外伝 魔法使いになりたいから
Chapter1 チルドレン
Chapter 1-1
身体が熱い。右目が痛む。痛みと熱は比例していた。眼球の痛みが増す程、体は焼けるように熱を帯びていく。逆もまた然りだ。
衣服は焼け爛れ、見え隠れする素肌は傷だらけであった。右足には最早感覚がなく、引き摺りながらしか歩けない。幸い出血量は少ないようだが、それでも流れ落ちた血の跡が歩いてきた道程を示すかのように点々と続いている。
少女は薄暗い地下通路を、そんな状態であるにも関わらずたった一人で歩いていた。年齢は十七・八くらいだろうか。長い黒髪は乱れ、その生来の美しさを酷く損なっていた。穏やかで整っている筈の顔立ちは、今は苦痛に歪んでいた。
足取りは酷く重く、壁に肩を預けながら懸命に歩き続けていた。自分がどこへ向かっているのかも、どこへ向かえばいいのかも分からないまま、痛みに顔をしかめ、息を切らせながら歩く。
身体が熱い。
右目の痛みは治まる所か増していく。網膜から身体全体へと響く鼓動のような痛みは、やがて鍼か何かで抉られるような激痛へ変わっていく。
痛みが右目を襲うのは、彼女にとって特に珍しい事ではない。だが、これ程までの痛みは彼女にとっても初めての経験だった。痛むのはもはや目だけでは済まない。彼女の中に流れ込んでくる暴力的な何かが彼女の心を痛めつけていく。
その目は、そういう類の代物だった。
「――――――――――――――――ッ!!」
声にならない悲鳴を上げる。痛みに耐え切れず立ち止まった彼女は、壁に預けた肩から滑り落ちるかのようにその場に蹲った。
息を整える余裕もない。壁に背中を付けて座り込む。
――私、死ぬの、かな。
誰もいない。昏い地下通路に彼女以外の姿はない。彼女を救助できるような者はどこにもいなかった。彼女にはもう、立ち上がるだけの力は残されていない。痛みの中、彼女の意識は薄れていく。
だが忽然として、彼女の前に現れた人影があった。もはや衰弱しきった彼女がそれに気付いたかどうかは定かではないが、その人影はまるで彼女がこんな状態になるまで登場を控えていたかのようなタイミングで現れた。
彼女を見下ろす人影の表情は窺い知れない。口を開いて呟いたのは、たったの一言だった。
「死なせはしないさ」
その声は彼女に聞こえたかどうか。
意識を失う寸前、最後に思い浮かべたのはたったひとりの妹の姿だった。
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