Chapter 6-2
姫奈多とエレイシアの戦いが口火を切った瞬間、燃え盛る炎が月島邸を包み込んだ。エレイシアが放った烈火が、留まる所を知らず瞬く間に邸全体へと広がって行ったのだ。
その時綾瀬は、爆破された通路を調べる為に階段を降りていた。美里が『黒翼機関』の拠点へ潜入し、京太が脱出に使ったあの通路である。
月島ホールディングス新副社長就任を記念したパーティーに招待されたのを機に、姫奈多は水輝に接触した。その目的は、彼自身とのコンタクト、エレイシア・サンクレールと邂逅する機会を得ること、そして月島ホールディングスの裏に見え隠れする影の正体を突き止めることだ。
終焉の魔神再誕の際、四条は『扇空寺』と『螺旋の環』に協力した。それにより、事件の概要は姫奈多も知るところとなった。
月島ホールディングス本社ビル。そこが魔神との戦いの舞台となったことに、姫奈多は疑問を抱いた。
もし、月島ホールディングスという会社自体がこの件に関わっているとしたら?
そう考えた折、四条の家に月島ホールディングスからパーティーへの招待状が送られてきた。
ここで姫奈多は違和感を覚える。副社長就任のパーティーに、社外の人間を呼ぶ? 疑問に思った姫奈多は、あやめの代わりとしてパーティーに参列することを決めたのだ。
実際に参加してみれた率直な感想としては、普通のパーティーだった。しかしそれ自体はなるほど、社長・月島正輝の政治的手法と言えた。四条を中心とした社交界で力を持つのに、有効な足掛かりとなるだろう。パーティーの開催目的は納得がいった。
だが、月島ホールディングスそのものへの疑念が払拭されたわけではない。姫奈多はまず、水輝に接触することにした。彼を通じてエレイシア・サンクレールを牽制し、月島ホールディングスの内情を調べる足掛かりにするためだ。
そして姫奈多は自らを囮に、月島の調査へ美里を送り込んだ。姫奈多自身がエレイシアと接触している、その時間が勝負。
かくして美里は無事に帰還したのだが、報告を受けた綾瀬は想像以上の事態になってしまっているのではないかと感じていた。だからこそ、こうして爆破された通路へ戻って来たのだが。
「月島水輝……!?」
そこで綾瀬は、塞がれた瓦礫の脇に倒れている水輝を発見した。完全に気を失っている。邸内が炎上している今、このままでは彼の命に関わる。
綾瀬は水輝を抱え、階段を駆け上がった。どうするべきか。状況を鑑みるに、姫奈多とエレイシアの戦いは激化の一途を辿っているだろう。だが救援に向かうとしてもこのまま水輝を連れて行く訳にもいかない。
と、ここで綾瀬は周囲の空気に異変が生じるのを感じた。龍伽を覆う、『ラグナロク』による結界が発生したのはこの時だった。綾瀬はこれが害意のあるものだと察する。
結界の規模は綾瀬の知る所ではなかったが、水輝を安全な場所に運び、姫奈多の元へ急行するべきだと綾瀬は判断した。玄関ロビーへ向けて足を踏み出す。
だが彼女の前に現れたのは、月島家のメイドたちだった。燃え盛る炎の中、綾瀬の行く手を阻むかの如く――いや、まず間違いなく進行方向を塞ぐ為に立ちはだかっている。
メイドの一人が口を開く。
「水輝様をこちらへ」
「……拒否します、と言ったら?」
綾瀬の答えに、メイドたちは拳を構える。成程、実に分かり易い実力行使の流れだ。綾瀬は冷静にメイドたちの顔を一瞥していく。五人。今日、邸内にいたメイドが全員集まっている。つまりこの邸の使用人全員が、エレイシアの手の者であった。それはこの結界内で彼女たちが自由に動けている事からも明らかである。
なればこそ、彼女たちに水輝を渡す訳にはいかない。エレイシアと水輝の繋がりを断たなければ、綾瀬の主たる姫奈多の目的は達せないのだから。
綾瀬は水輝を左肩に担ぐようにして抱え直す。
綾瀬の身の丈程の刃渡りを持つ大剣が精製され、綾瀬はそれを右腕一本で構えてみせた。
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