君に贈りたい花がある

咲良 伊武

第一話 辞令

「フリージア・クラークに辞令を交付する。本日付で、危険度Sクラスマフィア『Mese-メーセ-』への派遣任務を命じる』


「拝命いたします」


「我が国の一般市民の平和と安全のために、死力を尽くすように」


「...はっ」





豊穣の国、ファーテリア。この国は『恒久の平和が訪れた国』と他国民から称される平和な国だ。...表向きは。


その実態は、国の治安を守る '王国騎士団' と裏社会を統べる犯罪組織 'Mese' 、表と裏のトップ組織が互いの勢力を牽制しながら成り立たせている、ひどく脆いもの。お互いがお互いのシマを荒らさない、手を出さない代わりに表立った抗争は控えるという暗黙の了解は、なんとか守られたままでいる。


表と裏の勢力は50:50が基本。この状況を成り立たせるためには、暗黙の了解だけでは足りない。そう考えた過去の王国騎士団幹部はMeseと初めて契約を交わした。それが〈派遣任務として三年間、人員を一人づつ送りあう〉というもの。

行き過ぎた権力の行使を諌めるのが目的だが、そんなことは建前。本当の目的は相手組織へのスパイ活動。反乱の疑いありとなったら、即刻処罰できるように。


その派遣任務に、私は選ばれた。いままで、Meseに派遣されて、帰ってきた騎士はいない。Meseからは活動中に死んだとだけ伝えられ、任務への意欲に燃えていた騎士たちは、物言わぬ箱になって帰ってきた。


怖くないかと聞かれて怖くないと答えるのは嘘になる。でも、それでも、私には、どうしてもMeseにいかなければならない理由があった。

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