6話 宴会場にて


 ジンイーに連れられるがまま、宴会場に入ると、そこには既に龍仙師たちが集められていた。勿論、何人か顔見知りの姿が見えない。


「リュウユウ、貴方は一体何をしてたんですか! 心配したんですよ!」

 軍服だけのジョウシェンが悲壮感をにじませ悲鳴に近い声を上げる。駆け寄ってくる表情から、僕までも捕まったかもしれないと心配してたのがわる。

 ジョウシェンの後ろには、彼の着ていた龍髭深衣の大袖衫を頭にぐるぐるに巻かれた人がいた。彼の顔は見えないが背丈と、頭に巻かれている大袖衫がその人しか着れないものだから。


「ルオ、その頭どうしたの!?」

「いやなんか、私も捕まりそうになったのだが。ジョウシェンが『この大袖衫が見えないのか』とどうにか跳ね除けた。そしたら、この柄を見えるようにとぐるぐる巻きにされてな。

 流石ジョウシェンだ、機転が利く」

「ルオ様は呑気すぎるのです!」

 ハハハハッと大らかに笑うルオに、相変わらず小言が叫ぶジョウシェン。すると、宴会場に今度は険しい顔をした元帥と、顔を真っ青にしたグユウが入ってくる。そして、その二人は真っ直ぐと僕たちのところに来た。そして、元帥は低く唸るように僕達へ忠告した。


「ルオ、お前のことを錦衣衛が探している。多分だが、占術師が余計な世迷い言よげんを残したらしい。そして、リュウユウ、お前も逮捕候補には上がっているのがわかった」

「え! なんで……」

 次々と信じられない言葉を向けられた。捕まらなかったのは、運良く母親の元へと向っていたからか。でも、捕まえられる理由がわからない。

 困惑し、上手く言葉も紡げない僕。口を薄く開けたまま、元帥の顔を見上げる。


「それは、私が説明しよう」

 そんな僕たちのところに、本来ならいるはずのない人の声が聞こえた。凛とした強く美しい声。


 皆が振り返り、条件反射的に跪く。

 それは、元帥も、グユウも、ルオも全員がだ。


「皆のもの、顔を上げろ。時間の無駄だ。ああ、久しいな、ルオ、ジョウシェン、そして、リュウユウ」

 彼女は、龍髭姫。美しい黒髪を纏め、金色の髪飾りと龍髭深衣、なによりも凛とした切れ長の目元が特徴的な、眉目秀麗な方だ。


「錦衣衛が、占術師の最後の遺言を伝えてないと知ってな。私が奴らの失態を拭うべく、伝えに来た。良いな、オンソウ」

「はい、姫様」

 姫は涼し気な顔であるが、言葉尻から相当怒り狂っている様子だ。それにしても、錦衣衛が伝えてないということは、あの集会ではわざと教えなかったということなのだろう。

 やはり、騙されたのだ。錦衣衛に。

 母親が話していた事も思い出し、それも関わってくるのだろうと僕は思った。

 ざわりと、周りの龍仙師たちも動揺からか一瞬だけ騒がしくなるが、すぐに姫の前だと口を閉じる。姫は静かになった後、言葉を続けた。


「占術師は最後、星を見上げ、燃える火の灰を庭に撒き散らしたあと、焼け爛れた己の手で自分の目玉を掻き出し死んだ。所謂、狂死と呼ばれるものだ。私も定星月前の占いだと聞き、その場にいた」

 壮絶なる光景だ。聞いているだけでも想像以上の惨状に、僕は思わず唾を飲む。そんな場所に、この姫はいたのだ。


「その時の遺言はこうだ、と思われる。正直、火に燃えつつ叫んでいたから、確かとは言いづらいが」

 遺言とわざわざ言うのだから、予言とは違う何かかもしれないが、今回の騒動に関わりがあるのは確かだ。姫は重い口を開いた。


「長き時を歩む人

 積もる恨み解く

 我が龍に放つ炎

 栄華は灰と化す」


 皆が息を呑む。

 なにせ、この遺言は、暗にこの国の滅亡を示しているのだから。


 そして、その犯人は長き時を歩む、この国を恨む人たち。

 その昔、この国に力を奪われた花の国の人達も当て嵌まるのだ。

 では、何故、ルオやシュウエンも含まれているのだろうか。


「ルオ。お前は、先代のせいで都落ちさせられただろう。それを恨んでると思われている。長い時を経て恨んでると思われてもおかしくはない」

「母上が後宮の権力争いに負け、気が病んだだけなのだがな」

 姫の言葉にルオは淡々と返事をする。そんな出生の秘密がと僕は思わず驚いた。でも、確かにルオとジョウシェンは田舎から来たと話していたので、なんとも納得ではある。


「リュウユウは、『飛花落葉の日』の経験者だ。花の島にはこの国は大層恨まれている」

「そうですね」

 それに関しては素直に認めるしかない。未だに手の刺青を入れ直す時、島の男達は龍髭国の錦衣衛を酷く憎々しげに見ている。


「あと、他に捕まった人達も……」

 そう言って、姫はそれぞれの隊から捕まった人たちの話をする。どれも昔この国の占術とやらで酷い目にあった人たちや、周辺国から来た人たちばかりだ。

 長い寿命を持っているか、この国へ恨みがある可能性がある人たちが軒並み捕まったよう。


 しかし、その中にシュウエンの説明はない。


「以上だ。申し訳ないが、まだやることがあるため、私は失礼する」


 姫はそう言うと足早に宴会場を去っていく。僕は今だに顔が青いグユウに飛びついた。


「シュウエンさんは、シュウエンさんはなんで捕まったんですか!?」

「……リュウユウ、すまない。それは、言えないんだ」

「な、なんでですか」

「すまない、ただ、リュウユウ。出来ることなら、身を隠してほしい……もう、ここも錦衣衛が王族の権力で侵入するようになったせいで、安全ではない」

 グユウはただ、謝るばかり。他の人達も慌てふためいている。隠れると言ったってどうすればいいのか。家に帰るわけにもいかない。

 どうしようと、頭を抱えた時、後ろで誰かが飛び跳ねた。


「リュウユウ、グユウを責めても仕方ないだろ! とりあえず、ルオとリュウユウは、錦衣衛も流石に来ない場所に隠れるしかないな……あ! 良いところ、あるぜ! この兄貴に任せてくれよ!」


 場に似合わない程、元気溌剌はつらつ天真爛漫てんしんらんまんなその人は勿論、兄貴ことハオジュンであった。


 

 

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