第二章 砂海の王国 アリデッド

砂の大地

「うぁ……。暑い!!」


 ステラの声が響き渡る。燦燦と輝く太陽が、旅人たちを照り付けている。その気温のせいか、ステラもカナデも先ほどから口数が少ない。


「なんなのよここ……」


 カナデの呟きは誰に届くでもなく宙へと吸い込まれていく。

 周りには砂、砂、枯れた草木、そして砂。

 二人は今、砂漠のど真ん中を歩いていた。


    ◇


 時は少し遡る。


「で、これからどこへ向かうのかしら?」


 レギュラスの村を出たステラとカナデは、次なる目的地へ向かって歩みを進めていた。視界いっぱいに広がる原っぱでは、丈の短く青々とした草が風に吹かれて揺れている。


「それはもちろん、風に吹かれるまま。あるいは羅針盤コンパスの針の導くままに、だよ。まぁ、とりあえずはこの道を何かが出てくるまで行ってみようよ。ちょうど羅針盤コンパスも同じ方向を指してるし」

「確かにそうね。じゃあそうしましょうか。他に当ても無いし」


 二人は道を突き進む。この先に待つものも知らずに。


    ◇


 ステラとカナデが当てもなく足元に伸びる道を進み始めてからしばらくしての事。

 ふと辺りを見回していたカナデがあることに気づく。


「なんか、草原って感じじゃなくなってきたわね。地面というよりは砂が増えてきてるのかしら」

「それってもしかして砂漠ってやつかな。本にあったんだよ。一面が砂で覆われた場所なんだって。冒険の匂いがするね」


 カナデの言う通り、周囲の景色はレギュラス周辺のそれとは異なるものに変わり始めていた。青々と茂っていた草木は、段々と枯れ木へと取って代わっており、空気もどこか乾いているように感じる。

 そんな未知の雰囲気を感じたのかそわそわし始めたステラを横目に、カナデは段々と緑色が少なくなってきた景色を再び見渡す。そういえばレギュラスを出て以来全く人の姿を見ていないが、この先に人の住む場所は待っているのだろうかと一抹の不安を感じながら。


    ◇


「うわ凄いなこれ。あっちからこっちまで全部砂だ。これが砂漠かぁ……」

「これはまた圧巻ね」


 目の前に広がる砂の海に呆気にとられる二人。果たして、彼女たちは砂漠へと到達していた。

 未知で溢れた景色を前に好奇心が抑えられないのか、ステラはあっちへ行ったりこっちへ行ったりしている。何かを見つけたステラはカナデに呼びかける。


「見て見てカナデ、変な植物があるよ。葉っぱとか枝とかがないけど、棘?みたいなので体が覆われてるんだね。どれどれ……っ痛!」

「アンタねぇ、始めて見るものにワクワクするのは別に止めないけど、何でもかんでもまず触ろうとするのはやめなさいな。いつかほんとに痛い目見るわよ? って血が出てるじゃないの! 早く手出しなさい!」


 ステラは始めて見たサボテンに好奇心に駆られ不用意にも触ってしまう。棘が刺さってヒリヒリとする指は、少量ではあるが血が滲んでいる。カナデは鞄から包帯を取り出すとそれをテキパキと処置していく。あっという間にステラの指は帆まかれた包帯で見えなくなり、どうやったのか包帯の結び目は可愛いらしいハートマークを描いていた。


「気をつけなさいよね。私のマギクスは傷を治したりとかには向いてないんだから」

「ずいぶん器用なことするね……」


 また動き回って包帯のハートが崩れるのを嫌ったのか、ついさっきまで見るもの全てに反応していたステラも、少し懲りてようやく大人しくなる。同行者が静かになったことで、しばらくの間二人が砂を踏みしめる音だけが聞こえてくる。すると、ふいにカナデが足を止める。


「ごめんステラ。ちょっと止まってくれる?」

「良いけど、どうかしたの?」

「しーっ。目を閉じて耳に意識を集中させてみて。聞こえる?」


 ステラは言われたとおりにやってみる。目を閉じると耳の感覚はより鋭敏になる。音が聞こえてくる。低く、唸るような音。ゴウゴウと鳴る無軌道なその音は、風と砂によって奏でられていた。目を開けて隣のカナデをチラッと見ると、どうやら音を聴き入っているようだった。


「これもカナデが聴きたい音楽?」

「そうね。人の手による音楽も良いけど、こうやって自然が奏でる音もまたいいものでしょ。インスピレーションを刺激されるわね」


 二人はそれぞれ寄り道をしながらも、着実に砂漠を奥へ奥へと進んでいくのだった。


    ◇


 そして冒頭へと時が戻る。


 あれから何時間歩いただろうか。

 行けども行けども見えてくるのは砂ばかり。


「この感じ、ちょっと前にもあったよね。あの時はどこまで行っても木だったけど」

「森の中の方がよっぽどマシよ。足元は不安定で歩きにくいし、なによりここは暑すぎるわ……」


 遮るものが何もないこの砂漠においては、太陽の光はダイレクトに降り注ぐ。暑さは二人の体力をジリジリと削っていく。これはそろそろどうにかしないとマズいかもとステラが思い始めた時、新たな音がやってきた。


 地鳴りのように響く低い音。先の風の音とは規模が異なり、耳を澄まさなくてもはっきりと聴こえてくる。


「あ、あれだ!」


 ステラが指差す先。

 砂丘を超えて姿を現したのは、砂の海を航行する帆船だった。

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星追少女は世界の果てを夢見る @STELL4

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