Chapter 9-5
剣戟一つ一つから生まれる衝撃波が、互いの身体を斬り裂いていく。刀の切っ先さえ届いていないにも関わらず、京太とシュラの身体は無数の裂傷に蝕まれていた。
横薙ぎに振るった『龍伽』から、白く輝く衝撃波が発生する。京太を包むエインフェリアのオーラが、剣戟そのものに形を与えているのだ。
エインフェリアとなったばかりの京太には、この原理は理解できていない。彼らを選定したあやめでさえ、まだヴァルキリーになったばかりなのだ。
それでも京太は、これを強力な武器の一つと認識し、一撃ごとに理解を深めていた。やり方、使い方。決して油断できない相手ではあったが、交える剣には実験的な意味合いも多分に含まれていた。
一方のシュラも、その身に黒いオーラを纏い、剣戟によって生まれる衝撃波にそれを乗せていた。彼らエキスパートにも、エインフェリアと同様の特性があるのだろう。言うなればあれは、エキスパートのオーラ。まだまだ底の知れない相手である事に、京太は内心で舌を巻く。不動や組の皆の仇でありながら、敵でなければよかったのに、と思う程だ。
京太の放つ衝撃波と、シュラの放つ衝撃波が激突する。二つの相反する運動エネルギーは、互いを喰らわんとして激しい音を立てながら弾け飛ぶ。爆散した衝撃波は京太とシュラの許へ還り、彼らの身体を嬲る。
その最中にも、彼らは既に次の一手を打たんとしていた。彼らの剣は、最早その刀身の長さからは遥かに逸脱した間合いを持つ。故にこの衝撃波の打ち合いは正しく鍔迫り合いに等しく、しかし彼らの有する剣技の持ち味をまるで生かせない戦いとなっていた。
つまり、彼らはまだ、ただの一度も相手の致命傷となる一撃を放ってはいないのだ。無論、オーラを纏わせた衝撃波にも十分な殺傷力はあるが、互いがこれを打ち消し合える以上、決定打とは成り得ない。
だからこそ。両者の考えは一致していた。彼らは衝撃波の激突の余波をものともせず、前に足を踏み込んでいた。
――勝負!!
荒れ狂う風圧の中を飛び越え、互いの刃がようやく交錯する。シュラの持つ『エクスカリバー・レプリカ』は、かのアーサー王が持っていたとされる宝剣を精巧に模して造られた模造品だ。その宝具としての性能は、贋作でありながらも本物に匹敵する。
これは本物の『エクスカリバー』が、黒翼機関の手中にあり、厳重に保管されている為だ。本来、宝具と呼ばれる物は、その土地の伝説・伝承に癒着してその性能を発揮するものである。であるからして、イングランドから遥か遠く離れた日本の地では、『エクスカリバー』はその真の力を発揮することはできない。
しかし、機関は敢えて模造品を造り上げる事により、その条件を覆した。宝具としての性能・格を落とし、且つ本物の宝具を手中に収めることで、土地というある意味で宝具を縛る条件をクリアしているのだ。
対し、京太の持つ『龍伽』は、力の発揮できる土地にありはするものの、この地のレイラインの化身として打たれた刀身が破壊されてしまっている。龍脈が破壊された事で魔神の再臨が叶った訳ではあるが、この為に今の『龍伽』は、土地からのバックアップを受けられず、本来の性能を発揮できない状態にある。
加えて、その刀身を打ち直したのは、鈴詠の霊体を形成していたエーテルである。宝具としては愚か、刀としての質も本来のものとは比べ物にならないほどに落ちてしまっていた。
だがそんなことは京太自身が承知していた。剣士の勝負が、刀の良し悪しだけで決まっては堪らない。
――そうだろう、『蒼炎』の!
そう、意思を刀に乗せて振るう。渾身の兜割りに対してシュラは下段からの斬り上げを選択していた。逆袈裟に振るわれる剣戟と、垂直に振り下ろされる剣戟は、交錯しながら互いを受け流して離れる。
続いて放たれたのはシュラの横薙ぎの一閃である。受け流しつつ回転し、その遠心力を以って打ち込まれた一撃を、京太はバックステップ・剣の柄による防御を組み合わせて回避。防御は弾かれるが、この衝撃で後ろへと弾き飛ばされる事で回避に成功する。更に衝撃波を放ち、追撃を止める。同時にシュラも衝撃波を放っていた。白と黒の剣戟が重なり、炸裂する。爆風の中でしかし両者の身体バランスは崩れない。鬼の膂力とエキスパートの翼による体捌きは常人のそれとはまるで違った。
体勢を低く保ち、瞬時にシュラとの距離を詰めた京太は、剣を横に薙ぐ。刀身で受けようとしたシュラに、京太は寸での所で剣先を翻し、身体を回転させつつシュラの背後を取る。そのまま放たれた回転斬りを、しかしシュラは背の翼をはためかせた急速アクロバットにて回避にする。
そして翼を畳み、落下の勢いを利用した兜割りを放つ。対して京太は鞘を掲げて防御の姿勢を取った。回避は難しいというのが咄嗟の判断だった。
――甘い!
だが、シュラはこれに勝機を見ていた。シュラの剣が、鞘に受け止められた瞬間、彼はその刀身から衝撃波を放ったのだ。
「なっ……!?」
剣戟を象ったエネルギーの波に、京太の身体は完全に飲み込まれてしまった。無惨にも斬り刻まれ、床を転がり倒れ伏す。
だが、こんなゼロ距離であんなものを撃てば、シュラもただでは済むまい。そう考えてシュラの方を見やったが、シュラはその身を衝撃波の中に晒しつつも、倒れてはいなかった。
「終焉りです、扇空寺京太」
シュラの剣が、立ち上がれない京太に突きつけられる。
「……いや、まだだ」
「何……っ!?」
「まだ……! 終われねぇよ!!」
京太を包むオーラの総量が、爆発的に膨れ上がった。
この現象に目を見開きつつも、シュラは剣を振り下ろす。何が起きているのか、彼には瞬時に理解できた。なればこそ、即座に京太の息の根を止めなければならないと判断したのだ。
エインフェリアとは、ヴァルキリーによって選定され、人間とは似て非なる高次の存在となった者たちだ。その身の生命力が、彼らの力に直結している。意思力、精神力、その全てが彼らの力として還元され、オーラは力強く輝きを増す。
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
咆哮と共に、京太はオーラを解放した。炸裂したオーラはシュラの剣を弾き飛ばし、後退を余儀なくさせる。
立ち上がった京太は、先程までとは桁違いに眩いオーラを身に纏っていた。
「さて、これで終いにしようぜ、『蒼炎』の」
「……ええ!!」
互いの剣を、その身に纏っていたほぼ全てのオーラで包み込む。振るわれた剣戟が形を成し、激突する。
「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
互いの咆哮が、その激突の衝撃を象徴するかのように大気を震わせた。白と黒の閃光が互いの身体を包み、やがて晴れた時。
「……お見事」
先に膝を着いたのは、京太だった。
が、次の瞬間、シュラはその場に倒れ伏し、身に纏うオーラも霧散して消えた。
「……仇は取ったぜ、不動」
『龍伽』を杖に、京太は立ち上がった。
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