やら茶やら酒やらを飲み干しそうな勢いだ」
「そっか……」
この国の上層部に蔓延り始めた狂死、ただこの死に方は不安定なもので、中には死ぬに死にきれなかった人もいる。
それが、ランイーのお兄さんだ。
元々、錦衣衛として立派に働いていた彼は、今年の初め、地方の屯所にて池に飛び込み、溺れながら水を飲み始めた。
あと少しで死ぬところを、他の人が助け出したのだが、それ以来水みたいなものを飲み干そうと暴れ狂うようになったのだ。
「今は田舎に幽閉中。治るかはわからないけれど」
「そう……どうにか、正気に戻ればだけど」
「原因が分からなければ、突き止められない。全く、調査している龍仙師を混乱に落とす考えが俺にはわからない」
声や表情的に諦観に近い雰囲気ではあるが、根底にあるだろう怒りの炎がちらつく。
「で、リュウユウ。何しにきたんだ?」
「ランイーにお願いがあってね」
「なんだ? 逃亡は手伝わないぞ。今俺が頑張らないと家に迷惑がかかるからな」
先手を打つように言い切るランイー。たしかに、普通ならそのお願いをしにきたと思われても仕方がないが、生憎そんなことするなら龍に乗って逃げたほうが早い。
「逆だよ、僕を捕まえてほしいんだ」
「は?」
予想外なお願いだったのか、ランイーは思わず顔を顰めた。
「ちょっと色々あって、でも錦衣衛の前に飛び出したら痛い目見そうでしょ。だから、穏便にランイーに説得されて自首した構図がほしいんだ」
言葉を濁しつつ、上手く取り繕いながらランイーに説明する。ランイーは、じっと聞いた後顔を歪めたまま口を開いた。
「上司には頼まないのか?」
「上司たちは、止めるだろうからね」
「俺なら、やるだろうってことか」
「親友から諭されるなんて、最高の話の流れでしょ」
「……ああ、いいぜ。上手くやれよ」
ランイーは何かを感じ取ったのか、やれやれと言いたげに肩を竦めた。
次の日の早朝。僕はランイーに腕を縛られる形で、墨鯉宮から錦衣衛のいる龍頭宮の入り口までやってきた。
僕の顔に気づいた錦衣衛の門番は、ランイーと僕の顔を交互に見た後、ランイーと言葉を交わす。
「我が友人であるリュウユウを説得し、こちらへと参りました。この結ばれた縄はその証でございます」
恭しく拱手をしながら、錦衣衛の門番に頭を下げる。僕は拱手はできないため、頭だけを一緒に下げた。
「文官殿、ご協力感謝する。名前は?」
「名はランイーと申します。所属は、事務官をしております」
「承知した。この功績、しかとお伝えしよう。それでは、リュウユウ、こちらへ」
そして、予想通り、穏便に僕はランイーから錦衣衛へと引き渡された。
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