Chapter9 星の夢の終焉りに

Chapter 9-1

 かくして、開戦の狼煙は上げられた。


 ツインタワーに向けて進撃を開始した京太たちの前に、機関によって魔の軍勢が放たれる。一瞬にして京太たちを取り囲む、数百・数千の魔たちを前に、しかし京太たちは足を止めようとはしない。まさしく四面楚歌、八方塞がりだとしても、エインフェリアとして選定された彼らを阻む障害にはなり得ない。


 正面から、犬型の魔が我先にと京太へ飛び掛かって来る。牙を剥き、爪を光らせて京太の四肢を噛み千切らんとして襲い来る彼奴らを、


「どきな」


 背から抜き放つ『龍伽』の一振りが斬り刻んだ。エインフェリアとして繰り出す初撃の威力は想像を絶していた。京太の身体を包む光が『龍伽』に収束し、振り下ろすと同時に衝撃波として拡散、炸裂した。刀の刀身は眼前に迫った魔の四肢を切り裂き、砕き、爆裂させ、放たれた衝撃波は地面の舗装を粉々に破砕しながら、後ろに控えていた魔どもの断末魔を響かせる。


 衝撃波は京太の正面――ツインタワーへと向けて最も強く、苛烈にうねりながら侵攻した。魔どもを蹴散らして開いた道の先にツインタワーの入り口が見えたが、しかし瞬時に新たな魔が現れ道を塞ぐ。


 今の一撃にも怯むことなく、間を置かずに魔は襲い来る。京太は前進する勢いのまま、右手で鞘を掴んで新たに飛び掛かって来た魔へと叩き付け、上方へ蹴り飛ばす。『龍伽』を横薙ぎに振るい、衝撃波を以って後方の魔ども共々斬って捨てる。横方向へ拡散した衝撃波は、先程よりも広い範囲の魔を一掃したが、奥深くへとは到達せず、すぐさま次の増援がその穴を埋めた為、あまり効果がなかった。


「チッ、キリがねぇ」


 京太の背後では、棗と紗悠里が他の皆を守るように応戦し、水輝となぎさが、進軍する京太たちを追う形で迫る魔どもを処理していた。朔羅は空の、美里と綾瀬はあやめの護衛をするかのように手を引いて駆けている。

 京太は水輝となぎさへ声を飛ばす。


「水輝! 会長! 後ろはいい! 前に集中して一気に突破する!!」

「はい!」

「分かったわ」


 なぎさは返事と同時に、機雷化した電撃を、後方の魔どもへと向けて無数にばら撒いた。さながら手榴弾のように放り投げられたそれらに接触した魔を中心に、爆発が巻き起こる。増援として出現した魔どももこの爆発に巻き込まれて絶命していく。


 これで後ろは時間が稼げたとして、なぎさは水輝と共に前方へ向けて攻撃を開始した。


「紗悠里、棗! 守りは任せた!」

「畏まりました!」

「ウス!」

「綾瀬!! お前も前に出な!」

「分かりました」


 京太の呼び掛けに、綾瀬はどう動いたのか瞬時に京太の隣に並び立つ。肩を並べて駆けながら、京太は綾瀬の大剣と『龍伽』の刀身を平行に重ねる。


「こいつで、城門を抉じ開ける大槍と行こうぜ」

「成程。承知致しました」


 二人は頷き合い、刀身を重ね合わせたまま前方へと突き出した。


「行くぜ! ツインタワーまでこいつでぶち抜く!」


 京太の策は、前方の魔に攻撃を集中させて一点突破する狙いだ。前方の魔を屠りながら、しかし討ち損じた魔の牙が、爪が、尾が、京太の身体を切り付けても構わず突進する。その殆どを、なぎさと水輝が処理してくれているからだ。彼らの援護がなければ四肢の一つや二つ失っていてもおかしくはない無謀な突進の末、


「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 雄叫びと共に、京太たちは包囲網を突破した。その勢いのままツインタワーの入り口を破壊して内部へと侵入する。


 エントランスの金時計前に立ち止まった京太たちは、それぞれ武器を仕舞いながら辺りを見渡した。金時計の向こうにはエスカレーターが伸び、その先にはツインタワーの左右の塔へと通じる道が続いていた。


 振り返れば、魔の軍勢は何故かツインタワー内には入って来ず、京太たちの逃げ場を無くすかのように入り口前にひしめき合っていた。


「魔神の野郎がいたのは、左側の塔だ」


 京太は向かって左側を指す。そちらへ向かおうと声を掛けたのだが、しかし右側へ行くと言い始めたのは水輝だった。


「ロキ……いえ。僕の父がいるのは恐らくそちらです。済みませんが、僕は右の塔へ向かいます」

「水輝……。親父を討つってのは、辛いぜ?」

「ありがとうございます。でも、これはきっと僕がやらなければいけないことですから」

「……分かった。なら、まずは右からだ」

「全員で行く、ということですか?」

「ああ。下手に散り散りになるなんて舐めた真似して勝てる状況じゃねぇ。全員で戦うぞ。いいな、お前ら!」


 声を掛ければ、頷く声が返って来る。


「ありがとうございます。では、行きましょう」


 京太たちは水輝の後に続く形で、エスカレーターを登り始めた。当然動かないものと思っていたが、水輝が足を乗せた瞬間に動き出したエスカレーターに、皮肉めいた出迎えだと感じる。わざわざ足を止めるつもりもなく、動くエスカレーターの上を歩いて登り、右の塔へと続く道へ歩を進める。


「あの群れの中を突破してくるとは。お見事です」


 と、そこへどこからともなく突風が吹き荒れた。

 通路の奥、暗がりの中から風を伴って現れたのは、三人の男女だ。京太は彼らの姿に、口許を引き締めつつ臨戦態勢を取る。


「ようやくお出ましか」

「エインフェリアとなられた皆様のお力、お見逸れ致しました」


 黒翼機関のエキスパート、シュラにシロッコ、そしてゲイルだ。


「先に行きたいなら、ってか? いいぜ、てめぇらとも、ケリは着けなきゃならねぇしな。特に『蒼炎』の。てめぇとはよ」

「お話が早くて助かる」


 シュラはシルクハットを脱ぎ捨てる。その身体が白い閃光に包まれ、次の瞬間、金色の大剣と紺碧の甲冑に身を包んだ騎士となる。


「我が名はシュラ。『蒼炎』の二つ名を拝命した、『黒翼機関』がエキスパート。この『エクスカリバー・レプリカ』を以って、貴殿に一騎打ちを申し込みたい」

「一騎打ち、か」


 京太としてもそれは望むところだ。『蒼炎』の二つ名を持つ『黒翼機関』のエキスパート、シュラ。京太にとって、『黒翼機関』を象徴する男と言っていい。それだけの因縁が彼との間にはあると、京太は自覚している。初対決の決着もそうだが、不動のケジメを付けるのは悲願である。


 だが。京太はシロッコとゲイルを見やる。二人もそれぞれ、騎士然とした鎧に身を包み、その手に宝具を握っていた。


 彼らは三人。こちらは十人である。先程までとは違い、数的有利はこちらにある。シュラの勝負を受けたとしても、二対八。更にあやめを数から外しても二対七だ。その差を埋めるだけの実力が彼らにあることは承知の上だが、こちらはエインフェリアとして選定されたことで以前とは比べ物にならない程の力を得ている。優位は変わりないだろう。


 しかしそれでも決して油断は許されない状況だ。京太はシュラに視線を戻す。


「悪ぃが、こっちはそうも言ってられねぇ状況だ。このまま十対三で推し通らせてもらう」

「それは残念だ」

「――じゃあ」


 ぞわりと、突如としてシュラの背後から湧き上がるプレッシャーに、京太は目を見開いた。エキスパート三人の隣に、更に三人の男女が並び立つ。


「俺たちも一緒に戦わせてもらったら、どうなるかな?」

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