Chapter5 Blue Blue Glass Moon,Under the Crimson Air

Chapter 5-1

 宵闇の中で朔羅は鎌を振るう。小型犬を象った魔が切り裂かれ、霧散する。


「なぎさ、なんだか今日は『魔』が大人しくない?」

「そうね……。どこか鳴りを潜めてるような」


 なぎさが電撃の鞭で魔を屠ると、周囲には魔の姿がなくなった。


「こっちを見てる感じはするんだけどね……」

「油断したらダメよ。こっちも様子を見ながらいきましょう」


 魔法使いの拠点アトリエ『螺旋の環』の業務として、彼女らは周辺に出没した下級の『魔』の掃討に訪れていた。夜の公園に身を潜めている魔どもだが、今日はどこか様子がおかしい。


 朔羅は鎌を両手で構えながら、周囲の様子を窺う。


 視認はできないものの、周辺の物陰から魔どもの気配を感じる。こちらの様子を見ながら、しかし隠しきれない殺気が朔羅の元まで伝わっているのだ。なぎさも同じものを感じている。


 来るなら、来い――!


 どこから襲われても対応できるよう、朔羅は更にぐっと鎌を握る手に力を込めて気を引き締める。


 痺れを切らしたのか、一体の魔が茂みから飛び出し、朔羅に襲い掛かって来た。それに応戦し、朔羅の鎌が魔の身体を両断する。


 勢いは止まらなかった。これまで様子を窺って来た魔どもは、一体が痺れを切らした事でタガが外れ、我先にと朔羅たち目がけて駆けて来る。


 全ての『魔』の掃討を確認し、結界を解く。魔どもを狩るためのフィールドは、外側からの認識を阻害し、戦いを一般人に悟られないようにするためのものだ。


「お疲れ様。さあ、早く帰りましょう」


 なぎさの言葉に頷き、帰路に就こうとした。


 その時だった。


 ぞわりと身の毛がよだつのを感じ、朔羅となぎさは空を仰ぎ見た。

 すると、頭上に広がる夜空が、見る見るうちに醜い赤に染まっていくではないか――!


     ※     ※     ※


 ふらり、ふらりと。


 男が一人、酒に酔った千鳥足のような覚束ない足取りで歩く。


 ふらり、ふらりと。


 その隣に、女が一人、これまたたたらを踏みながら歩く。


 ふらり、ふらりと。


 更に隣に、少年が一人、身体を左右に揺らしながら歩く。


 ふらり、ふらりと。


 彼らは同じような足取りで歩き、隣に、また隣にと同じように歩く人間を増やしていく。


 やがて彼らは立ち止まった。隣に並ぶように立つ。それは遥か上空から見下ろせば、円を描いているものだと分かることだろう。


 どこかで、スイッチの入るような音がした。


 それを合図に、龍伽を囲むように配置された『超覚醒剤』服用者たちの命が失われた。


 空は、蒼い碧いガラスのような月の下で、血のような深紅に染め上げられた。

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