第11話 〈ナルゴ〉視点(コケを食べる)

―生悟の視点-


 僅かにあった食料が、なくなってしまった。

 酸っぱいパンも臭い肉も、もうない。

 最後の手段の、コケを食べるしかない。


 「〈アワ〉、このコケは、本当に、食べられるの」


 「食べられます」


 「このまま、食べるの」


 「このままでは、食べにくいです。煮て食べます」


 「どうやって、煮るの」


 「見えてないのですか。スコップと枯れ木があります」


 部屋の外へ出て、枯れ木を拾ってきた。

 1mくらいのを4本だ。


 「木を拾ってきたよ」


 「それでは、木を削って下さい」


 大きな木のままでは、火が着かないのだろう。

 薪にするのを、テレビで見たことがある。


 俺は、錆びた剣で木を削り出した。

 錆びて、なまってしまった剣では、なかなか削れないな。

 これは、結構な時間がかかるぞ。


 〈アワ〉は、俺が木を削ろうとして出来た、木の細かいカスを集めている。

 何のためだろう。


 集めた木のカスを、握りこぶしくらいの大きさの、小山にした。

 この小山の上で、小さな石と鉄の棒をこすり合わせている。


 「シュッ」「シュッ」と何回も、こすり合わせている。

 これが見つけたと言ってた、火打石か。


 簡単に、火が着きそうなものじゃないな。

 火が出るんじゃ無くて、火花が散っているだけだ。

 それでも、何とか火が着いたようだ。

 木のカスの山から、煙が立ち昇ってきた。


 「火が着きました。木が乾燥していて良かったです」


 〈アワ〉は、辛うじて燃えている小さな火に、俺の削った木切れをくべた。

 火を労わるように優しく、慎重に、火の回りに置いている。


 木切れに、火が移って、少し大きく燃え上がった。

 さらに、数本の木切れをくべると、もう、小さな焚火だ。


 「〈アワ〉は、すごいな。焚火が出来た」


 「褒められるようなことでは、ありません。誰でも出来ます」


 「そうなの」


 「私は、泉で水をくんできますので、木をもっと、削っておいてください」


 〈アワ〉は、少しよろけながらも、コップと亀の甲羅を持って、部屋の外へ出て行った。

 不思議なことに、少し元気になったな。歩けるようになったのか。

 身体が弱っていたのは、水分不足が、大きな原因だったのかも知れないな。


 俺は、頑張って、木を削り続けた。

 鉱山での作業を思えば、全然たいしたことはない。


 自分のペースで出来るし、〔力鉱石〕に比べれば、木は豆腐のように柔らかい。

 邪魔な鎖も、怒鳴られることも、ムチで打たれることも、無い。

 楽勝だ。


 木を全部削り終えたので、また外へ拾いに行った。

 どんどん、削ろう。


 俺が、木を削る作業を黙々とこなしていると、〈アワ〉が帰ってきた。


 「ずいぶん沢山、木が削れましたね」


 少し、吃驚したように言った。


 そう言われて、周りを見てみると、削った木の大きな山が出来ていた。


 鉱山のクセで、一生懸命にやり過ぎたかな。

 いつも、命がけでやっていたからな。


 「そんなに多いかな。このぐらい、誰でも出来るよ」


 鉱山奴隷なら、このくらいの作業は朝飯前だ。

 いや、朝飯抜きでもやらされる。


 「そうですか。今から、コケを煮てみます。

 私も、コケを煮るのは初めてなので、どうなるか、自信はありません」


 〈アワ〉は、削った木を器用に組み合わせて、スコップを焚火の上に置いた。

 スコップの窪みに、水とコケを入れた。


 「どっちのコケを入れたの」


 「酢汁苔です」


 最初は、「酢」の方か。

 苦いよりましと考えたのか。


 コケは、熱を加えられて、茶色に変わった。

 他に変化は、あまりない。


 「煮えたようなので、食べてみます」


 〈アワ〉は、スコップを焚火から、退けた。

 削った木から、平たい物を選んで、煮えたコケをすくって口に持っていった。

 煮えたコケを睨んでいる。


 冷ましていると言うより、これを本当に口へ入れて良いのか、迷っているように見える。

 確かに、食べ物に見えないな。

 身体に良いとも思えない、色と匂いがしている。

 雨が、降った時のコケの匂いだ。

 コケだから、当たり前か。


 〈アワ〉は、目を瞑って、コケを口に中へ入れた。

 口を恐る恐る動かして、コケを食べている。


 「酸っぱいし、モサモサしていますが、食べられなくは無いです。美味しいとは言えませんが」


 俺も、〈アワ〉の真似をして、削った木でコケをすくった。

 口の中へ入れるのを悩んだけど、思いきって入れてみた。

 これを食べるしかないんだと、頭に言い聞かした。


 〈アワ〉が言うとおり、モサモサして、酸っぱい。

 コケの匂いが、口中に広がる。

 でも、死ぬほどマズイとまではいかない。

 何とか、食べられる。


 「美味しくないけど、食べられるな」


 それから、俺と〈アワ〉は、何回かコケを煮て食べた。


 苦汁苔の方は、名前どおり、相当苦い。

 マズイのは、酢汁苔と良い勝負だ。

 どちらも、美味しくない。


 量も、お腹一杯とは、いかない。

 少しは、お腹に入ったという感じだ。

 マズイから、お腹一杯に食べたいとも思わない。


 「私は、身体を拭いてきます」


 「そうか。分かった。何かやることはある」


 「そうでしたら。剣を研いでください。ここに、研ぐ石があります」


 〈アワ〉が、ねずみ色の石を渡してきた。

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転移先が鉱山奴隷だったけど、見習い巫女とマフィアの娘と巨塔の攻略を目指して、捨て身のざまぁを敢行する 品画十帆 @6347

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