護衛と季節雨編
28話 使えない武器
グユウ、ハオジュン、ルオ、ジョウシェンと共に久々にやってきたのは、あの地下の工房だった。扉を開けるたびに強くなる熱風は、相変わらずであった。
ジョウシェンも僕も前よりは辛くないものの、やはりその熱さはじわじわと体を蝕んでくる。その奥で相変わらず鉄を打っているイ先生は、奥まで来た俺たちを一瞥した。
「やっと、全員放出まではできるようになったか。遅かったな」
ぐさり、その言葉は的確に僕を貫いた。確実にそれは自分のせいであるのは、明白だった。余りの罪悪感に、引き攣りそうになる顔をくっと堪える。
そんな僕を知ってか知らずか、イ先生は一旦鉄を打ち終えると、三つの大きさが違う箱を取り出してきた。そして、その箱たちをハオジュンに押し付けた。
「お、ハオジュン兄貴の出番だな! イ先生、預かるぜ」
イ先生のぶっきらぼうな行動だが、ハオジュンは楽しそうにその箱を軽々と受け取る。手から離れたその箱から、イ先生は僕達の方に視線を向ける。
「これはお前たちのだ、あとは銀髪から説明でも聞け」
そして、イ先生はそう言うとまたもや作業に戻っていった。グユウは「イ先生、ありがとうございます」とイ先生に頭を下げたので、僕達もそれに連なって「ありがとうございます」と頭を下げた。
イ先生はこちらをもう振り向くことはない。
グユウはそれにも気にした風もなく、「じゃあ、行こうか」と僕たちに声を掛けた。
今度は最上階の天守閣に向かう。そこには他の班の龍仙師たちが龍に乗って、偵察へと向かうところであった。
それぞれが武器を握りしめたまま、仙力の具現化を軽々と行っていく。そのうちの一人が、天守閣に入ってきた僕たちに気づいたのか、すいっと青色の龍がこちらに向かって飛んできた。
「お、二班じゃねぇか! おい、グユウ、久々に熱砂楼に行くんじゃねぇか?
「イージュン。ああ、まあ彼も多分王宮にいると思うから、そう伝えるよ」
イージュンと呼ばれた青色の龍に乗った龍仙師は、たしか四班班長。随分気さくな人柄であり、僕にも以前声を掛けてくれたことがあった。
「じゃあな、新人たちも初任務頑張れよ。あと早く、龍に乗れるようになれよ! ランバイ、戻るぞ」
そう言って、イージュンはすでに空にいた班員たちの元へと戻っていく。話の内容的に
「あ、いえ、アイツって誰なんだろうと思って」
「ああー……会えばわかるから、楽しみにしておけよ。じゃ、さっさと武器配るぞー!」
ハオジュンは少し楽しそうにそう言うと、もう話は終わったと言わんばかりに箱を配り始めた。箱の表面には達筆な文字で「鞭」と書かれている。他の二人の箱には、鉄扇、直剣と書かれていた。
「おら、さっさと開けろ。今から武器の説明するんだからよぉ!」
「こら、ハオジュン、言葉遣い。まあ、とりあえず開けてもらってもいいかな?」
この二人に促されるまま、蓋を掴み、中を開ける。
「わあ」
そこには小さな木組みが何層、何百層にも連なって作られた鞭。一つ一つの自然な木目が美しく、相当時間を要して作られたのがわかる。そして、なによりも鞭の持ち手はただの木ではなくその周りを持ちやすいようにと、黒い布が巻かれていた。
「すごい、本当に木の鞭だ」
僕は優しくその鞭を箱から取り出す。そして、持ち手の部分だけを持って、その先がカタカタと心地よい音を鳴らしながら、床に落ちていく。その動きもとてもしなやかであり、美しい。
自分の武器だ。
なんとも言えない感動が心から込み上げてくる。
「私も青銅の剣だ、リュウユウのもまた手が込んでいるな……って、泣いてる!? ど、どうしたのか?」
「ずびばぜんっ、なんが、ゔれじぐでぇ……」
ルオもまた楽しそうに美しい彫刻が掘られた青銅の剣を見せてくれたが、僕の視界は溢れる涙のせいで彼を驚かせてしまった。僕が泣く度に慌てふためいてしまうルオの後ろから、ジョウシェンがひょいっと顔を出した。
「ルオ様、リュウユウの感情が今乱れやすいの、昨日の今日で忘れましたか? まったく。
私のも扱いやすそうな鉄扇で良かったです。ほら、リュウユウはこの布で顔を拭きなさい」
ジョウシェンはすっかり扱いに板についたのか、用意してくれてただろう布を僕に差し出す。僕は「ありがとう」と伝え、受け取った布で涙に濡れた顔を拭く。
刺青を彫り直してからというもの、感情がぶれぶれになって泣いてしまうことが多くなった。昨日も大好物の苫東と卵の炒め物を久々に食べた時に、思わず溢れた美味しいという感情で泣いてしまった。
まさか、悲しいでも楽しいでも美味しいでも嬉しいでも、涙が出るなんてと思ってしまう。
なんとか、深呼吸をして心を落ち着け、改めて鞭を見た。
「よし、三人共それぞれ武器を持ったようだね」
グユウはそう言うと、いつの間にか彼の手には美しい銀色の直剣が握られている。
「じゃあ、とりあえずお前らには、これから俺たちの真似をしてもらうぞ」
また、隣りにいたハオジュンもあの黒鉄の大斧を手に持っていた。そして、二人ともそれを右手で握り、真っ直ぐ自分たちの前で突き出すようにする。
勿論、僕たちも「はい」と返事をした後、自分達の武器を右手で握り、前へと突き出した、
「では、まず、ゆっくり武器に向かって仙力の放出」
「武器の先まで仙力垂れ流せよ」
「「「はい」」」
僕たちは言われたように、金丹から仙力を武器へと流すように放出する。鞭の先まで仙力を流すようにゆっくりと流していく。すると、鞭がきらきらと緑色の光に帯びていく。
ルオは青。ジョウシェンは金色。グユウは銀色、ハオジュンは濃い赤色。それぞれの光を帯びた武器たち。
「では、それを今度は流した仙力を
僕たちは言われるように、目を瞑って仙力を今度は身体の中に戻すように、循環を始める。その武器に溢れている仙力が、体に戻ってくる。
そして、ある瞬間、手にあった武器の感触がなくなった。
驚いて思わず乱れそうになったのを、なんとか収めたあと、ゆっくりと目を開ける。
「あれ、武器は?」
そう、全員手に持っていたはずの武器がなくなっていた。
「ど、どういうことです?」
ジョウシェンも驚いたのか声を上げ、ルオは面白かったのか「ハハハッおもしろい」と笑っている。
それぞれの反応を示す新人三人に、ハオジュンはまるでシュウエンのような少し意地悪そうな笑みを浮かべた。
「へへぇん! さて、武器が出来上がるまで具現化出来なかった三人諸君」
その呼び名に、僕は思わず顔を引き攣らせる。
「これから、お前たちは遠征の間、自分の仙力に溶け込んだ武器の具現化をしてもらう」
ハオジュンの言葉に、僕はただただ困惑する。武器が仙力に溶け込むというのがよくわからないが、龍仙師の先輩である彼が言うのならそうなのだろう。
でも、それ以上に嫌な予感がする。
「できない間、お前たちは
そして、その予感は的中した。
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