27話 仙力をこの手に

 

「はあい! できました! とりあえず、信力だけは封じて、仙力は出せるようにしたよ」

 

 シャノンは刺青を刻み終わると、美しい紋様が施された白い万年筆のような刺青を刻む道具を、僕の手の甲から離した。

 

「ありがとうございます。凄い、痛くなかった……!」

 

 丁寧かつ迅速な処置のお陰で、今まで経験してたものとは比べ物にならないくらい、苦痛というものが全く無かった。

 

「痛みを緩和する処置をしてるからね、この刺青筆」

 

 刺青筆と呼ばれた道具を、シャノンは僕の前で自慢するように見せつけた後、持ち運び用の箱に仕舞う。その箱も美しい白い箱で、所々美しい貝殻が埋め込まれていた。

 僕はその横で、また改めて彫られた刺青に目をやる。

 

「今まで泣きたいほど・・・・・・ほど痛かったのに」

 

 少しばかり赤くはなっているが、全くと言っていいほど痛みはない。

 しかも、刻む様子を僕は目の前で見ていたが、あまりにも美しい動きで、錦衣衛がやったやつとは格段に綺麗さが違う。

 

「龍髭国は封印もしかり、呪術に関しては邪教扱いになるから、進歩しないんだよね。うちの国に来れば、俺がちゃんと教えるんだけどね!」

 

 にっと笑うシャノンは、正に後光が差したような眩しい笑顔で、任せとけと言わんばかりに胸を叩く。そして、そのまま「ハニー!」っとシュウエンの元へと返って行った。

 僕は手の甲を擦りながら、その様子を見ているとセイと目があった。

 

「……多分、ここからは俺らがいない方が都合が良いだろうな。リュウユウ、ここでのことは秘密だから、ぽろりと言うなよ?」

「それは、セイもだろ!」

「俺は、口は固い男だからな。では、俺たちはここで」

「私も、皆様に幸あらんことを」

 

 最後まで減らず口を叩くセイに対して、元気よく言い返せば、セイは隙かさず言葉を返した。そして、僕が反論する隙なく、他のメンツに一礼をすると、ウェィズを引き連れて出ていった。

 

「セイ! 今度ご飯奢るね!」

 

 僕は彼の後ろ姿にそう声を掛けると、セイはひらひらと手を降って、出て言ってしまった。感情が昂ぶるせいか、その寂しさのせいで涙が目尻に浮かんでくる。涙を流れる前に、自分の手で優しく拭った。

 

 そんな僕の側にグユウは歩み寄ってきた。

 

「じゃあ、リュウユウ、仙力の放出をやってみようか」

 

 仙力の放出。

 その単語にハッと身体を跳ねさせた僕は、慌ててグユウの顔を見る。優しいながらも、その目には確証が宿っていた。

 

「自分で書いたモノなら、簡単に調整できるのが呪術だからね! 今のうち、確認しなきゃね!」

「そうだよな! シャノン様がいるうちにやっといたほうがいいぞ!」

 

 シャノンとハオジュンからもそう言われ、僕はそうかやっと進めるのかと、嬉しさのあまり身体が熱くなっていく。

 

「はい!」

 

 そして、勢いのまま返事をし、その場ですっと身体の体勢を整える。

 地に両足を着け、両手を前に押し出すように伸ばした。

 

「すーっ、ふぅ……」

 

 深呼吸を一つ。体から余分の力を無くし、自分の内側へと集中していく。

 大丈夫、やり方はルオやジョウシェンのそばで見てきた。何度だって、出来ないのに試したこともある。

 

 今まで脳内でやっていたことを、実践するだけだ。

 

 ゆっくりと目を瞑り、自分の中の荒ぶる感情を昇華させる。静かに、感情が落ち着いていき、雑念が消えた。

 

 そして、自分の中にある金丹へとすべての感覚を注ぎ込む。

 

 ぐるり、ぐるり、金丹の中で仙力が回り始めた。

 

 金丹、臓物、胴、両手足、頭。少しずつその仙力は広がり、指先まで仙力の熱さを感じる。

 その、仙力を自分の掌に集め、必死に流れるのを止め、そして、集まったものを出口へと放った。

 

 バンッ!!!!

 

 大きな音が鳴る。僕は、それに動じることはなく、・・・・・・・・・ゆっくりと目を開けた。

 お堂内に、立ち込める少しばかり焦げた匂いと、立ち込める煙。

 

「リュウユウ! できたじゃんか!!!」

 

 一番最初に声を上げ、俺に駆け寄ってきたのはハオジュンだ。彼の小さな身体がまるで羽の生えた生物のように、大きく勢いよく飛んできた。それをどうにか受け止めれば、彼に「よくやった」とずっと褒められ続ける。

 

「うん、これで先に進めるね」

「初めてにしては、上出来だな」

「リュウユウくん、おめでとうだね! やはり、僕の天才的技術はすごいね」

 

 グユウとシュウエンもパチパチと拍手しつつ、優しく声を掛けてくれる。その横で、シャノンも嬉しそうに笑った。

 

 やっと、先に進める。僕はその喜びを実感するとともに、また一つ嬉しい涙をこぼした。

 

 

 翌日。

 ジョウシェンとルオにも、問題を解決したことを伝えると、二人も大層喜んでくれた。ついでに、協力してくれたセイや、シャノンのことについても説明ついでに軽く話した。

 二人はシャノンの名前を聞き、あからさまに驚いた顔をする。

 

「なるほど、シャノンが来たのはそのためか」

「シャノンさんを動かすとは、シュウエンさんは一体何者なのでしょうか……」

 

 二人共どうやらシャノンのことを知っているようで、話の口ぶりからどうやらとんでもない人なのではと感づる。

 

「シャノンさんって、一体どういう人なの?」

 

 僕は意を決して、二人に尋ねる。その質問されたことのせいか、少しばかり困ったような表情をした後、ジョウシェンが口を開いた。

 

「シャノン・シュリー、『永世の都』の領主であるシュリー大公の公子です。この国では言わば、皇子様と同等のお方です」

 

 僕は、その事実にただ固まることしかできなかった。そして、あの錦衣衛の慌ただしさは、このシャノンが来たことによるものだったのだと、いやでも理解したのだ。

 

 

 それから、一ヶ月後、僕たちは元帥に呼ばれた。

 

「さて、お前たち、初任務だ。熱砂楼連邦ねっさろうれんぽうへ向かう扇鶴国の皇子夫妻の護衛に同行してもらう。班員全員でな」

 

 まだ、龍を具現化できない僕たちに、初めての任務がくだされた。

 

 

 

 

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