Chapter 4-5
違う。
「ほら、ほらほら、ほらほらほらほらほらほらほらぁああああっ! 違わないよ! あんたも私と同じ! 脳味噌の腐り切った人殺しなんだよぉおお!」
違う、違う。
「人殺しなら人殺しらしく、私を殺してみせろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「私は違う! 違います!!」
がむしゃらに振り回したような型も何もない横振りの鉈を、朔羅は処刑鎌の刃で受け止める。さきほどは完全に力負けしていたそれを、今度は渾身の力で弾き返す。
「違う、違うんです……! 私は、私は……」
だが朔羅はその反動によろめきながら、膝から崩れ落ちてしまう。
認めたくない。けれど、事実なのは自分が一番わかっている。否定する言葉はもはやただのうわごとでしかない。
屋上の床にへたり込んでしまった朔羅を前に、樹理は鉈を乱暴に床へ叩き付けた。
「あは、あはははは。そんなに自分の過去が気に入らないんだ。でもわかってるんでしょ? あんたがどんだけ否定したって変わらないってこと。あんたがやってきたことも! あんたのせいで死んだ人だって生き返ったりはしないんだよ!」
わかっていても。彼女の言葉が突き刺さり、朔羅の目に涙が溢れてくる。
自分の過去は決して変わりはしない。犠牲になった人間も戻っては来ない。
自分が消してしまった人々の顔。親しかった友人、クラスメイト、担任の先生、そして両親。みんな私が消した。私が殺してしまった。
「私は……人殺し……」
朔羅の呟きに、樹理は目ざとく反応する。
「なんだ、やっと認める気になった? そうだよ、あんたは人殺しだ! 何もかもを消してしまえるような根っからの殺人鬼が、調子に乗って人間ぶってるんじゃないよ!」
涙を流しながら、朔羅の口許に笑みが浮かぶ。そうか。私は人殺しなんだ。だったら。
「さあ、おいでよ『神隠しの踊り子』! その力でさ、私もあんたの大切な友達も、みーんな消しちゃおうよ!」
こんな世界、全部消してしまっても――。
「――朔羅!!」
叩き付けてくるかのような怒声に、壊れかけていた朔羅の意識は現実へ呼び戻された。見上げればそこには、振り落とされる電撃の斧があった。まるで神の裁きのようだった。この雷が私を断罪してくれると言うのならそれもいいかもしれない。
だが雷が狙いを定めたのは朔羅ではない。樹理へ向かって急降下する斧の一撃は、躱されはしたものの屋上の床を大きく穿つ。
「あんたは……」
樹理の問いに、答えは返ってこなかった。
なぎさは髪をかき上げながら朔羅の前に立つ。樹理を真正面から見据え、その身体には漏れ出るように電撃がスパークしていた。
「ふーん。大切なオトモダチって訳。あははっ! いいよ、相手になったげるよ!」
樹理は再び鉈を持ち上げ、軽々と肩に担ぐ。
なぎさは指先を弾いた。そこからスパークした電気が幾重にも折り重なり、彼女の手元でバスケットボール大の球体を形成した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます