第9話 未来へ
第九章 「未来へ」
「結局、私は、人に助けられてばかりだった。お母さんと暁がいなければ、自分では何もできなかった。この命、お母さんと暁が守ってくれた」
「愛美は、ボクを生き返らせてくれた、命の恩人だ」
「これで私たちは、自由になったんだね。これからは、自由に暮らせるね」
愛美と暁は、見つめ合った。
「思えば、以前にタロットカードで占ったとき、最終結果で出た『恋人』のカードは、暁のことを表していたんだね。そして『悪魔』のカードの逆位置こそ、優のことだった。私は、逆に考えていた。いまから考えると、愚かだった」
「占いは、関係ないよ。愛美は、愛美の意志でボクを選んでくれたんだろ」
「そう。お母さんが暁のことを言ったとき、私は心のどこかで、すんなり頷いていた。お母さんより、暁のほうを選んでいる自分がいた。お母さんの説得が後押しをしてくれたけど、どちらかひとりしか助けられないんだったら、やっぱり私は……」
愛美は、母親に対する申し訳なさで、言葉が詰まった。
(お母さん、ごめんね。助けられなくて。でも、これで良かったんだよね)
「私は、ずっと守ってくれる相手を探していた。優にのめり込んだのも、そのせい。そして、優の正体がわかったら、今度は暁を好きになっていた。こんないい加減な私でも、本当に良いの?」
「良いに決まってるよ。ボクは幼い頃から、ずっと愛美だけを見ていたんだ。初恋の相手なんだよ。ただ、愛美に対する気持ちが強すぎて、ちょっと暴走したけどね」
「暴走って、なに?」
「愛美のアルバイトしているファミリーレストランまで行って、愛美のことをいろいろ調べてしまったんだ。それで、ある常連客の女性から、愛美がウィッカンになった事まで聞き出してしまった。やり過ぎだったけど、愛美のことを何でも知りたい気持ちを、抑えられなかったんだ」
「な~んだ。なんで暁が、私がウィッカンになった事まで知ってるのか疑問だったけど、単純な理由だったんだね。その気持ち、わかるよ。今の私は、暁の事なら何でも知りたいもん」
「いろいろ調べ回った事を、許してくれるんだね」
「私ね、まだ不安なの。闇幽夜叉大明王は、本当にこのまま、漆黒の空間から出てこれないのかしら。もしかしたら、将来、また闇幽夜叉大明王と対決しなければならない気がするの」
「その時は、ボクたちふたりで立ち向かえばいい。こう見えても、ボクは魔族と戦ってきた一族の末裔だよ。もっとも愛美は、十九歳になれば、闇幽夜叉大明王の血の影響が消えて、普通の女の子になっているけどね」
「私たちふたりが結婚して、子供を授かれば、その子も魔族と戦う一族の末裔ってわけね。子供も一緒に闇幽夜叉大明王と戦うことになるのかしら。もしそうなったら、私はお母さんのように、命をかけて子供を守るわ。そして、未来に禍根を残さないために、今度こそ闇幽夜叉大明王の息の根を止める」
「まだ、闇幽夜叉大明王と対決するとは、決まってないけどね。このまま、闇幽夜叉大明王の存在は、闇に消えて行くかもしれない。そして、黒沼島の人間の記憶からも消えて行く」
「そうなることを祈るわ」
「ところで、子供は何人ほしい?」
「暁ったら、気が早いわね。私たち、まだ高校生よ」
愛美と暁は、そっと口づけを交わした。そして、いつまでも未来を語り合った。
「お母さん、ありがとう。これからは、暁と未来を生きていく。お母さんが繋いでくれた、この命は無駄にはしない。私も、つぎの世代に命のバトンを繋ぐわ。そしていつの日か、子供たちに語って聞かせるの。命をかけて、娘を守ってくれた最高の母親の話を。お母さんの記憶は、いつまでも残り続けるのよ。私と暁の子孫たちにね。だからもう、淋しくはない」
愛美は天にいる母親に向かって、心の中で語りかけた。これからの未来は、愛美と暁とで切り拓いていく。幼馴染み同士の恋は、まだ始まったばかりだ。
天は静かに、ふたりを見守っていた。
(了)
運命の扉の向こうへ 大宮一閃 @E-I-E-I-O-hiro
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