Chapter 1-5

 車の中で、少女は目を強く瞬かせる。だが、見えるものに何ら変わりはない。


「ちょっと。視えなくなったんだけど」

「当然だ。あれは赤羽先生の作り上げた世界最高峰の魔術結界だからな。どこにいるのかさえ分かれば充分だ」


 運転席に座る男の言葉に苛立ちを覚えながら、少女は錠剤を噛み砕き、生返事をする。


「それで、あいつを捕まえて、あんたはどうするつもりなの?」


 少女に問われると、男は眉根を寄せた。険の強い容貌が、更に険しくなる。

 だがそれは、少女の問いに対してではない。


「なに、返してもらいに行くだけだ。あの眼は本来、お前のものなのだからな」


 憎悪。

 男の表情に現れた感情を読み取った少女は、窓の外に視線を投げる。


「じゃあ、あんたはあいつを殺したいんだ」

「いや。生死には興味はない。だが生き残れた所で、ホルマリン漬けの標本にしかなるまい。ならばいっそ、殺してやった方が救われるかもしれんな」

「そう――」


 窓に映る自分の顔に、笑みが零れるのを視て、少女は歓喜する。


「なら、あたしの好きにさせてもらうからね」

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