第4話 帰結

 小百合は後部座席で毛布をかぶって横になった。ベルベッド調のシートは寝心地もいいのだが、寝てなどいられなかった。自分がどうなるかわからない状況で、目が冴えて仕方がない。お兄ちゃんはサイコパスになってしまったんだ。私は殺されるかもしれない。子どもたちが生きている保証なんかないじゃない。私は兄の奴隷になるんだ。そんなの嫌に決まってる。


 小百合は兄が座ったまま寝ているのを見て、車のドアを開けて外に出ようとした。

「どうした?」

 兄はすぐに声を掛けた。

「おしっこ」

 兄は笑った。まるで小学生の兄に言っているみたいだった。一緒にトイレやお風呂に入っていた時期もある。

「車のすぐ後ろですれば見えないから」

「え、恥ずかしいよ・・・」

「暗いから気を付けろよ」

「うん」

 犬が付いて来ようとしたが、ドアに押し込めてそのまま置いて行った。犬がいたら少しは心強いが危険にさらしてしまうからだ。自分も死ぬかもしれない。だってスマホ持ってないし!車から少し離れた茂みの後ろに屈むふりをした。取り敢えず出るものは出して時間稼いだ。フリースのジャケットを着ていたけど、もう十一月。外は寒かった。


 そして、そのまま、そっと山の斜面降りた。泣きながら無我夢中で走った。木の根につまずいてゴロゴロと下に転落して行った。


「ぐっつ」

「痛い!」

「あぁぁぁぁぁ!!!」

「助けて!」


 あちこちぶつけて痛いが止まらない。小百合は全身を強く打った激痛で気を失ってしまった。


 兄はスマホの時計を見ていた。もう五分経っている。大の方だろうか。拭くものを渡してやればよかったと後悔した。


 やがて十分経ち、ようやく妹が逃げたことに気が付いた。馬鹿だな・・・この山の下は激流が流れてるし、絶対助かるわけがないのに・・・。かわいそうなことをした・・・。俺が妹を安心させてやれなかったからだ。


 子どもたちには何て言おうか。お母さんを連れて来ることは黙っていたけど・・・そうだ。この犬たちをお土産にしよう。朝日が昇った頃、兄は車を発進させた。子どもたちが喜ぶだろうな。笑みがこぼれていた。

 

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ハーメルンの笛吹き男 連喜 @toushikibu

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