Chapter 2-5
超能力者。それは最近、世間をにわかに賑わせている存在だ。
いつ頃からだっただろうか。超能力者でもないと起こせないような事件・事故が起こるようになったのは。
それがワイドショーで一度、大々的に取り上げられたことがあった。半ばオカルトじみた話だったので、反響は様々だったようで、以降テレビでは似たような言論は鳴りを潜めた。
が、それが逆に話題性を煽ることになってしまい、ネット上では以来、超能力者の四文字を見ない日はないというほどのトレンドと化したのだった。
「超能力者ね……。本当かどうかも怪しいけれど、噂になっているだけでも私たちにとっては大問題だわ」
結局、何も聞けぬまま予鈴が鳴り、京太はさっさと屋上から去ってしまった。仕方なく朔羅も教室へ戻り、午後の授業を終えてホームルームとなるまでの合間に、なぎさと超能力者の話をして今に至る。
やがて臨時の担任教師、赤羽が教室に現れ、ホームルームが始まった。
「知っている者もいると思うが、先日この近辺で殺人事件があった。犯人はまだ捕まっていない事もあって、今日は部活や委員会を全て自粛してもらうことになった」
赤羽の言葉に教室中が僅かにざわめく。部活が休みとなった事に喜ぶ者や、事件に関して知らない者に朝のニュースの件を伝える者。色めき立つ、と言った方が正しいか。
不謹慎かもしれないが、大半の者が現実味を感じていないのだから、目先のメリットや事件への興味が先に立つのも当然と言えた。
「ふぅーっ。俺からしてみりゃ、ここで超能力者絡みの事件が起こるってだけで大問題だと思うがねぇ……。ま、若い子たちにとっちゃそうでもないって事か」
誰にともなく赤羽は呟き、
「という訳でだ、ホームルームが終わったら全員、すぐに下校してくれ。寄り道はできるだけ止めてくれよ?」
「はーい!」
返事だけはいいな、と赤羽にツッコまれつつ、ホームルームが終わった。赤羽が教室から去ると、どこに寄って行こうと友人に声を掛ける者が出始めるのはご愛嬌か。
朔羅としては、絹枝の元へ最速で帰れる喜び半分、超能力者という脅威に対する純粋な危機感半分と言った所である。魔法使いと超能力者の関係を考えれば、自分が一般人と同じような感覚ではいられない。
とは言え、自分にできる事がある訳でもない。朔羅はなぎさと連れ立って、真っ直ぐ帰宅しようと教室を出る。
「あれって……」
昇降口まで降りてきた所で、朔羅は前方を歩く生徒たちの中に、朝の一件で被害者だった三人の姿を見付けた。もう一人、朝はいなかった生徒と帰路を共にしている。
「なぎさ、追っかけよう」
「そう言うと思ってた所よ」
二人は揃って校門を潜り、左へ向かった。もちろん、帰り道とは真逆の方角だった。
※ ※ ※
龍伽を含めたこの近辺の地域は、
故に、通勤や通学による地下鉄の利用者が非常に多く、路線別の年間利用者数も飛び抜けている。特に帰宅ラッシュの満員電車が、この辺りの駅を越えると一気に空く光景はある種、圧巻かもしれない。
地下鉄の駅を中心とした大通りににはスーパーや飲食店、病院に銀行などの施設が立ち並び、少し離れればテナント入りの高層マンションが軒を連ねる。更に離れれば、平屋や公園、保育施設に学校と、街の様子は閑静な姿へと変わっていく。
ただ、今日に限ってはその静けさも意味合いが違うようだ。
波及している。
静かだからこそ空気に混ざった異変に敏感なのか。どこかに殺人犯が紛れ込んでいるという得体の知れない恐ろしさが、街を静まり返らせている。学校を出た生徒たちも皆、次第にこの空気に気付き、大なり小なり危機感を覚えるだろう。
そんな中、朔羅たちはベッドタウンから離れつつあった。郊外の更に外側ともなれば、自然と緑が多く、整備も行き届いていない区画となっていく。朔羅はあまり詳しくはないが、確かこの辺りは潰れた工場跡ばかりがあったように思う。
一体こんな所に何の用があるというのか。速やかに帰宅を言い渡されたのは彼らも同じ筈だ。
やがて、辿り着いたのは廃工場だった。老朽化したトタンは錆びて剥がれ、使われなくなってからどれだけの時間が経っているのか。四人は工場の中に消えた。
朔羅となぎさは、離れの小屋の脇からその様子をうかがう。キナ臭さが増してきた事態に、どう対応すべきかと考えあぐねていると、
「できるだけ、とは言ったが関心はしないな」
「ひゃうっ!?」
低く唸るような声が背後から投げ掛けられ、朔羅は思わず声を上げた。
「しっ。中の四人に気付かれたくはないだろう」
振り向くと、そこにいたのは赤羽だった。バイザーに覆われた目は見えないが、その表情には険しさが漂っていた。
「済みません。生徒会長としては放って置けないだろうと判断したので」
「それはお勤めご苦労様。だが、ここまで危ない橋を渡らなきゃならん程、ここの校風は生徒主動だったかね」
「そういう訳でもありませんけど。……先生は以前にもウチの学校にいた事があるんですか?」
窘めるように言葉を紡ぐ赤羽に対し、迫力に呑まれもせずなぎさが問う。
「ああ。生徒だった事も、教師だった事もある。臨時でまた教師をやることになったがな。だからこそ言っておくが、突っ走り過ぎだ。後は俺に任せて、君たちは早く帰るんだ」
赤羽が強く諭す、
瞬間だった。
轟音と共に周囲一帯に振動が走った。三人はそれに足を取られ、体勢を崩す。振動は一瞬で収まったが、音がしたのは明らかに工場内からだった。一体何が起こったと言うのか。
「くっ……! お前らは早く帰れ!」
だが、赤羽が制止の声を掛ける前から、朔羅は既に動き出していた。立ち上がると物陰から飛び出し、廃工場へと駆ける。
「朔羅!」
「待てって言ってんだろうが!!」
焦る声と共になぎさが、怒号と共に赤羽が続いた。
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