第5話 輪廻

 ストーカー男が雄叫びのように言い放つ。


「アイシテル、マキノォオッ!」


 男は全力で私に向かって走り出した。

 すると、声のする方へ吊られたのか、後をついて来た亡者も奇声を上げながら、駆け出す。

 私は降りきれることを祈り、門を目指して山を精一杯駆け上がる。


 早く、早く門を通らないと!


 集団で走る亡者の先頭を、私はひたすら走った。


 しかし、ゴール目前で私の足は、一歩遅かった。

 背後から炭となったストーカー男に飛びつかれ、そのまま一緒に門をくぐった。

 男から噴き出す炎が、私の全身へ燃え移り、火ダルマのまま門の下へと落ちていく—————————。






 朝—————まぶたを焦がすほどの日差しで目を覚ます。

 清潔なシーツはいつまでも体を埋めていたいけど、今日が私を待っているから名残おしくても、起き上がる。

 気持ちのいい朝だ。


 そして、鏡の前に立って言い聞かせた。


 来年で大学も卒業だし、今日も頑張るぞ!


 —————マキノ—————


 自分の顔を見ると、いつも脳内で知らない声がこだまする。


 マキノ?

 何だろう。

 でも、この名前に少し懐かしさを感じる。


 なんでかな?




 《マキノ》


 まきの


 牧野


《何もかも忘れしまったのか? でも、俺は覚えているよ。俺がお前を捕まえて門をくぐった時、体を包む炎が、お互いをガラスのように溶かし、魂を一つに融合させた。二つの合わさった魂が一人の人間に転生したんだ。これからは病める時もすこやかなる時も、死が二人を別つことはできない。永遠に一緒だ。なぁ? まーきのっ》





          END

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輪廻のストーカー にのい・しち @ninoi7

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