4話 弔いと関係性
龍髭国南部の国境へとまた戻ってきた僕達と、弔いをするべく着いてきた龍仙師二班班長のグユウ。辺りには半円の水の壁を張り巡らせて、僕たちの行動を見えないようにする。
そして、ジョウシェンは自分の龍であるティエクァンに指示を出し、あの骸骨の腐臭や
「シュイシュイ、『
シュイシュイの鳴き声と共に、穴に水が満ちて、
その後水が大きく旋回し始めた。水音と共に、辺りに満ちていた瘴気等が和らいでいく。
「暫くしたら、埋葬の準備が出来るだろうね」
グユウは少し悲しそうに話す。埋葬するのはあの人が僕達を襲った時の骸骨兵士たちだ。今は、僕の龍であるトゥファの蔦籠の中に入れられている。
「この骸骨を埋葬ですか……異国の地で、良いのですか? 故郷に返すのが、通例ではありますが」
「彼らの故郷はもうない。黒鳶国は、隣国である
ジョウシェンの問い掛けに、グユウは少しばかり掠れた声で答える。
「なんで、黒鳶国は侵略を……」
僕は思わず呟くと、グユウは困ったように頭を小さく横に振る。
「表向きの理由は、黒鳶の兵士たちが侵略してきたかららしいけれど。戦の真相は、神以外誰も分からないだろうね」
そういうものなのだろうか。でも、僕も遠くの国のことは、ほぼ書物でしか知らない。
「リュウユウ、埋葬を始めよう」
「はい、トゥファ、籠の中のをここに入れて」
「キュイッ」
水流が収まった穴の中に、籠の中身を入れる。土やごみ、そして、動かぬ黄ばんだ骨たちが、がらんごろんぼちゃんと音を立てて水の中に沈む。既に脆くなっていたのだろう、骨たちはどこの部位のものか分からないくらい粉々になっていた。
「リュウユウ、弔いするための花を。ジョウシェンは、火を」
「わかりました、『開花』」
仙力を使い、自分の手に青く星の形をした花たちを咲かせた。そして、その花を摘み取り、グユウに渡す。グユウはその花を受け取った。そして、その花にジョウシェンは火を点けた。
「鳶の者達よ、異国の地が新たな故郷となり、その
グユウは燃えさかる炎の花を、水の中へと投げ入れる。火と水が合わさり、小さな煙が天へと登っていく。これは龍髭国の弔い方であるため、本当に弔えたのかは定かではない。
その後、掘った土をゆっくりと被せ、僕達は手を合わせた。
こうして任務が終わり、あとは屯所に帰るだけ。しかし、僕はまだ心に残っていた突っかかりがあった。
「それにしても、なんで、あの人は元帥に保護されたんでしょう」
僕の問い掛けに、グユウは困ったように振り返る。国同士の問題ではあるからして、かなり重要な人物なのかもしれない。どんな答えが返ってくるのか、僕は胸を高鳴らせて待った。
「ああ、それは、元帥のかわいい教え子だからね。ずっと喧嘩してたらしいけど」
「教え子……?」
「元帥の趣味のね。なんの、趣味かは知らないけれど」
「趣味……」
「そして、元帥曰く『三年間くらい八班に
「おもり……」
予想外を超えた答えに、僕の顔から表情が抜け落ちていく。それは、職権乱用ではないのだろうか。けど、あの元帥ならやりそうなこと。僕とジョウシェンは呆れた顔で顔を見合わせた。
「あと、今回どんな事件なのか、リュウユウ、分かるよな」
「は、はい……それは……」
急に名前を呼ばれた僕。グユウに言われた通り、ゆっくりと今回の事件について思い出す。
今回僕たちを困らせている未曾有の事態、それは『龍髭国要人発狂死』である。
始まりは一年ほど前、宮中にて龍髭帝嫡男であり、次期皇帝と言われていた人が発狂したことから始まった。
周囲にいた皇族の護衛である
何か気を病んだか? と、内々に処理をしようとしたが、ある日料理長が煮えたぎる油を浴びて亡くなった。ある日は錦衣衛が、ある日は後宮に住まう
そうして、一人、また一人と発狂して死んでいったのだ。それは、宮中だけなのかと思えば、龍髭国各地の富豪たちにも発狂死が相次いでいたのだ。
そして、発狂死だけではない。これと同じ頃から高齢の要人たちが、急激に衰弱し死に至ることも増えた。それにより、地方各地の役所仕事が滞り、国が少しずつ機能不全になってきている。
こうして、発狂死が出ていない龍仙師たちに調査依頼され、今は僕達二班が追っている。ここ一年様々な原因を追求したが、未だに原因がわからないけれども。
「瘴気による死なら、要人ではなく、民から死んでいく。というよりも、瘴気が原因ならもっと前にわかるだろう」
瘴気というのは、言わば無差別な呪いや病気の元であり、基本的にはこの辺りの民や幼子から
「呪いでもないですし、毒でもないですし、そう考えると、ここで隠れていたあの人のせいにはできないですね」
ジョウシェンの言葉に、僕とグユウも頷く。呪いならば、その痕跡が必ずあるはずだ。しかし、痕跡はいくら探してもない。
また、毒の疑いもあったが、毒見係も問題なく、同じ食事をした子供達は無事だったためその線も薄い。
「謎ばかりですね」
僕は困ったように空を見上げた。
夕日に染まり始める。グユウの「帰ろう」という言葉とともに、僕達はそれぞれの龍の背中に乗った。
しかし、この悪夢は止まらない。僕たちを更に混乱させる事態が起きたのはここからまた数日経った時だった。
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