Chapter 3-3
「本日はお招き頂きまして、真にありがとうございます」
ドレススカートの端を摘みながら、頭を下げたのはあやめだ。
隣ではそれに倣って姫奈多も綾瀬とともに頭を下げる。
「いえいえ。どうぞお入りください」
水輝の招きに応じ、姫奈多とあやめは綾瀬を残し、ともに屋敷の中へ足を踏み入れる。
先日のパーティーの後、姫奈多は水輝へ、是非とも彼の母親にお会いしたいと告げていた。すると水輝は、友人として夕食に招待しようと持ちかけてきたのだ。あやめにも是非顔を出してほしい、とも。
これに姫奈多は二つ返事で頷いた。パーティーから帰宅するとまず、あやめにそれを伝え、了承を得た。そして今日、彼女と共に再び月島邸を訪れたのだ。
「あやめさん、あの時は本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。お力添えいただきありがとうございます」
廊下を進みながら、水輝とあやめが言葉を交わす。二人の関係は、姫奈多から見て良好のようだった。一度とは言え、共に死線を潜り抜けた事で信頼関係が築けているのだろう。あやめが京太の周囲の人間と仲良くできている。いい傾向だ。
逆に水輝は姫奈多に、一定の距離を置いている。警戒されているのだろう。これもいい傾向と言えた。
「父にも顔を出させたかったのですが、今日から仕事で家を空ける事になってしまいまして……。申し訳ありませんが、母も今は寝室で休息中です。先に夕食とさせて頂いてから、ご紹介させて頂ければと思うのですが、いかがでしょう」
水輝の申し出を、姫奈多が拒む理由はなかった。強いて言えば早くお目通りしたいのは山々だったが、相手の都合に合わせて身を退くのも淑女の嗜みだろう。
「ええ、大丈夫ですわ。お母様はお体の具合が悪いのですか? でしたら、無理をして頂かなくても……」
「いえ、そういう訳ではありませんが、少し体の弱い人なのであまり外には出ないんですよ」
水輝は困ったように苦笑して、姫奈多を見た。その視線には言外に、「ご存じでしょう?」という意味が込められているような気がした。確かに、その通りだ。
ダイニングに案内され、あやめと姫奈多は月島家お抱えのシェフによるコース料理に舌鼓を打った。流石はかの大企業、月島ホールディングス社長の家だ。
「では、そろそろ母をご紹介させて頂きますね」
夕食を終えて一息吐くと、水輝は立ち上がって姫奈多とあやめを先導した。
水輝の母の寝室は、最上階にあると言う。三階立ての屋敷の階段を昇り、最上階へ。更に一番奥へと進んだ所にある部屋へと案内される。
水輝はドアをノックした。フランス語で、室内に呼び掛ける。
「お母さん、僕の友人をお連れしましたので、ご挨拶をお願いします」
「はい」
返事を聞き、水輝はドアを開ける。中には金髪碧眼の麗しい、妙齢の美女の姿があった。彼女こそが。
室内に導かれ、あやめが頭を下げる。続く姫奈多もスカートの両端を摘んで頭を下げると、告げた。
「初めまして。私、四条姫奈多と申します。『ツインエッジ』ことイリス・ウィザーズ様の唯一の弟子として、師より直々にヴァルキリーの力を継承しました。よろしくお願い致します、『エレメンタルマスター』エレイシア・サンクレール様」
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