Chapter 7-4
姫奈多が去った武器庫で、京太は独り、『龍伽』を探す。
静かな時間だった。刀を掻き分ける度に響く、金属と金属の重なる無機質な音こそすれど、人の気配はまるでない。
今までの人生、失ってばかりだった。何を手に入れたと思っても、指の間から滑り落ちて行くばかりで、掴めるものなど残らない。きっと、天寿を全うして死ぬ頃には、周りには何もないんだろう。そんな気さえする。ならばいっそ大切な物が残っている間に死んでしまう方がマシではないかと思えるくらいだ。
失くしたくないと強く願ったものばかり失くしていく。守りたくても、この手は、この力は何かを守る為にはできていない。人に在らざる力が、人間を守る為にあるはずもない。
それでも、そんな力でも人を守る為に使いたい。大切な人を守りたい。
守れないのも、失うのも確かに怖い。だがどんなものもいつかは壊れる。大切な人との別れは必ず訪れる。恐怖を感じるのは現実から目を背けて、覚悟をしていない証拠だ。
どれだけ力を振り絞っても、守れないものはある。何かを失う時はある。それを忘れて、ただ失いたくないと喚くのは逃げでしかない。いつか訪れる別れを恐れ、守りたいと、失いたくないと意固地になっているだけの者に守れるものなど在りはしない。
だから――覚悟をしよう。守れないことを。失うことを。例え今、全力を賭して何も守れなかったとしても、それを悔いてはいけない。己の弱さと、その結果が招いた罪を背負って往く、覚悟を。
刀の山の奥から、京太は一振りの大太刀を持ち上げた。それは彼の身の丈すら越える程の刀身を誇る、伝家の宝刀だった。
「行くぜ、相棒。留守番は終いだ」
※ ※ ※
玄関ロビーに戻ると、そこには紗悠里に棗、朔羅となぎさ、あやめと美里、姫奈多の姿があった。
それぞれがそれぞれの武器を手に、明らかに殺気立った様子で佇んでいる。
京太は彼らに向けて、努めて気楽に声を掛ける。
「おうおう、なんだってんだお前ら。揃いも揃って辛気臭ぇ面並べやがって」
そんな京太に、一同は面喰っている様子だった。何かおかしかったかと勘繰る京太だったが、
「京太君、ほっぺた……」
朔羅に指さされ、そう言えば左の頬がじんじんするな、と張り手を受けたのを思い出した。
「ああ、こいつぁ」
と、京太は姫奈多の方を見やった。視線を合わせた姫奈多は、どうしてかビクリと身を竦ませる。
「ん、どうした? 右手が痛ぇなら早めに言ってくれよ」
「いえ……。平気ですわ」
「そいつぁ結構。次やる時ゃあ加減を考えねぇとな」
京太が笑い掛けると、姫奈多は困ったように顔を背けた。
「ひーなーたー?」
と、そこへ不自然な程に満面の笑みを湛えたあやめが割り込んでくる。
「お兄ちゃんをぶったのはこの手かなぁ?」
「お、お姉様、これには訳が……」
「あやめちゃん、今はそんな事してる場合じゃない」
今にも姫奈多の右手をどうにかしようとしていたあやめを、美里が後ろから止めた。ホッと息を吐く姫奈多の様子に、京太は肩を竦めた。すると、それを見た紗悠里と棗、なぎさも一つ息を吐く。
どうやら、先程までの張り詰めた空気は霧散したようだ。ここで改めて京太は口を開く。
「俺は行くぜ。付いて来たけりゃ好きにしてくれ。ただし、命の保証はしねぇ。俺の命は俺が自分で守る。だから……てめぇの命、てめぇで守れる奴だけ付いて来な」
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