Chapter 8-3

 京太は膝を付く。空は京太の手から『龍伽』を奪い、ゲイルへと投げ渡す。ゲイルはシロッコを見やり、シロッコが頷くのを見るや、『龍伽』を翳す。シロッコは『ガラティーン・レプリカ』を構え、『龍伽』に向けて振り下ろした。結果、『龍伽』は叩き折られ、刀身と柄に分かたれてしまった。


 それを見届けて、空は京太の胸から手を抜こうとする。


 が、それは叶わなかった。

 京太の手が、空の腕を掴んだ為だ。


「離しゃしねぇよ……!」


 京太の視界はぼやけて、空の顔すらまともに見えない。が、それでも。この手に掴んだ彼女の腕だけは離さない。


 京太はそのまま意識を失ったが、彼の手が離れることはなかった。


     ※     ※     ※


  ――世界の壊れる音がした。


  ――かくして、世界は変革の時を迎える。


 ツインタワー上空に浮かぶ輪の内側が、黒く染まっていく。いかなる光も通さない深淵の闇の奥から、底知れぬ何かの気配が溢れ出んとしている。

 その気配に恐れをなしたかのように、世界が揺れる。赤く染まった空の下で、大地が激震し、地響きと地割れを起こしながら壊れて行く。


 やがて、闇の中から地上へ降りて来る者の姿があった。


 それは少年だった。名を天苗双刃と言ったはずのその少年はしかし、もはやその名を持つ存在ですらない。


 其れこそは終焉の魔神。現代に再誕した魔神を内包する、終焉という概念の化身である。


「さあ、この世界を終焉おわりに導こうではないか」


 そしてその人格は、かの鷲澤老のものだった。鷲澤老は老いた肉体を捨て、魔神の力ともに双刃の身体を乗っ取ったのだ。


 だが鷲澤老は満足していなかった。この力の器として相応しい肉体はまだほかに存在する。


 彼に続くようにして、闇の中から異形の化け物たちが姿を現していく。彼らはこの世界に顕現した喜びと、封印されていた怨嗟を解き放つかのように雄叫びを上げる。彼らは皆、元魔と呼ばれる者たちだ。五十年前の戦争の後、遥かな異次元へ封印された原初の魔族たちである。


 この世の終焉りが具現化したようなその場所に、エレイシアと空、ゲイルとシロッコが現れる。


 空は、もう動かなくなった京太の身体を、ツインタワーの屋上へ放り投げた。


「こちらが我らが王からの贈り物です」


 エレイシアの言葉に満足げに頷き、魔神はその手を京太の胸の穴に当てる。


 すると彼の身体が、京太の胸の穴に吸い込まれるかのように消えて行く。


 魔人の姿が消え、しばらくすると、京太の身体が動き始めた。

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