Chapter 3-4
「悪いね。事が済めばあんたを解放してやる約束だったのに」
ドアに背を預け、腕を組んだ姿勢でゲイルは謝罪を口にした。
対して、手足を縛られた状態でベッドに横たえられた空は、首を横に振る。
「私のことはいいです。それより、京太君は無事なんですか」
「ああ。元気に牢屋に入ってるよ。会わせるわけにはいかないけどね」
ゲイルは空の元へ歩み寄り、彼女の口を掴んで塞いだ。そのまま彼女の上に馬乗りになる。
「正直に言えばさ、私はあんたのことが気に入らないんだよ。なんであんたみたいな何の力もない普通の人間が、あんな化け物に後生大事に守ってもらってるんだい?」
口を押えられたままの空に返事はできない。
そのまま、ゲイルは続ける。
「私は誰も助けてなんてくれない地獄で生きて来た。だからさ、あんたみたいな普通の人間は心底恨めしいんだ。なんで何の力もないあんたたちが幸せに生きられて、私みたいな力のある奴が不幸にならなきゃならないんだい? なあ、教えておくれよ、人間様」
『ガーデン』は彼女にとって地獄だった。自分と同じ年頃の少年少女が、実験台として死んでいく姿を何度も見て来た。研究者たちを恨み続けて来た。なんで力のない人間が、私たち特別な力を持つ者たちをいいように弄ぶのだろう。
答えは簡単だった。彼らに従わなければ、生きて行けなかったからだ。超能力者という存在は非常に不安定で脆い。人が人ならざる力を持った代償はあまりにも大きかった。
身に余るその力は繊細過ぎる制御を求められ、ふとした瞬間に暴発して死に至る。活性化した脳細胞が生み出す超感覚こそが、超能力の源だ。故に、能力の行使は常人には考えられない程の負荷を脳に与える。暴発などしてしまえばなおさらだ。
『ガーデン』にはそうした能力の負荷を抑える為に実験を繰り返し、安定させてきたと言う側面もあった。彼女らを苦しめてきた実験によって、自分の命が今日まで繋ぎ止められてきたのも今はよく分かっている。
分かっている。だが分かっていても、ただの人間を恨む気持ちは抑えられない。何より、そんな人間の庇護を受けなければ生きられなかった自分自身が許せない。
力のない者が力ある者に守られているという目の前の現実が、信じられない。
その時、室内に風が吹いた。シロッコの使う移動術だった。
「『暁』」
「扇空寺京太たちが牢を抜け出した。娘を連れてお前も来い」
ゲイルは空の口を押えていた手を離す。
「行くよ」
そのまま空を連れて、瞬間移動を行った。
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