突発的短編集

欠陥

　自分を尊大に見せようと嘘を付いたり、粗を探し当てられた時、取り繕おうとしたりするのに疲れました。

　誰かに教わった訳でもない。ただ面倒臭いという方便を盾に生存する過程で必要な努力を最小限にし、その癖あれが足りない、これが足りないと不十分さを嘆く。

　なんて利己的で排他的な人間なのでしょうか。

　しかし、全部私が悪いのでしょうか。

　立場を弁えずに言うならば、私にとってこの世界は息苦しく、不平等だと感じてしまいます。

　そう考えるのは私の性格的な部分か、それとももっと心の奥底の重大な"欠陥"が起因しているとしか思えないのです。

　私は生まれてこの方誰1人として心を許した人はいません。

　10年以上を共にしてきた親友や血の繋がった両親でさえも本当の意味で心を開けていない気がします。

　何故か。

　その真相は私にすら分かりません。歳ばかり無駄に重ねて来た人生でしたが、まだ精神的に幼く、自分を自分らしさが受容出来ていないのかもしれません。

　私は人のちょっとした悪い部分が時に許せません。

　ほんの些細な出来事も、未練がましく忘れずに脳内にこびりついているのです。

　頭では分かっているのです。この世に完璧な人間はいないと。誰しも善であり悪でもある、それは構造的な枠組みから捉えても自明であります。私だってその内の1人です。

　しかし、共にした時間に関わらず私は人が一度自分にとって不本意な行動を起こされると腹が立ちます。

　その時私は大抵こう感じます。

　ああ、私はあなたのためにこんなにやっているのに、あなたは私のためには本気になってくれないのだと。

　私の事はあなたの中では優先度が低いから多少ぞんざいに扱っても壊れない家電製品のような存在だとでも思っているのか。

　舐めているのか。それとも実は悪意を懐に忍ばせていて、私を背面から袈裟斬りのように斬り落としてしまおうと画策しているのか。

　邪悪な感情が渦巻き、稚拙な論理を展開させてしまいます。そんな筈はないと心の中では分かっているのです。

　まだそれを言葉に出さないだけましだと思っています。それを抑制する機構が脳回路に構築されていることを誉れに思います。

　お陰で私は表面上、他者と有益な関係性は築けていると思うのですが、どうも見えない壁を感じてしまいます。

　コミュニケーションを行う過程である一定のラインに達すると、突然何か分厚いものに阻まれる感覚を覚えます。

　便宜上私はそれを心の壁と呼んでいるのですが、果たしてそんなものは存在するのでしょうか。

　しかし、自分以外の他者は他者同士でより太くて良好な関係性を築いている気がしてならないのです。

　それに比べ私は長く時を共にしても、一瞬で瓦解してしまいそうな、脆い人間関係しか築けません。

　対照的に見るからそう感じるのかもしれません。

　私は陰気な性質を持っていますが、人一倍青春への憧れが強く、それを謳歌している人達を見ると嫉妬心と共に盲目的にそれを信奉している気がするのです。

　それはかつて夢見て、描いた憧憬を実行できていない羞恥心から目を反らしたいからだと私は考察します。

　人に期待しない方が生きやすいのでしょうか。

　それか、人のある一面だけ見て全てを分かった気になっているからいけないのだろうか。それが冒頭で話した私の悪癖なのだろうか。

　1つ言えるのは、私の頭は複雑で物事を合理的に考えられないせいで感情由来の判断が多い。

　それに生まれつきの天性の口下手で思ったことそのまま話すことが出来ず、人を恐れて思ってもない事を口走ってしまったり、空気が読めないと罵られる事もあった。

　だが、私が今まで挫けず生きてこれたのは自分の心情を絵や文章で書き起こすという術を手にしたからに違いない。そうでなければ私は当の昔に廃人になって死んでいる。

　少なくとも心に黒い靄がかかる日はその行為によって負荷が軽減される感覚を覚えた。しかもそれにより完成した作品が褒められると気分が良くなるものであるから私は余計に創作活動にのめり込んだ。

　私は創作活動について、人を喜ばせる為、人に満足感のある面白い作品を届ける為と想い、丁寧に作品を作ってきた。

　しかし、自分の将来について真剣に考えた時、創作活動のみで生きていくのに莫大な不安を感じました。

　その理由を考えている時に気付いたのです。

　私は人のために作品を書いていたのではない。

　私は自己表現、言わば行き場のない心のゴミを吐き出して気持ち良くなっているだけだったのだと。

　その事実に気付いた時に、私は私の器の小ささを嘆いた。そしてこんな意識の低さではまともに太刀打ち出来ないと感じた。

　私はこれからの生に絶望した。あと何十年、自分が死ぬまでに苦しみ続ければいいのだろうか。

　心から離れる事のないこの重大な欠陥を抱えながら過ごして行くのか。そんな負い目を誤魔化すかのように、私は今日も小説を書く。いつか終わるその日までの時間を浪費するために。