Chapter 3-4

 驚く朔羅に、赤羽が「ふぅーっ」と息を吐く。


「あまり無礼なことを言うなよ。この方はシオン・クロスロード老師。かの五大英雄のお一人なんだからな」

「変に持ち上げるでないわ、弦一郎。ほれ、今度は萎縮してしまっておる」

「ごっ、ごっ、五大英雄……!! はわわわわ」


 まあよい、と喋る黒猫――もとい、シオン老師は近くの椅子に飛び乗る。


「お主らがこのアトリエの今の主だな。お勤めご苦労。これからは鞘上のと協力して運営してもらいたい」

「あっ、はい、わかりました! ……そういえば、絹枝ちゃんって、なんの魔法が使えるんですか?」


 そういえば聞くのを忘れていた。

 このアトリエに来るからには魔法使いなのだとは思っていたが、その詳細は昨日のごたごたもあって聞けずじまいだった。


「なんだ、聞いておらんのか。こやつの持つ眼は千里眼でな。赤羽サツキの娘なのだよ」

「へぇ、千里眼なんだ。それでサツキさんの娘……て、うええええええええ!?」


 またも驚く朔羅に、絹枝が首を傾げながら応える。


「改めて、よろしく、ね?」


     ※     ※     ※


 夕食後、赤羽は屋外で煙草に火を点けていた。隣にはシオン老師の姿もある。朔羅たちは夕食の後片付けをしていた。

 赤羽の吐く煙が、夜の帳の中へ消えていく。


「ふぅーっ。さて、自分は例の三人の見舞いに行ってきます。無事を確かめるのと合わせて、色々と事情を訊かなきゃならんようですからね」

「わかった。気を付けてな」


 ええ、と赤羽は返事をしながら、携帯灰皿を取り出して煙草の火を消す。

 そのまま彼は歩き出そうとする。だが、何か思う事があるのか、ふと立ち止まった。


「……改めて、あの子をよろしくお願いします」

「ふん、それはあの子たちに言えばよかろう」


 シオン老師がそっぽを向くのを見て、赤羽は今度こそ『螺旋の環』を後にした。

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