Chapter 8-2

 京太がツインタワーに侵入した瞬間、物陰に息を潜めてその背中を見送っていた朔羅たちの周囲を、魔の軍勢が包囲していた。


「くっ――」

「どうやら奴さん、思ってるより正確にこっちの位置を把握してやがるみてぇだな!」

「ご名答です」


 棗の言葉に反応する声が、上空から聞こえてきた。

 仰ぎ見れば、紅い空から降下してくる大剣のシルエットが。


 大剣は勢いよく振り下ろされ、棗が防御の為に掲げた槍と交錯する。


「ちっ!」


 棗は舌打ち交じりに槍を振り回す。大剣は弾かれ、それを持っていた少女が大きく飛び退く。


「綾瀬さん!」


 瞠目する朔羅たちに、現れた綾瀬は恭しく頭を下げてみせた。

 そして大剣を構え、魔の軍勢へ突撃の指示を送る。


 その目に正気の色は欠片も残されていなかった。


 やはり、『ラグナロク』か。


「どうやら、私が敵になる展開は予想していたようですね」


 そう。朔羅たちが緊張こそすれあまり驚かなかったのは、綾瀬の言った通りそう予想していたからだ。


 それより、問題はこの状況をどう突破するのかだった。


 ここへ来る前、京太たちは急造ながら、一応の作戦を立てて来た。まず、京太が一人でツインタワーへ入る。ゲイルからの要求を満たし、且つエキスパートの連中――少なくとも、ゲイルだけでも――の注意を引き付ける為だ。


 それに乗じ、他の者もツインタワーに潜入し、空を救出して京太と合流する。これが作戦の本筋ではある。


 しかし、そう簡単に事が運ぶとは誰も思ってはいなかった。少なくとも、先にも述べたように綾瀬はこうして立ちはだかると予想していたし、それも含めて敵の規模はまだ全容を掴めていない。その上でこちらはたったこれだけの人数で活路を見い出さなくてはならない。


 そこで、朔羅となぎさ、紗悠里と棗の四人がツインタワー前に残ることになった。ここで、外側に配置されているであろう敵を引き寄せる役割である。

 そうして時間を稼ぐ間に、姫奈多とあやめ、美里の三人が別行動を取る。ツインタワーへと潜入し、空を救出するためだ。


     ※     ※     ※


 かくして、ツインタワー内部へと潜入を果たした姫奈多、あやめ、美里の三人だった。一刻も早く空を救出し、紗悠里と棗、引いては京太の元へ合流しなければ。


 だがそんな彼女たちの前に現れたのは、サーベルを携えた、シルクハットに燕尾服の男性だった。


「ここから先へお通しするわけにはいきません。どうぞ、お引き取りください」

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