温かい泉 其二
動電光
第1話
「じ、じっちゃん?!」
「う、わっ!」
咄嗟に、碧と八潮が腕を出して支えようとした。
次の瞬間、俺に見えたのはお爺さんの
…猿股のおしりと、八潮の足だった。
碧曰く、碧が掴んだ浴衣はすっぽ抜け、かたっぽの下駄が石にひっかかったお爺さんの体は八潮の上に倒れかかった。
つまり八潮は下敷きになって頭からあお向けに池に沈んだので、水面に出ていたのが八潮の膝から下と、お爺さんのお尻だったんだ。
お爺さんの息子らしいおじさんが大慌てでお爺さんを引き上げ、八潮は咳き込みながら何とか身を起こした。
「礼なんかいいから…ぶぇくし!じっちゃんも俺も早く風呂行こう、風呂!風邪引いちまう…うげっ!」
「何だ今度は」
「な…なんかぬるぬるしたもんが俺の股通った!ギャー!もっぺん!」
「ああそういえばそっちの池熱帯魚飼ってるって行ってましたよね女中さんが」
のんびり言いながら、碧はてきぱき八潮の腕を取って引き揚げ、ぐっしょり濡れたどてらを脱がせて、自分のどてらを着せた。
「陽、すいませんけどフロントでタオルの大きいの2、3枚貰って来て下さい。杜、この濡れたのなるべく絞って持って来ていただけますか」
「えっくし!」
俺が急いでタオルをもってくるともう玄関まで、裸足の八潮が雫をたらしながら戻ってきていた。
俺たちが泊っている温泉旅館の前にそれは旅館のではなくて、公共の足湯というのがある。
夕食を終えて、薄暗い街灯の下のその池のようなお湯に行ってみよう、と碧が言い出し、浴衣にどてらで皆行ってみたのだ。
杜は煙草が吸いたいといって、バス停のようなベンチに掛けて眺めていたが、本当はぎっしり座った人たちのなかに割り込むのが厭だったらしい。
ぬるいお湯でも、ずっと脚を浸していると、ぽかぽかと温まってくる。碧と八潮は、あちこちの旅館から集まって来た人達と喋っていたけど、俺はボーっと星を眺めていた。
あんなにたくさんの星があると、星座もどれだかよくわからない。
杜の方を見ると、杜もこっちをみていたので、嬉しくなって手を振ると、そっぽをむかれた。
ちょっと寂しいな、と八潮たちの方を振り返ったとき、八潮はもう、お湯に落っこっていたんだ。
温かい泉 其二 動電光 @chikiryu
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