第二部 第二次終焉戦争

Chapter1 『ラグナロク』

Chapter 1-1

 深淵に包まれた空間に、一つ、蒼い炎が灯った。炎はすぐさま形を変え、シルクハットを被った紳士然とした男性へと変貌する。


「『蒼炎』のエキスパート、シュラ。ここに」


 仰々しく頭を下げる彼を前に、厳かに頷く人物の影があった。その姿は深淵に埋もれてシュラはおろか誰にも視認する事は不可能だった。


「万野慎吾の遺産、『ラグナロク』は確実に影響を広げつつあります。間もなくその影響はかの地全域に至るかと」


 報告を終え、シュラはその場から姿を消した。後に残されたのはただひたすら深い漆黒の空間だけだった。


    ※     ※     ※


「『蒼炎』」


 煉瓦を敷き詰めた古城のような造りの廊下で、シュラは一人の男に呼び止められた。


「これはこれは『暁』。何か御用でしょうか」


 『暁』と呼ばれた男は壁にもたれ、腕組みをして佇んでいた。両目は閉じられていたが、シュラの問いに答えるかのように片目が開く。


「何故だ」


 『暁』は短く詰問する。シュラは道化のような笑みを深めて答える。


「はて、何の事やら」

「扇空寺の鬼。あの戦いで、何故宝具を解放しなかった」


 シュラの顔から笑みが消え、その瞳が細められる。一ヶ月前、彼は扇空寺京太と剣を交えていた。『エクスカリバー・レプリカ』。それが彼の持つ宝具の名だ。

 それはかのアーサー王が携えていた物の模造品に過ぎなかったが、それゆえに本来の宝具では為し得ない機能を持つ。


「……あの場では彼を討つ必要は私にはありませんでした。それに彼の宝具、『龍伽』は本来の力を解放できない状態でしたからね」


 龍伽の地を離れた扇空寺京太の宝具は、その力を存分に奮う事の出来ないただの刀であった。ならばと、シュラも同じ条件での勝負を挑んだまでの話だ。


「……そうか」


 『暁』は壁から背を離した。彼はシュラに背を向け言葉もなく立ち去った。

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