Chapter 6-5
ドアを開けると広がっていたのは吹き抜けの空間だった。
朔羅たちの立つ場所はどうやら二階に当たるらしい。手摺りを越えた先の階下には揺り籠のような形をしたベッドの上に横たわる樹理と、その前に佇む万野慎吾の姿があった。
狙撃の構えを取るなぎさを残し、朔羅と絹枝、赤羽は手摺りを飛び越えて階下に降り立つ。
「来たか」
万野が振り返った。冷ややかな表情の中にはどこか余裕が見て取れる。まるで朔羅たちが現れた事などどうでもいいとでも言うかのようである。
「なかなかいいお出迎えだったぜ。俺たちがここへ来るのはお見通しだったってわけか?」
赤羽の問いに、万野は僅かに鼻を鳴らした。
「愚問だな。ここに全てを見通す眼があるのを忘れたか」
万野は肩越しに樹理を振り返る。それだけで赤羽は察しがいったようで「ふぅーっ」と息を吐いた。
だがその罠を潜りぬけてきた朔羅たちを見て尚この余裕、どうやらあの刺客たちも彼にとっては捨て駒同然であるようだった。
「『黒翼機関』のあの兄ちゃんも、てめぇの差し金か」
「いや。彼らには『ガーデン』への潜入を手引きしてもらっただけだ。報酬として『ガーデン』の超能力者たちの身柄と、『ラグナロク』を提供する代わりにな。私は帰ってもらって結構だと言ったのだが。所詮は戦闘狂の集まり、自ら勇んで出て行ったよ」
『黒翼機関』とは所詮ビジネスライクな関係に過ぎない。なるほど、では彼が朔羅たちの侵入を全力で阻止しようとしなかったのも頷ける。
「そうかい。じゃあ、最後にもう一つ聞かせてもらうぜ。てめぇは自分の娘をどうするつもりだ?」
「私の研究はまだ終わっていない。ミステリアスアイ・プロジェクトは既に破綻したが、私はまだあれを終わらせるつもりはない。娘を見つけるのに時間は掛かったが、まさかあの『ガーデン』に隠すとはな。本当に、上手くやってくれたよ」
その眼光が一瞬にして全く別のものに変貌する。赤羽を真っ直ぐに見つめるその視線に見て取れるのは、煮え滾る程の怒りだ。彼は憤怒を以って赤羽に相対している。
一体、何故。万野がこれ程までの憎悪を向ける相手。
「そんなもので素顔を隠したままここまでやって来るとはな。まさか
声を荒げる万野が大きく床を踏みつける。大きく床が揺れ、突然の振動に朔羅たちの足が掬われる。
体勢を崩した所で、赤羽へ向けて虚空から石の礫が降り注ぐ。超人的な体捌きでこれを回避しようと試みた彼だったが、流石にこの体勢からでは全ての石礫を避けるのは不可能であった。足を霞めて赤羽が倒れた所へ本命の礫が彼のバイザーを直撃した。
バイザーが割れる。
赤羽の素顔が晒される。
絹枝は目を見開いて彼を見ていた。
「さあ、ようやく素顔で娘と対面した気分はどうだ。鞘上弦一郎!!」
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